午前三時のルースター
2020.01.04 Saturday
先月、病院帰りに立ち寄った市の中心部にある老舗書店で何か面白い本はないかなぁ、と物色していたら、”もう絶版にはさせません”という手書きのポップとともに平積みされていました。
作家の名前は知っているけれど、読んだことはないなぁと思いパラパラとめくってみたら何だか面白そうだったので購入。
垣根涼介『午前三時のルースター』(文春文庫)
副作用で寝っ転がっている間に少しずつ読み進め2日くらいで読んでしまいました。あまり読んだことがないジャンルの話でしたが、すこぶる面白い!しかも読み終わった後が何だかとっても爽やか。決して胸がすくような話ではないのだけれど、読後感が清々しい。
簡単なストーリーは、文庫版の裏から拝借です。
旅行代理店に勤務する長瀬は、得意先の中西社長の孫の慎一郎のベトナム行きに付き添ってほしいという依頼を受ける。慎一郎の本当の目的は、家族に内緒で、失踪した父親の消息をたずねることだった。
現地の娼婦・メイや運転手。ビエンと共に父親を捜す一行を何者かが妨害する……最後に辿りついた切ない真実とは。
物語としてはそんなに奇想天外ではないけれど、文章のテンポが心地よく登場人物がそれぞれ個性的で、次はどうなるのかな?と思っているうちに最後まで来てしまいました。
個人的には、あらすじに出て来ない中西と少年の道中に無理やり同行した、中西の同級生で強烈に変わり者な源内がとても魅力的でいい味を出しています。源内って「殿さま風来坊旅」の源内先生を連想してしまいましたが(苦笑)、あんな感じでフラフラしてるようで意外と役に立つ面も多く、メイ、ビエンとともに根幹の物語に枝葉のように色んな魅力を添えてくれた人物でとっても気に入りました。
現実にあぁいう風に生きるのは無理ですが、ちょっと羨ましくなりました。少年が向き合わなければならなかった現実は、かなり残酷で過酷なものだけれど、物語全体にすーっと通っている涼風のようなもののおかげで暗くジメジメとした印象にならないのが気持ちいい!
こんなの現実にありえるはずないよ、と言ってしまうのは簡単だけれど、私が知らないだけでこういうことは人知れず実際にあるのかも、と思わせる上手さにすっかりやられてしまいました。
本書では、車オタクであることが功を奏するのですが、自他ともに認める車オンチなので何度読み返しても車の性能に関してはちんぷんかんぷんでしたが(汗)。他人から見ればしょうもないことであっても、何かを突き詰めるほど極めたり、嵌ったりすることは、芸は身を助くのようになることもあるんだなぁと。もちろん役に立たないことの方がきっと多いんだろうけれど、見知らぬ他人同士がいきなり意気投合するあの瞬間は、読んでいてとても気持ち良かったです。
ちなみに本作は第17回サントリーミステリー大賞の受賞作だそうで。
この作品が世に出たのは2000年、世の中がミレニアムミレニアム、2000年問題と大騒ぎしていた頃。
それがいつの間にか絶版になっていたのが復活したそうで。絶版までのサイクルの短さに驚くとともに、再販を働きかけてくれた方、ポップで熱く推薦してくれた書店員さん、ありがとうです。
スティグマータ
2019.05.02 Thursday
お休みに入ってからずっと雨だったり、曇っていてもどうにも肌寒く。
とても5月と思えない気温が続いていましたが、今日はようやく5月らしい気持ちい気候になりました。
明日あさっては音楽祭でウロウロするので寒いと困るなーと思っていましたが、これなら縮こまることもなくのんびり楽しめそうです。
さて、先日に引き続きためていた本の紹介など。
近藤史恵『スティグマータ』。
10年以上前にたまたま出会って以来、大大大大好きな『サクリファイス』シリーズの最新刊。またまた病院近くの書店で今月の新刊コーナーに並んでいたのを見た瞬間、即買いでした。
『サクリファイス』『エデン』『サヴァイブ』、1つだけ大学の自転車部を描いた『キアズマ』を挟んでシリーズ5作目。
もう次のシリーズは読めないのかなぁと半ば諦めかけていたところだったので本当に嬉しい!
『エデン』でヨーロッパへ渡り、ミッコ・コルホネンのアシストとして働いた白石は今度はニコラのアシストとしてツールを走る、というそれだけでワクワクする展開。密かにミッコのファンだったので別のチームになってしまったのは残念ですが、ミッコもちゃんと出て来るのが嬉しい。
そして今回は、とうとう伊庭が白石に続きツールにスプリンターとして参戦。
自転車レースの話なので、毎回ドーピングに絡んだ物語になりますが、今回は3度の優勝を飾りながらもドーピングで自転車界を去ったスター、メネンコが突然復帰。彼を巡り不穏な動きに包まれるロードレース界。
『エデン』は各レースのコースの特徴や展開をこれでもか、と描いて読みながら一緒に走っているかのような気分を味わいましたが、今回も同じツールが舞台ですが、レース展開そのものよりも選手間のやり取りや駆け引きといった会話や駆け引きの要素が濃くなった分、各登場人物の意外な面が見られたり、成長したお馴染みの選手達の人となりが、より身近に感じられます。
互いに大人になった分以前よりフランクな付き合いになった白石と伊庭のやり取りが楽しいです。
あと、これまでエースとして君臨してきたミッコが、若手の力を認めてアシストに回るくだりが感慨深く。この時のミッコと白石のやり取りがこれまでのことを思い出して感無量でした。
このシリーズ好きすぎて、ちゃんとした感想が書けません(苦笑)。
長編もいいのですが、石尾と赤城が若かった頃や、白石がスペインのチームにいた頃の話を纏めた『サヴァイブ』が最高に面白い!
登場人物と自転車レースの魅力が短い短編の中にぎゅっと詰まっていて、一時期よくもまぁそんなに毎晩飽きもせずに読めるものだ、と自分でも思うくらい来る日も来る日も読んでました。
これまでは走る喜びに満ちていた白石もベテラン選手となり、あと何年走れるだろうか? と自問自答する姿にかつての赤城が重なります。
恐らくこのシリーズはまだ続くとは思うのですが、もしかしたら次作では『キアズマ』の登場人物がプロになり、赤城監督、白石コーチというチームになるのかも。
それはそれで楽しいけれど。もう少し本場の自転車レースの世界を覗いていたいなという気もします。
彼らが日本へ帰る前に、伊庭のアシストをする白石がニコラ達に挑むというのも見てみたいけれど。ヨーロッパの同じチームに日本人が2人というのはあり得ないので厳しいかな。
ノースライト
2019.04.29 Monday
お休み中なので今年初めから春にかけて読んだ中で特に面白かった本の感想など。
横山秀夫『ノースライト』
病院帰りに立ち寄った書店で2月下旬に発売、のポップを目にして久しぶりに新刊が出るのかーとその場で予約しました。
SNSで読みたい本を予約購入することが街の本屋さんを救う一歩になる、という書店員の呟きを見て以来、実践しなくちゃ(←影響されやすい)と思っていたとこに漸くチャンスがやってきて嬉しかったです。
それはさておき。
横山秀夫と言えば警察小説の印象が強いですが、この本は”横山ミステリー史上最も美しい謎”というキャッチコピーでそれまでの作品とは一線を画す内容でした。
一家はどこへ消えたのか?空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか?
一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに……。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば。このY邸でいったい何が起きたのか?
帯に記されたあらすじを読んだ時は高村薫や宮部みゆきのような読後にずしりとくるような陰惨な事件を想像して読み始めたのですが。
主人公青瀬の行動を通じて、彼の人となりやこれまで歩んできた道のりが次第に明らかになると同時に本流である謎解き=依頼人一家はどこへ消えたのか? ということに少し近づいたと見せかけて、別の疑問何故タウトの椅子だけが残されたのか?が浮上。このタウトの椅子を巡っての探索がとても面白かったです。
青瀬の職業柄、建築士とはどんなことをする人なのか、という普段の生活では知り得ないことも細かな描写により、まるで傍でじっと観察しているように浮かび上がってきました。読み進めるうちに依頼人からの要望を聞く、という大きな違いはあるものの、建築士と作家はともに何もないところに緻密で壮大なストーリーを作り上げていく、という部分に置いて通じるものがあるのかもしれない気がしました。
青瀬は非常に優秀な建築士ですが、1人の人間としてみると凸凹だらけのとても不器用です。彼の上司や部下、事件を通じて関わってくる人物誰一人をとってみても皆それぞれに欠点や出口が見えない悩みを抱えています。謎を追いかける過程で様々な出来事が起こり、中にはとても悲しいこともあるけれど。底流にはずっと暖かなうねりがあっちこっちに蛇行しながら続いている。そんな気がしました。
キーとなる家を訪れた時の”ノースライト”を含めた描写が美しく、実際に住むのは嫌だけど(苦笑)本当にこんな家があるのなら見てみたい、と思いました。
すべての謎が解き明かされた時、青瀬の行く手にも新しい光が射しこんでくるラストは静かにじーんときます。
とてもいい話を読んだなぁ、という満足感に包まれました。
と、ここで終わっておけばいいのですが。最初に読み終えてすぐに再読し、細かな部分の繋がりになるほどなーと感心した後にふと思ったことは。
横山氏が女性だったら、きっとこの結末にはならないのでは? でした。壊れた壊してしまったつながりが様々な出来事を経て再生する(ように見える)、という話は萩原浩 の作品でもありましたが。
女性は覆水盆に返らず、の言葉通り希望が見える結末であっても過去を踏まえた上で別の道へ行く、もしくは希望そのものをそれほど持たせない、というものが多い気がします。
あくまでも私の狭〜い読書範囲の中で感じたことなので、そうでない場合や逆のケースも多々ありますが(^^ゞ。
葬送
2019.01.18 Friday
年始のお休みより以前から読みたいと思っていた平野啓一郎の『葬送』を読み始め10日近くかかって読み終えました。
私は昔から本を読むのが早く大抵の本は1日もしくは2日で読み終えるのですが、平野氏の作品はそんな自称速読な私でも何故かいつも時間がかかります。
高村薫作品と同じくらいの読むのに力がいる作家です。
比較的読みやすい『空白を満たしなさい』でも3日くらいかかりました。
それはともかく。『葬送』は19世紀半ばのパリを舞台にショパンの晩年と彼を取り巻く社交界を描いた小説です。
単行本で上下2冊、文庫本だと1部2部ともに上下構成の計4巻からなる大作です。1ページにこれでもか、というくらいぎっしり文字が詰まっているため、今日はこの章までと区切るろうとしてもかなりの量になり、なかなか難しかったです。
ショパンは言わずと知れた19世紀に活躍したポーランドを代表する作曲家でありピアニスト。ピアノを齧ったことがある人ならば、弾いたことはなくてもワルツやノクターン等耳にしたことがある曲が必ずあるはず。
モーツァルトやベートーヴェンについては、子供の頃から伝記を読んだり、もう少し成長してからはロマン・ロランの小説や映画等でその人となりを大まかに知っていますが、ショパンについては若死にしたこととポーランド人であること、恋人の名前がジョルジュ・サンド、くらいの知識しかなく(汗)。
この小説でそうだったのか、と思うところが沢山ありました。
ショパンが題材ですが、彼だけでなく親友のシャルル・ドラクロワと2人が主人公のように半々で描かれています。
単なる伝記モノではなく、実在の人物たちが本当に話し、動き回り、音楽を奏で、絵を描いているかのように錯覚してしまうくらい綿密に作り込まれていて、本物のショパンやドラクロワと対峙している気持ちになりました。
モーツァルトは兎も角、クラシックの大家達はベートーヴェンを筆頭に暮らしが困窮しているイメージがありましたが、ショパンの暮らしぶりはブルジョワジーに近く、それなりに贅沢だったのが意外というか驚きでした。
ショパンとリスト、どちらも黒鍵と装飾音をやたら好む作曲家、と同じくくりで勝手に捉えていましたが、ショパンからすると相いれない音楽性なのが意外なようで、人となりを理解してみると納得でした。2人ともピアノの名手ですが、リストはショパンの楽曲はおろかモーツァルトですら、勝手に余計な装飾音を入れて弾く、という表現が可笑しかったです。
あとリストはとにかくバカでかい音で弾く、というのもあの指が20本くらいないと弾けそうにない楽曲を考えても、さもありなんです。
本書を読んで思ったのは、ベルリオーズはこきおろされ、ベートーヴェンも「田園」以外はあまりお好きでなさそうなのだから、ショパンがマーラーを聴いたならば、どんな反応をするのか見てみたかったです。
ジョルジュ・サンドとの関係は、本人は恋人と思っているかもしれないけれど、一読者から見ると恋人というよりは愛人もしくはパトロンに近い印象です。ドラクロワの愛人であるフォルジュ夫人も同様です。
ただし、人としてのジョルジュ・サンド親子はとても苦手な部類なため、しばらくはショパンは一体この女のどこに惹かれたんだろう? と不思議かついらいらする部分もありました。
ドラクロワが下院図書館の天井画を完成させていくくだりと、パリのサロンで開かれたショパンのほぼ最後の演奏会のくだりは圧巻でした。
読み進めていくうちにドラクロワの人柄にすっかり惹きこまれてしまい、ルーヴルに作品を見に行きたくなりました。
ドラクロワはヴァカンスに出掛け、親友であるショパンの死に目には会えないというか自らそれを避けた節があり、彼自身が自問するくだりがとても好きです。
ショパンの演奏会、小説家は音楽をこんな風に表現するのか、と感嘆しきりでした。この本を読んだ多くの読者同様、読むのを中断して演奏会のプログラム通りに曲を聴いてみました。プログラムは作者がこうではないか、こうだったらいいなと想像して選曲したそうですが、これが絶妙な曲順で本当にこんな風に演奏されたら私も聴きたいっと切に思います。
煌びやかで派手なイメージがあり、巷で演奏されるものを耳にするときもけっこうな音量でバーンと弾いていることが多いですが、ショパン本人はもっと繊細で柔らかなそれこそ囁くような音量で弾いている、ということを知り、老齢の大家がアンコールで弾く小品がまさにそんな感じで。作曲者の意図を最大限に解釈しての演奏なんだな、と遅まきながら納得でした。
あとマズルカ、日本人には難しい独特なリズムはフランス人でも微妙なニュアンスが異なり完璧に弾きこなせるのはポーランド人のみなのかーと。
ロシア、フランス、ポーランドのピアニストで聴き比べてみたいと思います。
馴染みのある音楽家がちょこちょこ出てきて、ショパンとの関係性がそうだったのかという部分が多々あり、この人とこの人は同時代、彼はこの時代と一気に音楽家の時系列が繋がったのが楽しかったです。
ショパンによるベルリオーズ評には笑いました。本書を書くにあたり、作者はフランス語を勉強し直し膨大な数の書簡や書物を調べたそうなので、小説ではあるけれどショパンの芸術家仲間に対する評価は概ね小説での台詞通りなのかな、と思います。
ドラクロワが自身の天才さ故に友人の美術家と、心の奥底ではすれ違ってしまうのがやるせないです。しかし、彼に限らずその道の天才と言われる人々は、多かれ少なかれ自身が抱える孤独と戦っているのだろうな、と思います。
冒頭いきなりショパンの葬儀のシーンから始まり、色んな人物が入り乱れて登場するため、少々わかりにくいのですが、全ての人物を把握した今、再び冒頭から読み返すと新たな発見があると思うので、少しずつ再読していこうかな。
寒いので暫くピアノに触れていませんが、もう少し暖かくなったら、これまでとは違った思いでショパンを弾いてみたいと思います。
ブラックボックス
2018.09.30 Sunday
無性にささっと読めるものではない、後味が悪い小説が読みたくなり。
先週末にネットで表題の小説を見つけ、書店を3軒まわってようやく見つけました。
篠田節子『ブラックボックス』
真夜中のサラダ工場、最先端のハイテク農場、地産地消を目指す学校給食……「安全安心」を謳う「食」の現場でいま何が起きているのか。利益追求と科学技術への過信の果てに表れる闇を、徹底した取材と一流のサスペンスで描くエンターテインメント超大作。文庫本裏表紙より
590頁超の分厚さで、見つけた時にうわっと思いましたが休日だったことと、先の展開が気になり1日で読み終えてしまいました。
後味の悪さを期待しての読書でしたが、色々考えさせられることはあっても後味はさほど悪くなかったです。
この小説ではオーガニックを売りにするカット野菜サラダを製造する工場が舞台ですが、想像以上に過酷な労働環境に驚きました。
綿密な取材を行った上で書かれているので、恐らく実態にほぼ近いのだと思うのですが、チェーン店などに流通している食材も普通の会社勤め人からすれば信じられないような環境で働かされている人たちによって支えられていることに愕然としました。
小説の肝は、あらすじにもあるように食の安全です。それももちろん怖さを感じたのですが、工場で働くフィリピーナをはじめとする外国人労働者の方が印象に残りました。エリートコースから転落し、身分を隠して働かざるを得ない主人公・栄美からすれば、信じられないような低賃金で働く彼女達がコツコツ貯めたお金がフィリピンでは家を建てることが出来るという事実。
研修生としてやって来る彼女たちの研修の中身を知った栄美が漏らした「それのどこが研修なの?」という問いに「私たちは働きに来ているのよ。日本で学ぶことなんかひとつもないわ」という大学を出てやって来たマリアの答えが突き刺さります。
工場ではセクハラ、パワハラも当たり前のようにあり、栄美の目から見ればセクハラだと怒りを覚えることも、フィリピン人側では以前の職場にいた日本人とは比べものにならないくらい、片岡さんは優しいしニュートリションの環境はいい、と彼女たちに言わせてしまうことに頭を抱えたくなりました。
それでも、物語の後半でそんな自分の思いは所詮豊かな国に暮らす側からの一方的な視点でしかない、ということを思い知らされる描写があり、そこでもまた色々考えさせられます。
一貫して嫌な人間として描かれる片岡ですが、彼にも抱えている闇があり、案外人を見る目は確かなところも明かされ、彼のやり方を肯定も共感も出来ないけれど企業人としては一定の評価を得るだろうな、と納得です。
ここに書かれていることすべてが本当のことではないだろうけれど。近年、子供達に以前では想像も出来なかった食物アレルギーがあちこちで散見している理由の一端を見たようで、それがものすごく怖かったです。
スーパーで売られているカット野菜はとても便利ですが、やっぱり採れたての野菜は多少不格好でも味が全然違います。
いつの頃からか、トマトやキュウリ等本来は夏の食べ物だったものが当たり前のように1年中食べられるようになりました。
「一日に多品目を食べる必要はありません。旬のものを食べることで、一年を通じて自然にバランスが取れていくのです」
栄養士である聖子の台詞のような食生活がごく普通に出来るようになってほしいけれど。この先の未来は恐らくもっと真っ暗になっていくんだろうな、としか思えないのが残念です。
音叉
2018.07.22 Sunday
連日、猛烈な暑さが続いて帰宅するとへろへろです。
今日の昼間、外出時に表示されている温度計が35℃になってました(^^A
今年の夏は暑いです、と長期予報が春頃出ていましたが、まさかここまで暑くなるとは(とほほ)。
ほとんどの方がそうだと思いますが、今まで生きてきて間違いなく一番の猛暑です。7月でこれだけ熱い(もはや暑いを通り越して文字通り熱いですね)と8月はどうなるんだろう? と思ってしまいます。
そんなにたくさん海外旅行をしたわけではないけれど。今まで時差ボケというものを経験したことがありません。これまでアメリカ圏内に行ったことはなく、日本より東といえばオーストラリアしか経験がなく。専ら西の地域で。東に行くほうが時差ボケがしんどい、と聞いていましたが。今回も、しないんじゃないかなぁと勝手な自信をもっていたのですが。帰ってきてから暑さと疲れで夜更かしが出来ずに早くに寝てぐっすり、はあっても昼間の変な時間に眠くて仕方がないいわゆる時差ボケは全くありませんでした。
滞在期間が短かったのもあると思うけれど。どこの国へ行っても着いた途端にその国時間で活動し始めるからなのかな?
そういえば、以前は到着すると時計をその国の時間に合わせて変更していましたが、今回はスマホを時計代わりにするからと腕時計もせずに行き、時刻はスマホを見て時差分計算すればいいやと思っていたら……。
着いてから入国審査の列に並びながら、スマホを取り出したらあらまびっくり!
なんと時刻がちゃんと現地時間で表示されているではないですかっ。
帰りは成田に到着してスマホの電源を入れたら、またちゃんと日本時間に戻っていてすごい時代になったんだなーと感心してしまいました。
さて。今週水曜日から4日間かけて毎晩少しずつ表題の本を読み進めて昨夜ようやく読み終わりました。
今月13日に発売になった、高見澤俊彦さん初の小説『音叉』。
去年の夏頃にオール読物で連載が始まった時は、ちょっと読んでみようかなーと思っていたのですが、何となく読みそびれているうちにま、いっかーとなり。書籍化されるというニュースを聞いた時もふ〜ん、という感じで。そのうち機会があればくらいに思っていたところ。なんと家族がいそいそと購入し、旅行から帰ったら机の上にでーんと置いてありました(苦笑)。
帰国の翌日は流石に疲れて本を読む気力がなく、翌日から読み始めたのですが。
私はけっこう本を読むのが早く。特に面白いと続きが気になって寝る間を惜しんで読了してしまい、翌日がとても辛くなるということを何度も繰り返してしまう悪癖の持ち主です。
が、これは読み終えるのに4日もかかってしまいました。
70年代の東京を舞台にしたプロデビューを目指す大学生の青春群像、とある通りの内容です。
どんな内容なんだろう? と期待交じりに冒頭から読み始め、すぐにうーん読みにくいなと思ってしまいました。
途中からは少し面白くなるよ、というのが一足先に読み終えた家人の言でしたが。確かにそうでした。たかみーの文体のクセにも慣れたのか、3日目くらいからは割とすんなり読み進めて「音叉」は3日で読破。4日目は書き下ろしの短編を読みました。
恐らく「音叉」を書き終えてご本人も書くことにかなり慣れたのか、書下ろし短編のほうはけっこう面白かったです。
音叉は、登場人物の行動範囲として六本木周辺や原宿、赤羽といった地域がよく出てくるのですが、地名や店の名前が出てくるばかりであまり風景描写とかそういうのがないからか、全然風景や情景が浮かんでこず(汗)。
読んでいて行ったことがなくても、情景がありありと浮かんできたり、登場人物に思いを巡らせたり、ここへ行ってみたい、あれを食べてみたいと思わせる本職の作家はやっぱり凄いんだなと改めて実感してしまいました。
話自体は最後まで読めて、後半はまぁまぁ展開が楽しみな部分もあったけれど。
ファン以外の人にお薦めはちょっと厳しいかな。
たかみー自身が好きな、最近読んだ本とかはハズレがなく面白いと思えるものが多いんだけどね。
案外、音楽とはまったくかけ離れた話の方が面白いものが出来上がったかも?
対岸の彼女
2018.05.05 Saturday
以前は面白い本に出会うとせっせとマメにブログであぁだこうだ感想を書いていましたが、ここ数年すっかり億劫になり。
読んだ直後はこの喜びを誰かに伝えようと思うのに、疲れたとか眠いとか先送りにしているうちにもういいや、となってめっきり書かなくなってしまいました。
ここ半年くらいでも何冊もこれは!と思う本との出会いはありましたが上述の理由でそういう本がたまってしまい結局そのままに。
せっかく連休なので今日は久しぶりに表題の本を取り上げてみることにします。
『対岸の彼女』角田光代著
以前から好きな作家の1人でしたが、去年急に猛烈に嵌り何冊か読み漁った中で抜群に好きな1冊です。
彼女の作品は読後に楽しい、嬉しいという気持ちになることは少ないけれど(汗)その中でこの話は読み終えると毎回、とても爽やかなすがすがしい気持ちになります。
簡単なあらすじは
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが……。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く長編傑作。文庫本裏表紙より
同い年の立場の異なる二人の女性を主人公に二人の出会いからすれ違いを描いたこの本は、小夜子の視点で綴られる現在と葵視点の過去が交互に交錯しながらストーリーが進んでいきます。
立派な書評や感想はネットのあちこちに溢れているので、毒にも薬にもならない独善的な感想になりますが。
葵パートの高校時代の部分、とても面白くて引き込まれる一方で高校でもこんなこと(スクールカーストと多くの感想に書かれていました)が起きるのか、というのが初めて読んだ時の率直な感想でした。
高校でのスクールカーストは「霧島、部活やめるってよ」でその存在らしきものを知り現代の高校生達は大変だな、と思ったのですが。自分たちが高校生だった頃も知らないだけで存在していたのか、と。この本を読んで今更ながら驚きました。
家庭の事情からカーストの最下層にされてしまったナナコの「今みんながあたしについて言ってることは、あたしの問題じゃなくあの人たちが抱えている問題。あたしの持つべき荷物じゃない。人の抱えている問題を肩代わりしていっしょに悩んでやれるほど、あたしは寛大じゃないよ」という台詞がとても心に残ります。
葵がナナコはずっと幸せな環境で大事に育てられてきたと勝手に誤解したほどのナナコの明るさの原点を見せられたようで。また、これは家族のことだけでなく、すべての人との関係に通じる言葉な気がします。
あれほど深く結び付いていた葵とナナコが、ある事件をきっかけにぷっつりとその関係も途絶えてしまったことを不思議に思っていた小夜子が、終盤ふいにその理由を理解するくだりがとても好きです。
多くの読者は、終盤の葵の父の計らいで事件以来、初めて葵とナナコが再会するシーンが落涙ポイントのようですが。泣き虫な私は意外とそこは平気で。
最後の一旦は葵の元を去ろうとした小夜子が再びその扉を叩きに行くシーンで毎回、必ず鼻の奥がつーんとしてしまうくらい大好きです。特に元々人に思いを伝えるのが苦手な小夜子が、うまく葵に真意が伝わらなかったのではないかと思い、言葉を重ねようとしてそうじゃない、ちゃんと正確に伝わってるとわかるくだりがたまらないです。
その直後の掛け合い漫才のようなやり取りが嬉しくて、人と人が出会うっていいなーとポロリと涙が零れます。
なので、病院の待合室などではそのシーンが来る前に本を閉じます(笑)。
個人的に掃除業の指導員として登場する、中里さんがとても好きです。実際に一緒に働くとなるときっと怖くて逃げだしたくなるに違いないけれど。彼女の言動を見ていると気持ちよく、仕事はきっちり頑張らなきゃと思います。
女性が主役で男性は脇役、しかも葵の父以外は全員ちょっと嫌な感じの人しか出てきませんが。毎回、読み返すたびに気になるのが葵の会社を手伝っていた木原です。葵さんのファンなんです、と言いながら最終的には葵のやり方に不満を持っていた社員を団結させてごっそり引き抜いて去っていった木原。
最初からそういう目的だったのか、本当にファンだったけれど途中からそういう目的になったのか。とても気になります。実社会でもこういうタイプの方は時々見かけますが、そういう風に立ち回る心理とはどんなものなのか?
単純にこのまま泥舟に乗り続けるよりは的な心理なのか、作中で葵が言うように会社を作るなんて簡単だと思ったからなのか。
ただ、彼が一斉に退社するように仕向けた女性達は、皆あんまり一緒に働きたくなるような人ではないので(苦笑)うまくいくのかなぁ、とかなり疑問です。それも手伝ってわざわざ後ろ足で砂をかけてまでやる行為なのかな、と思ってしまいます。
けっこう検索かけてみましたが、端役も端役な彼に着目した感想は殆どなく。物語の主題とは無関係なので当然ですが、読み返すたびにますます気になります。
年齢を重ねれば重ねるほど、自分を含めたいていの人は臆病になり、なかなか新しく”出会う”ということに抵抗を感じるようになります。
でも、そうではなくて。全く自分と交わることがないと思っていたところにも”出会い”はあってそれは必ずしも楽しいことばかりではないだろうけれど、それでもやっぱり誰かと出会うために人は生きるんだ、と思わせてくれる1冊です。
マチネの終わりに
2017.12.29 Friday
今年は色んな作家の本を読もう、という密かな目標を立て。
今まであまり読んだことがなかった作家の作品をそこそこ読んだ1年でした。夏くらいまでは桐野夏生や角田光代に嵌り、特に角田光代はかなり気に入って長編を何冊か読みましたが、どれも読みごたえがあって面白かったです。
映画化がらみで久しぶりに読んだ東野圭吾の「祈りの幕が下りるとき」も面白くて何度も読み返すくらいでした。
で、何か面白い本がないかなーと娯楽の殿堂=書店で物色していた時に目に止まったのが表題の『マチネの終わりに』。
まずタイトルに惹かれ、青と黄色の綺麗な装丁と帯にある又吉直樹さんの「この小説は是非読んでいただきたいです。」という文章に、手に取ってパラパラとめくってみると読みやすい文章でこれはいけるかも……と思いましたが、何しろハードカバーをいきなり衝動買いするのは躊躇われ。
数ヶ月間ずっと気になりつつも、11月の誕生月になり贔屓の書店のポイントカードが10倍になるというので買うなら今だっと出会ってから3ヶ月後に購入。大抵はすぐに一気読みすることが多いのですが。丁度あまり体調がよくなかったこともあり毎晩少しずつ10日ほどかけて読み終えました。
アメトーク!の読書大好き芸人の回で取り上げられ、話題になった本だそうですが。生憎と見ておらず。逆にまっさらな状態で読み進めることが出来てよかったです。
当初は大人の恋の物語との触れ込みに、恋愛モノがあまり得意でない自分は楽しめるのかな、と少々不安でしたが。
綺麗な文章で読みやすく。大人のと銘打つとおり若さで突っ走る激しい恋や純愛とも異なる、少々もどかしさも感じつつも飽きさせないストーリー展開で最後まで楽しく読むことができました。
天才ギタリスト・蒔野聡史と世界的に有名なクロアチア人の映画監督を父に持つ小峰洋子が出会い、互いに惹かれあいながらも結ばれない恋の物語です。
なんだか身も蓋もない要約ですが。日頃あまり馴染みのなりクラシックギターの世界の描写がとても興味深く。
また、洋子が蒔野や職場の上司や同僚相手と交わす豊富な語彙と知識に裏打ちされた会話がとても面白く。やや観念じみたところもあるけれど、出来過ぎる人はこんな風に物事を考えるのかと感心させられっぱなしでした。
物語上は悪役という立ち位置になる蒔野のマネージャー早苗と洋子の対比が随所でなるほどなぁと思うことが多く。最初の方で早苗が言った、この人が主役の人生の名脇役になりたい、はとても印象に残る台詞でした。
早苗が取った行動は許しがたいものだけれど、こういう人は少なからずいて。恋は盲目を地で行き過ぎた早苗が悪いのは当たり前ですが、簡単に引っかかり大事なところで押せなかった蒔野の非も大きい気がします。
洋子は魅力的な女性ですが、実際に身近にこんな人がいたら苦しいだろうなとも思います。リチャードが洋子に言った、君が正しいことをしたから尽くしたんじゃない、愛すればこそだ、は自分が彼の立場でも同じことを思う気がします。
正しさや信念だけで人は生きていけない、と思うのはきっと弱いものの勝手な理屈なんだろうけれど。洋子の厳しさと強さは時に息苦しさを感じてしまい、二人の恋路に関しては物語同様報われなくてよかった、と思います。
PTSDや好きだから相手を思いやり身を引く、というのもわかりますが。本当にそこまで分かり合える稀有な存在で、心底好きなのであれば、どちらももう少し突っ込んであのメールは何? どうして? ということを言えば誤解は簡単に解けたのでは? という気がします。
でも、きっとそういうことが出来ない二人だからお互い孤高の存在であったのかも、とも思います。
終盤の早苗が洋子に問う、マルタとマリアについての見解。考えさせられるというよりはそういう風に思う人がそれなりにいることにびっくりでした。
イエスは茶を供せよ、とマルタに命じたわけでなくお茶を出さなきゃというのはマルタがそう思って行動したことです。嫌ならマルタも一緒に話を聞くだけにすればよかっただけでは? 好きな人の名脇役になりたい、と言って憚らない人がマリアの行動を非難するのは何だか滑稽な気がしますが、そういう矛盾をいっぱい抱えながら人は生きているのかもしれないな、と思います。
登場人物の誰にも共感できないけれど、しいて言えば武知が一番人としては身近な感じで。結末は残念ですが彼があぁしてしまったのも頷ける気がします。
正直に言えば、恋愛小説や昼メロが得意ではない感覚からすると、メディア等そこまで絶賛するほどではない気もしますが(苦笑)、なぜだか何度も読み返したくなる不思議な魅力がある小説です。文章は文句なしに綺麗です。久しぶりに地の文が美しい本に出会いました。
素敵なタイトルだな、と最初に思いましたが最後まで読んだときに、ぴったりなタイトルだと納得です。
しばらくたって読み返すとまた違う感想を抱くのかも、というのも楽しみです。
来年、平野氏の別の作品も読んでみようと思います。
炎上する君
2017.11.19 Sunday
今年もこの季節がやってきました。
カップdeヤクルト。今年はパッケージの変更もなく。宣伝部長につば九郎が就任したので応燕するべく、とこれは美味しくて毎冬の楽しみなのであだるとばいやー(大人買い)するぞーと意気込んで近所のコンビニに行ったところ、、売れたらしく2コしかありませんでした(ちーん)。仕方がないので2コとも買って棚を空にしたのですが。今日のお昼、そのコンビニに行ったらカップdeヤクルトがたくさん陳列してありました。
入荷早々に売り切れたことで、人気商品として定着した模様です(^-^)。自分以外にもあの商品を気に入っている方がこの界隈に少なからずいることがわかり嬉しい♪また明日の帰りに勝ってこようっと。
さて、随分前に読んでとても面白かった本の感想を今更ですが書いておきます。
まだ暑かった頃、毎週土曜の朝ラジオでやっている「ラジオ文芸館」。土曜が休みの日に朝ごはんや掃除をしながら聞くのがちょっとした楽しみです。
短編をベテランアナウンサーが朗読してくれるのですが、これが本当に上手でこれがきっかけでその本を読みたくなり、購入した実績が何度かあります。
大抵は男性アナウンサーが担当しているのが、この日はたまたま女性アナウンサーで、今まであまり読んだことのない雰囲気の物語でしたが、朗読の上手さにすっかり引き込まれ、家事の都合で途中までしか聞けなかったため、続きが気になり誰の何という作品なのか調べました。
西加奈子の「私のお尻」という短編で、『炎上する君』という短編集に収録されていることが判明。
西加奈子、それまでも書店で平積みされているのを見かけて名前だけは知っていましたが読んだことがなかったため、丁度いい機会だと思いいそいそと書店へ行きました。
目当ての書籍は少し探したらすぐに見つかりましたが、帯に又吉直樹さんの推薦文が書かれていて”絶望するな、僕たちには西加奈子がいる”とありました。
なんて大げさな、と思いつつ購入。
早速、その日から読み始めましたが、全部で8編が収録されており、目当ての「私のお尻」は6話目でした。
全体的に少しずつ現実離れした物語が殆どなのですが、それぞれに違った味がありどれも面白く、読んでいて飽きません。
目当ての「私のお尻」ももちろん、面白かったですが、「甘い果実」と「炎上する君」「ある風船の落下」がとりわけ気に入りました。
各話で描かれているのは嫉妬や孤独、絶望、虚無感、愛憎と言った負の感情が殆ど。だけどもどの話にも何とも言えないユーモアやささやかな希望、優しさ、悠久といったものでその負の感情を包んでそれぞれが持つ苦しみを昇華してくれるため、全て読み終えた時に何故だかとても清々しく、よし頑張って生きて行こうという気持ちになりました。
巻末に添えられた又吉さんの各話の解説がまた素晴らしく。それぞれの物語の良さをこれ以上ないくらい的確に語っているのに唸らされました。
この人は本当にこの作品が大好きで、多くの人にこの本の素晴らしさを知ってほしいという気持ちがぎっしり詰まってました。
何かが好きだーという気持ちをは誰しもあるだろうけれど、それをこんなに見事なバランスで表現できる人がいるのか、と。
物語と解説すべてを読み終えた時、最後を締めくくる”絶望するな、僕達には西加奈子がいる”は決して大げさではなく、うん、確かにその通りだと深く頷いてしまいました。
何かに絶望しそうになった時、「炎上する君」を開いて表題作でもどれでも読むことで救われるとまではいかなくとも、絶望が小さな些細なことだと思える気がします。
彼女の作品は数多いのでけっこう大変だけれど、これから少しずつ長編も読んでいこうと思います。
明るい夜に出かけて
2017.05.21 Sunday
半年前くらいから、面白い本を読んでは感想を書こうと思っては→明日にしよう→結局書かずというの繰り返しているので、今回は久しぶりに書くことにしました。
佐藤多佳子の「明るい夜に出かけて」。
「一瞬の風になれ」「しゃべれどもしゃべれども」等タイトルと大まかな内容は知っている本はいくつかあれど、ちゃんと読むのは初めて。
しかも、この本については存在すら知らず。たまたま、家族が読みたいと思って探しているけれど書店に見当たらない。というのを聞き、職場近くの大型書店ならきっとあるはず、と思い帰りに寄ったところビンゴ!
速攻で購入して机の上に置いておいたところ。なんと同じ日に家族も入手してきており、買ってきてと頼んではいない、と自分が購入した本を渡されてしまい、せっかくなので読んでみました。
ちなみにカズレーザー氏の説に感銘を受けたため、同じ本が家に2冊あることに後悔はまったくありません。ちゃんと新品を2冊だから、僅かだけれど2店舗が潤った上に著者にも印税が2冊分行くしね。
さて、そんな前置きはどうでもよく。
可愛らしい表紙と帯に朝井リョウの文字に惹かれ、紹介文は読み始める前はまだ読んでおらず(ブックカバーをかけてもらったため見えなかった)、彼が推薦するのなら面白いだろう、という何ともいい加減な根拠で最初のページをめくりましたが。うん、とってもいい話でした。
今初めて、朝井氏とキョンキョンのコメントをカバーをはずして読みましたが、朝井さんのコメントに全面的に同意です。
著者は私より更に上の世代だけれど、現代の学生たちの姿をいきいきと描いていて、今ってこんな感じなのかーと何度も思いました。
舞台は深夜のコンビニなんだけれど、そこでアルバイトをする主人公・富山を通じて描かれているのは、オールナイトニッポンのリスナー、それもただのリスナーではなく番組にせっせとネタを送る、昔だとハガキ職人と呼ばれた人達の世界やニコニコ動画で活躍する歌い手、と呼ばれる人の世界です。
オールナイトニッポンは、中高生の頃家族がとあるミュージシャンのものを毎週録音して聞いていたのでハガキ職人のことも何となくわかるけれど、歌い手については全く知らず。へーそんな世界があるんだ、と。
物語のキーパーソンである、虹色ギャンドゥこと女子高生の佐古田と富山のやり取りが面白くて楽しくて。いわゆるオタクな世界なんだけれど、わたくし自身が好きなことには多方面にオタク的嵌り方をしてしまう人間なので、細かいことはわからなくても、その気持ちわかるーー!というのがあちこちにあって。
ある種の病気が元で他人とうまく関わることができなくなってしまった主人公が、サコッティや永川、賀沢と最初は気の進まないながら付き合っていくうちに、相手の良さや今まで見えてこなかったことに気づき、だんだん互いになくてはならない存在になっていく様子が手に取るように伝わってきます。
本のタイトルでもある「明るい夜に出かけて」のエピソードのくだりは、不覚にも鼻の奥がツーンとしてしまいました。
ネットでの晒しやネトストという聞きなれない単語など、ネット社会の闇のような部分については、昔なら考えられなかった世界で今を生きる若者達は本当に大変だなぁと思うしかないけれど。
一方で晒があったこと自体知らない人間が大多数なのに、そこでのつまづきが世界の終りのように感じて心を閉ざしてしまう富山に象徴されるように、学生たちがいかに閉じた世界の中で生きているか、をネットがなかった自身の学生時代を振り返ってみても改めて実感してしまいました。
中心となる4人だけでなく、コンビニの経営者兄弟の特に兄がさりげなくとても魅力的で、最後大学に戻ることを伝えた富山とアニさんの会話シーンがとても好きです。
好きだの惚れただの、な直接的な描写はないので厳密には違うけれど、トミーとサコッティが漫才のような言葉の応酬をし合いながら、どんどん互いの距離を縮めていくのがちょっぴりラブコメっぽい感じもあり。
4月からの彼らを想像・応援してみたくなりました。
とりあえず、今度テレビでアルピーを見かけたら、こんな人たちなのかーと確認したいと思います。ハイ、芸人さんに全く詳しくないので、最初から最後までアルピーって誰だろう? と思いながら楽しく読みました。
命売ります
2016.05.03 Tuesday
仕事をしていると1週間はとてつもなく長く感じるけれど。お休みは大したことをしなくてもあっという間に過ぎていきます。
そんなこんなでゴールデンウィークも今日から後半。
昨日はこの初夏最初の夏日になりましたが、今日はもっと暑くなるらしく朝から既に暑いです。ただ、夏のような蒸し暑さはないので同じ30度近い気温でも体感温度はかなり違って楽です。
せっかく時間があるのだから、と大好きな書店へ行ってきました。
少し前に1年遅れで大好きなシリーズ「三匹のおっさん」の続編「三匹のおっさんふたたび」が文庫化されているの発見し、お休みになるのを待てずに病院の待合室で読破、その後も繰り返し読んで堪能していたのですが。
今回は、普段あまり行かないコーナーにも目を向けてみたところ、とんでもなく面白い本と出会ってしまいました。
命売ります (ちくま文庫)
三島 由紀夫
本の帯に真っ赤な太字で”隠れた怪作小説発見!”とあり、裏面にも「こんな面白い作品ほっといていい訳ない」の文字。更に、書店員さんの手書きポップで”もっと早くにこの作品に出会いたかった”と大プッシュしているのに惹かれて購入しましたが、期待に違わず面白かったです。
元々三島由紀夫の小説は好きで、「花ざかりの森」〜「豊穣の海」までかなりの数を読みましたが、こんなトンデモ小説も書いていたとは知りませんでした。
順序が逆だけど、三島由紀夫が筒井康隆風なモノも書いていたとは。いい意味で嬉しくなります。
簡単なストーリーは、自殺に失敗したコピーライターが、どうせ拾った命なら売ってしまえ、と新聞に”命売ります”と広告を出したところ……次から次へと奇妙な買い手が現れ、色んな目に遭ううちに彼の中に別の感情が生まれてきた。
前半は登場人物たちの軽妙なやりとりが楽しくて、すらすらと読み進み、後半からは主人公の心情に合わせてか、軽妙さは少しずつ減っていき、でも序盤の話がここでこう繋がってくるのか、という回収もちゃんとあり、ラストは帯では衝撃のとなってましたが、私は清々しさとほろ苦さが入り混じった何とも言えない気持ちになりました。
もっと早くに出会いたかった、とまでは思わないけれど、今この本が読めてよかったーとは思います。
三島由紀夫って堅苦しそうで面倒くさそうだから苦手、という人にこそお薦めの1本です。
ちなみに帯の内側には、この小説が気に入ったら次は『三島由紀夫レター教室』
とこれまた興味をそそられる作品が紹介されていて、まんまとアンテナに引っかかる感じなので今度はこれを買ってこようと目論んでます。
うん、やっぱりお休みっていいね!
ドーナツを穴だけ残して食べる方法
2015.08.15 Saturday
お休み3日目。昨夜は久しぶりによく眠れたのもあって、今朝は昨日よりは調子がいい感じです。
昨日は8月14日だったので「日本のいちばん長い日」を朝イチの上映で見てきました。
どうでもいいのですが、最近このパソコンで”みる”と打って変換すると真っ先に”診る”が出て来るのが何とも(苦笑)。
映画自体はよかったけれど、前夜あまり眠れなかったところに早起きして(笑)重たい映画を見たツケか、その後がすっかりへろへろになってしまい、ものすごく久しぶりに昼寝をする羽目になりました。
それはさておき。先日、図書館で借りてきてもらった表題の『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』を少し前に読破しました。
週初めの検査の際に待ち時間に読んでしまおうと思い、持参したものの疲れて居眠りしていたため、殆ど読めず(苦笑)。結局、毎晩少しずつ読み進めてお盆休みの少し前にやっと終了しました。
最初にぺらぺらとめくった時に、大学の教材みたいだなと思ったとおり、まさに読みやすい大学の講義資料といった感じでした。
しかし、色んな学者がそれぞれの得意分野の立場から、いかにしてドーナツを穴だけ食べる方法を模索するのかと思ったら……確かに物理的に実際にその手法をとった方も僅かにいましたが、殆どが物質としてのドーナツというよりも”ドーナツ”をひとつの概念に見立てたものが多く。
中には、ドーナツのドの濁点部分すらかすってないよ! と突っ込みたくなるものまで。
初めて「村上さんのところで」ドーナツの穴だけ残して食べる、という文を見て、どうやったらそんなことが出来るのか、と考えた私が思ったのは。
とりあえず○穴加工だから、フライス加工を使えば出来そう。でも、ドーナツは柔らかいからフライス加工したら穴だけ残るどころか、粉々になって跡形もなくなるなぁ。その上切削油がたっぷりしみ込んだドーナツなんて恐ろしく食べられないな。⇒ドーナツを金属の鋳型に流し込んで、フライス盤じゃなくてレーザー加工で超薄いリングになるまで加工すれば何とかなるかも、でした。
で、本書を開いたら私が適当な知識で思いついたなんちゃって機械加工で削ろう、という件を機械工学の観点から、もっときちんと論理的に説明しているものがいちばん最初に掲載されていて驚きました。
第1部では穴だけ残して食べるには とくくり、工学、美学、数学、精神医学、歴史学の見地からのアプローチが記されています。
美学の部分は、美学、そういえば大昔の一般教養で取ったなぁとその存在すらン十年ぶりに思い出したくらいでした。
意外に面白かったのは、最初の数行で絶対無理、理解できっこないと思った数学からの次元に絡めたアプローチでした。とはいえ、予想どおり難しすぎて半分も理解できませんでしたが、試みとしては騙された気がしないでもないですが、なるほどなぁでした。
第2部はドーナツの穴に学ぶこと とくくり、ここでは食べる方法は既にまったく関係なく、ドーナツそのものやドーナツの穴、ドーナツという現象や言葉といったことに着目し、文化人類学、化学、法学、経済学、社会人類学の観点から論じています。最後に再び別の法学者が、何故かアメリカで起きたトンデモ訴訟についての考察(そうなったのにはちゃんと理由があり、それについても冒頭で明記されている)でしめくくられます。
ここまで来ると、相当難しいというかなかなかついていけない部分も多くありましたが、特に化学的見地のくだりは、もっとも苦手な科目だったこともあり、もう化学記号を見ただけで拒否反応を覚えてしまい(苦笑)、ちっとも頭にはいってこなくて大変でした。
ただ最終的に述べられていた、PCB汚染油が化学の力で解決できるかもしれない、という研究については、全力で実用化されるといいなぁと思いました。
第2部で面白ろかったのは、訴訟の例を出して論じた法学者と、ドーナツ化現象を経済学の見地から分析したもの、ドーナツを「近代」の象徴であると見立て、ドーナツ以前と以後と分けて近代を論じたものが楽しかったです。
特に後者2つはかなり興味を惹かれる考察でした。ってあれれ? 2部は難解とか言いながら意外と楽しめたのかも。
この「近代」論のおまけに阪大の学生が近代について、ざっくり解説してくれているのですが、これがもう素晴らしかったです。
わかりやすくて、きちんと纏まっていて。歴史は大好きですが、いざフランス革命について説明しろ、という命題を与えられてもこんなに的確に説明できません。どうでもいいことをいっぱい入れて、肝心な部分がすっぽり抜け落ちること間違いありません。
タイトルは興味をそそられるけれど、中身が中身なので手に取るのにけっこうハードルが高そうな1冊ですが。ちゃんと箸休めに各章の間に世界各国のドーナツ事情的なコラムが紹介されていて、ほっとしたり美味しそう! と食べたくなったりできます。
ドーナツの穴ひとつとってみても、真正直にそのまんまの意味に受け取るのではなく、色んなことを考えたり、実践する人がこんなにもいることを知ったのが一番の収穫かな。
レミングスの夏
2014.10.15 Wednesday
ここしばらく図書館にせっせと通っては、あれこれ借りてきては読むのを楽しんでいます。読んでみたいけれど買うまでには至らない本が無料で読めるのはとってもありがたいのですが、人気のある本や古い本だと不特定多数の方の使用により、かなり傷んでいたり汚れていたりすることもしばしば。
そんな時はお手製のブックカバーをかけながら読むといいよ、というアドバイスをもらい早速実践しています。
さて、先日図書館の新着コーナーで目に止まったので借りてみたところ中々面白かった本の紹介です。
レミングスの夏
竹吉 優輔
本当に新刊らしく、始まりは2014年の夏。そこから4年前にあった出来事について主人公・千葉旭のモノローグの形で綴られていきます。
18歳、高校3年生の夏を迎えた千葉旭は周囲が受験一色へと染められていく中、1人取り残された気持ちを味わっていた。夏が来るたび4年前に自身が幼馴染とともに起こしたある戦い、それにより自分達は何を失い、何かを得たのか? ということを考えてしまうから。
あれから4年たった今、遂にその答えが出る時が来た……。
4年前旭と親友のナギ、そして小学校から大切な時間と思いを共有し続けている仲間達で一体何をしたのか? は読み進めていくうちにだんだんと明らかになります。ただその速度はどちらかというと緩やかで、特に4年前に彼らがコトを起こすきっかけとなった事件の核心については、かなり後になるまで明かされないため、少しもどかしい部分はありますが、少年少女達が起こした行動自体は、陰湿さを感じるような面がなく。
一体とういうことなんだろう? と思ううちにページを繰る手が止まらなくなっていきました。
彼らが幼少の頃に巻き込まれた事件の犯人に対する、法の裁きが及ばないのであれば彼ら自身の手で鉄槌を下すための戦いがベースですが、そこに現在進行形で起きている悪事への鉄槌も絡んできます。
それはそれで面白いけれど、悪徳教師のくだりはちょっぴり盛り込みすぎたきらいもあります。
事件を通して中学2年という多感な少年少女達、それぞれが思い揺れ動く様がいきいきと描かれており、旭やナギだけでなくそれぞれを応援したくなります。
犯罪を犯した人間が未成年であった場合、その内容に関わらず”更生の余地がある”として成人のそれより格段に罪が軽くなります。
犯人にはそういう恩情措置が取られるのに対し、被害者は決して帰ってくることがありません。自分の大事な友達がそんな目にあったら……。
そんな問題を子供の側の視点から捉えた本書は、扱っている内容自体は重いけれど読後感は何故か爽やかで、その後の彼らの未来にとても希望を感じさせてくれます。大人顔負けの手口に驚かされる一方で、口裂け女のような子供ならでは、の噂や怯えを上手く使った部分もあったり。
1人の少年のその後については、少々出来すぎ? と思ってしまうところもありますが、そんなところもひっくるめて少年少女達の優しさに思わずほろりとさせられてしまう1冊です。
プリズンホテル
2014.06.07 Saturday
今回の入院中、手術当日以外は本を読むことが出来たので、家から持参したものや病棟にある書籍をいくつか読み耽りました。
その中でダントツに面白かったのが、昨日の記事でもちらっと書いた浅田次郎の『プリズンホテル』シリーズ。
以前、何かで中井美穂が絶賛し、この本をつまらないと思う人とは友達になれないとまで言っていて、そんなに面白いのかーと思いながらも天の邪鬼な私は、いや別に友達になる機会自体がそもそもないよ、なんてしょーもない突っ込みを入れていたおかげで(^^ゞ、病棟の本棚にこれを見つけた瞬間、彼女が絶賛していたことを思い出しました。
夏、秋、冬、春の全部で4作品があり、春で大団円のハッピーエンドを迎えるのですが、病院にあったのは秋〜春までの3冊。最初の夏はなかったのですが、特に問題なく楽しむことが出来ました。
簡単なあらすじというより、概略は以下のとおりです。
木戸孝之介は幼い頃に母が駆け落ちしたことがトラウマとなり、精神年齢がその時から止まったままの売れっ子小説家である。極道小説『仁義の黄昏』シリーズが代表作なのだが、自分が目指しているのは純文学であり、現在の状況に些か不満もあったりする。子供がそのまま大人になった状態であるため、性格はめちゃくちゃ、周囲に暴力をふるうことでしか、愛情表現ができない非常に困った人物である。
そんな彼には、今や唯一の肉親である木戸中蔵という伯父がおり、彼は関東桜会木戸組組長であり、湯浅元あじさいホテルのオーナーである。
マル暴対策として山奥に建てた、リゾートホテル=湯浅元あじさいホテルは、地元ではプリズンホテルという有り難くない別名で呼ばれる、一風どころかかなり変わったヤクザ御用達ホテル。そんなホテルだが、何故かやくざ以外にカタギの客人もしばしばやって来る。そんなホテルを舞台に繰り広げられる、ハチャメチャだけれども人情味あふれる出来事を通して、木戸孝之助が1人の人間として成長していく様子も描いたシリーズ。
今回読めなかった1巻夏では、孝之助の母の駆け落ちに絡んだ関係者がホテルに孝之助を呼び寄せて真相を語るのが大まかな筋のようで、これは続くシリーズを読んで行けば、詳しいことまではわからないまでも、概略は掴めます。
最初の夏が出たのが1993年。かれこれ20年以上も前のことで、テレビドラマや舞台等にも何度もなっているそうで。まったく知りませんでした(^^ゞ
ですが、知らなかった故に何の先入観もなく物語世界に入っていくことが出来ました。
ヤクザがホテル経営、なんてトンデモ設定なので、出て来る人物もほぼフツーの人は皆無。ホテルマンの鑑のような支配人でさえも、やっぱりちょっと(?)ずれた部分や悩みもあり。プリズンホテルに宿泊した客が漏れなく心の垢を綺麗に落として元気になって帰って行くのと同じように、読み手の方も笑ったり呆れたり、はらはらしたりしながら自分の心もすーっと軽くなっていく、というとんでもない本です。
秋、冬は比較的すんなり楽しめますが、最後の春は涙腺が緩い私は、かなりきてしまい、翌日鼻の周りが真っ赤になってしまいました。
トンデモない人格破綻者で、常に愛を求めてばかりだった孝之助が、育ての母である富江の一言がきっかけで、これまでの人生いかに多くの抱えきれないほどの愛情を受けて来たかを思い知るシーンは、涙なくしては読めません。
個人的には主人公よりも、プリズンホテルの従業員達の魅力にすっかりやられてしまいました。特に板長とシェフの料理人同士の絆というか、師弟愛のような関係にはぐっときます。一方で族あがりの繁クンの言動にもほろりとさせられっぱなしでした。
多分、古い上にとっても有名な小説なので、まだ読んでなかったの? と思う人の方が多いかと思いますが、ものすごくお薦めの1冊です。
アルジャーノンに花束を
2014.05.02 Friday
つい先日、姉が図書館から借りて読んでいる本が、読みづらくてなかなか進まない、と言うのでどんな感じなのか見せてもらうと……。
殆どひらがなで、確かに読みづらいけど、こういうの以前にも読んだような。そうだ、アルジャーノンに花束をみたいだねと言ったところ、まさにどんぴしゃ。それだったら持ってるから言えば貸したのにという会話を交わしたのですが。
そもそも、この本を読んだのはもう随分前。氷室京介の「DEAR ALGERNON」という曲がこの本に影響を受けて作られた、というのが読むきっかけでした(^^ゞちなみに1stアルバムのタイトルはまんま「Flowers for ALgernon」だったりします。
姉が今回、読むきっかけになったのも、さる有名人が紹介していたそうで。ダニエル・キイスの古いけれど有名なSF小説なので、きっと好きな著名人は多いのでしょう。
で、姉と会話した時は、昔読んだ時にとにかくボロ泣きして、かなりしんどい小説だった記憶があるので、もう読めないなと思っていたのですが。その数日後に逆に今なら読めるかもしれない、と思い立ち一晩で一気読みしてしまいました。
ちらっと見た時は、一瞬読みづらいと思ったのですが、そもそも再再読くらいなのでアルジャーノン以外の登場人物名はすっかり忘れているものの、大まかな筋はもうわかっているのと、つばブロですっかり鍛えられたらしく? 平仮名満載でもすんなり読めました。
一応、今更なストーリーはアマゾンから引用です。
32歳になっても幼児の知能しかないパン屋の店員チャーリイ・ゴードン。そんな彼に、夢のような話が舞いこんだ。大学の偉い先生が頭をよくしてくれるというのだ。この申し出にとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に、連日検査を受けることに。やがて手術により、チャーリイは天才に変貌したが…超知能を手に入れた青年の愛と憎しみ、喜びと孤独を通して人間の心の真実に迫り、全世界が涙した現代の聖書(バイブル)。
凄い、バイブルとまで書かれてます。
昔、読んだ時は若かったけれど今はもう若くないので、けっこう最後の方までは、今回は泣かないかもと思っていたのですが、最後の数ページでやっぱり泣いてしまいました。
落涙する方は、最後の”ついしん”からの1文にやられる人が多いと思うのですが。もちろんそこも更にうるっと来るんだけれど、今回はってこれを書くと、ストーリーの結末がわかってしまいますね。古い作品だし、いいかな。一応、ちょっとだけ改行して。
再び元の状態になりつつあるチャーリーが、ただ単に元の状態に戻るのではなく。今度は自分が何者であるかを知っていて、難しい文章を読んだり理解することは出来ないけれど、ようやく実体として捉えることができた両親や妹の記憶はちゃんとあり、パン屋の仲間たちやアリス、二人の教授を思いやる気持ちを持った上で自分のことを可哀想だとか不幸だと思わず、他者にもそんなことを思わないでください、と願う部分にやられてしまいました。
チャーリーが辿った経過だけを見れば、こんなに残酷な話はないと思うけれど。ただ戻るのではなく精神的というか心の部分では、ひとつもふたつももっと学んでいて、さらにもう一度学びたいと思っているというところが希望を見ることが出来ていいな、と思う一方で泣けてきます。
天才になったチャーリーは、皆いい人で友達だと思っていた過去の自分が周囲からどういう風に扱われていたのかを知り、怒りを覚えるけれども、そんな自分がかつての自分と同じような境遇の人を他者と同じように無意識に笑い物にしていたことに気づくくだりがとても印象に残ります。
状況や境遇は違っても、似たような経験を持つ人は少なくないのでは?
今回もやっぱりン十年前と同じようにか、それ以上に色々考えさせられてしまいました。色褪せないどころか、より重さが大きくなった気がします。
いつかまた、人生も残り少なくなってきた時にもう1度だけ読み返したいと思います。
追伸
今回のツアーで「Dear ALgernon」をやっているのかどうか、まだ未見なので知りませんが。久しぶりに生で聴きたいな。
彼岸過迄
2014.04.25 Friday
動物園だよりの続きを1回お休みして。
4月から某新聞で100年ぶりに夏目漱石の「こころ」の連載が開始され、毎日1回分をちまちま読んでいたのですが、例によってせっかちなので、子供の頃に読んだ岩波文庫を引っ張り出してきて一気読み。
古い本を引っ張り出してくるといつも実感するのは、昔の本は字が細かく1ページの中の情報量がたくさんあったんだなぁと。
なので、岩波文庫の中でも「こころ」は薄い部類に入るのだけれど、今、書店で新潮とかで出ている「こころ」はそれに比べるとびっくりするくらい分厚くなっています。
それはともかく。「こころ」を読んだついでに、少し前の金曜言葉塾で紹介されて以来気になっていた「彼岸過迄」を読んでみました。
「彼岸過迄」何とも気になるというか、けっこう洒落たタイトルです。が、これも新聞連載小説で漱石が胃潰瘍という当時としては相当な大病を患った後、作家活動を再開するにあたり、連載開始の正月からだいたいお彼岸過ぎ迄の長さにしよう、と思いこのタイトルにしたそうで。
という話を林先生がテレビでしていて、その時はへぇそうなのかぁ相変わらず何でもよく知ってるなぁと感心したのですが、読んでみると何てことはない。
タイトルについては、小説の前書きで漱石自身が書いているため、小説を読んだ人には周知の事柄。どうみても漱石フリークな林先生にとっては、朝飯前のことだったという。
この「彼岸過迄」は漱石晩年の作品で「門」「こころ」と並び後記三部作と言われているそうです。
と偉そうに書いていますが、読み終えた後、何だか難しかったけれど他の人はどんな感想をもったのかしら? と思いレビューを見て知りました(^^ゞ
さて、今難しかったと書きましたが。それは読みづらかったとかそういうことではなく。寧ろ綺麗な読みやすい文体で(明治〜大正の小説なのでその時代や漱石特有の言い回しはもちろんありますが)、さらさら〜っと一気に読めたのですが、読み終えて、面白かったけれど、この作品で漱石は一体何が言いたかったんだろう? と考えてしまい、それがわからず難しいと思ってしまいました。
なので、その答えを求めて色んな人のレビューを読んだのですが。いや〜皆さん凄いわ。とても同じ物を読んだとは思えない、立派なレビューがずらりでした。
とてもこんなの書けないし、そもそもそんなことちっとも思わない(わからない)かったよと思い、やっぱりこれを紹介するのはやめとこうと思ったのですが。
続けて一緒に購入した村上春樹の「女のいない男たち」を読み始めて、ふと気がつきました。
小説なり文章を読んで作者や書き手は一体、何を言いたかったのだろう? と考えるのって学生時代のテストの影響ではないのか? と。
現国や古文を問わず、小説や随筆の抜粋したものを載せ、いくつかの設問が並んだのち、大抵最後にこの文章で作者が言いたかったことはなにか? 簡潔に述べよ、とか何字以内にまとめよ、とか。
それには大抵、出題者が望む答えがあり(ってテストに答えが用意されているのは当たり前だけど)、作者が本当に言いたかったことの真偽はともかく、テスト用の答のパターンというのは大抵決まっていて、一度コツを掴めばたやすくははーんこういう答えを望んでるのね、と嘘八百を並べて過ごしていたツケがどうやら大人になっても抜けていないんだと。
何故なら、村上春樹の小説を読むとき、読んだあとも彼が何を言いたかったんだろう? なんて考えたことはなく。そもそもそんなことを考えていたら、彼の小説なんて読めません(こらこら)。それは別に村上春樹に限ったことではなく、宮部みゆきだろうが内田康夫だろうが、安部公房あたりまで年代を上げても同じです。たまに、これってこういうことを言いたかったのかな? と読み終えて思うこともあるけれど。小説を読む楽しさとは、自分にとって面白かったか、つまらなかったかそれだけ。面白ければ満足して何度でも読み返すし、つまらなければ今回は外れだったなぁと思うだけです。
それが今回は夏目漱石という、現代人にとっては古典文学に属する明治の文豪だったため、つい構えてしまったようです。
と、恐ろしく長い前置きになりましたが。「彼岸過迄」です。
敬太郎という大学を卒業して、就職活動中(でも、あんまり熱心じゃない)な若者が友人の須永市蔵との関わりを通じて、彼の叔父達と交流をもつようになり、敬太郎を媒介として市蔵と彼を取り巻く人々の様子が語られる、そんな物語です。
読み進めるうちに、敬太郎が主人公のはずだったのに、途中から彼は物語の語り手のような役割となり、読み終えて真の主人公は市蔵だったんだと気づきました。
小難しいことは脇に置いて。明治も終わりが舞台なので、その時代の人々の暮らしぶりが窺えて興味深く。最初は、就職活動中でありながら、何となく大学を卒業したのだからしかるべき地位の職につきたい、つけるだろう、とのほほんと贅沢なことを思っている敬太郎に、こらっもっと真面目に就職活動しなさい、と姑ばばあのようなことを思ってしまったのですが(^^ゞ
その次に登場した市蔵に至っては、敬太郎よりも学問の上では優秀だったにも関わらず、いっこうに働く気がなく。
内にこもり、彼なりに思い悩むところは大いにあるとはいえ、傍から見れば暢気な生活を送っているのを見て、んん?明治というのは、社会の様相が激しく変わり、たび重なる軍備増強や高すぎる税金で庶民はとても苦労した時代だと思っていたイメージが激しく崩れ落ちてしまいました。
他の小説でも、この人は一体どうやって生計を立てているんだろう? と思うような、いわゆる家の財産だけで働かずに暮らしている人物が少なからず登場するので、もしかして昔はそういうことが可能だったのかと思い聞いてみたところ。
もちろん現代でもそういう人は限られているにせよいるけれど、戦前までは確かにそういう人々が普通にいたそうです。
敬太郎の目を通して語られる、色んな人々の描写が興味深く。
生活様式そのものは100年前だけれど、そこで生きる人々が考えたり、交わされる言葉の内容自体は現代でも変わることがなく。時代背景が次々変わっていくだけで、そこで暮らす人間そのもの自体は100年前だろうが、200年前だろうがさほど変わっていないのかもしれません。
千代子が好きだけれど、自らの境遇や諸々から結婚には決して踏み切らない市蔵に千代子は「あなたは卑怯だ」と言い切るのですが、卑怯でもあるけれど寧ろ臆病者だなと思ってしまいました。
卑怯で臆病でそのくせ嫉妬心だけは人並みかそれ以上に持っている市蔵。とことん面倒くさいヤツなのですが、何故かなんてやつだっこんな人嫌だ、と思えないところが不思議です。
と、結局何が言いたかったんだ? という紹介になってしまいましたが。
敬太郎や千代子、市蔵、松本らを通してしばし明治の空気に触れてみるのもいいものです。
三匹のおっさん
2014.02.06 Thursday
今冬は、これまで経験したことがないくらい雪がなく。地球環境という点では明らかな異常だけれど、日々の暮らしからすると甚だありがたい状況が続いていたのですが。昨日からの大寒波により、とうとう冬らしい雪が積もることになってしまいました。
まぁでもギリギリ雪かきをしなくても済んでいるだけいいんだけれどね。でも、雪が降っていると散歩にも行けないし何より寒いので、早く寒波が去ってくれることを願ってます。
さて、今日は久しぶりに本の紹介です。
入院以来、これまで好んで読んでいた眉間に皺が寄ったり、じっくり読ませるような本がしんどくて読めなくなり。さらさら〜っと読める本ということで、入院中に家族が内田康夫の「北の街物語」を持ってきてくれたのを皮切りに、すっかり浅見光彦シリーズを読む羽目になり(苦笑)。
半世紀以上も続いている、言わずと知れた内田康夫の代表シリーズですが、現在のところ114作品が出版されているうちの、なんと56作品をこの1ヶ月半ほどで読破してしまいうという呆れた状態に。
このシリーズ、近年の作品こそ色々お洒落なタイトルがついていますが、それまではほぼ「札幌殺人事件」のように地名や伝説+殺人事件というタイトルが殆どで。いつ見ても「○○殺人事件」という恐ろしい名前の本ばかり読んでいる事態を心配した姉が、たまたまその時図書館から借りていた伊坂幸太郎のファンタジー系の小説(これも面白かった)を貸してくれた以外は、来る日も来る日も何とか殺人事件を読んでいるという(大汗)。
さすがに自分でも、これはちょっとマズイなぁそろそろもっと楽しい本を読もう、というわけで先日書店に行った際に、以前から読もうと思っていたタイトルの本を購入してきました。
ちなみに有川浩のこの小説、現在テレビ東京系でドラマ化されたものが放映中だそうで。テレ東は視聴圏外なので、ドラマに影響されることもなくいつものように物語世界を堪能できました。
有川浩といえば、昨年読んだ「キケン」がとても面白かったのですが、この作品はそれ以上に楽しかったです。
「三匹のおっさん」というタイトルが示すとおり、主人公はこの手の作品では珍しいおじさん三人。大まかなあらすじは文庫本の裏表紙から引用です。
還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか! 定年を迎えて一念発起した剣道の達人・キヨ、経営する居酒屋も息子に任せられるようになってきた柔道の達人・シゲ、遅くできた一人娘を溺愛する町工場経営者で機械をいじらせたら右に出るものナシの頭脳派・ノリ。かつての悪ガキ三人組が結成した自警団が、痴漢、詐欺、動物虐待などご町内にはびこる悪を成敗! その活躍はやがてキヨの息子夫婦や孫の祐希、ノリの愛娘・早苗らにも影響を与えてゆき……。
まぁ平たく言えば、おっさん三人による、ご町内世直し劇なのですが、これがすごくイイ味を出しています。それぞれものすごくクセのある人物ばかりだけれど、これがまた愛すべき面をいっぱい持っており、読み進むうちにすっかり惹き込まれていきます。おっさんだけでなく、各話に登場する人物達も実に多彩で。それぞれが色んな背景を抱えていて、各人の関係が話が進むにつれ、少しずつ変化していく過程も見どころです。
特に、キヨと孫・祐希の小さい頃は仲の良い祖父と孫だった関係が、いつの間にか”口うるさいジジイ”と”可愛げのない躾のなっていない孫”として互いに煙たい存在となっていたのが、自警団の活動を通して一歩進んだ関係へと変化していくのには思わずホロリとさせられます。
全六話からなる物語はそれぞれが独立しているようで、根っこの部分でつながっていて。どれも面白く読ませる話になっていますが、個人的には三話がお気にいり。実は、この三話、児玉清さんもかつてラジオ番組で絶賛していたそうで。その内容が巻末に収録されているですが、彼が熱く語るその内容にまるっと共感してしまいました。
三匹の中では、ガタイはともかく派手さがない分、他の二匹に比べていくぶん地味な印象のシゲこと立花重雄が主人公というか、彼の妻がメインのお話なのですが、この二人の距離感というか関係がとても素敵なのです。
ラスト近くで迎えに来たシゲに登美子が言った「ジャージじゃない服着てちょうだいよ」という台詞に涙腺が決壊しました(^^ゞ
いや、普通の人はシゲの「一緒の墓ァ入ろうな、登美子」の方にぐっとくると思うのですが、それまでの話の流れでシゲの人となりがわかっているだけにジャージの方に反応してしまいました。
小柄でガテン系はからきしだけれど、実はものすごい頭脳派というか、いわゆる改造マニアで最も危険な人物である第三の男・ノリもいいです。
歩く危険物みたいな、火がついたら最も怖い面を持ち合わせているクセに、孫のアドバイスで一気に垢ぬけてしまったキヨにさりげなく対抗意識を燃やしているお茶目な面もあったりして。こういうおっさん達が身近にいたら、鬱陶しいけれど楽しいだろうなーと思わずにはいられません。
ふざけているようで、さりげなく現代社会が抱える問題も指摘されていたり。
漫画みたいと笑いながら、でも読み終わった後にとても幸せなあったかい気持ちになれる1冊です。
このおっさんモノ、「三匹のおっさん、ふたたび」が既に出ているそうで。そちらが文庫になるのが今から楽しみです。
雨の匂い
2013.11.21 Thursday
今週はずっとものすごい雷雨が続いていて。
恐ろしいまでの稲光と耳をつんざくような雷鳴と激しい雨音を聞いているだけで気が滅入ってくるような、それくらい毎日いい加減にして〜!という天候が続いていたのですが、ようやく少し収まってきました。
一気に真冬並みになってしまった気候が週末に向けて少しは戻ってくれることを願いつつ。
そんなわけで、毎晩寒くて叶わないので早めに布団に入り、手が冷たくなりながら先日紹介してもらった本を読んでいました。
雨の匂い (中公文庫)
樋口 有介
初めて聞く作者だったので、どんな話を書く人なんだろう? と思いながら読み始めたのですが。
最初は主人公を取り巻く自分勝手な老人たちに、けっこうイライラさせられたりもしたのですが、そのうちそれもさほど気にならなくなり。
登場する人物の殆どがかなり個性的で、ゴミを溜めこむ老人は昨今ニュースで取り上げられることが多いため、それが一番違和感なく感じてしまうほど(^^ゞ
そんな中にあって、大学生ながら末期がんで入院中の父親と家にいる要介護の祖父の世話を甲斐甲斐しくこなす主人公は、イマドキ珍しいくらいの孝行息子としてあちこちで「まともなのはシュンちゃんだけ」と評される青年。
けれども、一見真面目でいい子に見える主人公の内面には恐るべき一面が隠されていて……。
と書くと何だか怖い話のようですが、殺人事件や自殺が起きたり、最後は病死とあちこちに死の匂いが立ち込める物語なのに、不思議と暗さや怖さは感じず。
警察に自殺と断定されてしまった、本当は殺人事件も、よくよく考えると怖いのですが、被害者(?)のあまりの身勝手さにいけないとんでもないことなのに、寧ろそれが正当な行為に思えてきます。
一応ミステリーのくくりらしいですが、読み進めている間も読み終わった後もミステリーという感じはしませんでした。作中で犯人捜しをすることもなく。それよりは主人公と色んな人との関わりを淡々と描きながらストーリーが進み、途中から、あ、これはこういうことなんだな、と読み手に気づかせる感じで、読後感は何故か清々しさすら感じました。
どんな相手であれ、拒絶するのではなく、一旦はそのまま受け止めてそれから個々に対応していく、という主人公の対人関係のスタンスは、そのまま誰とも特に親密にならず、かと言って誰かと敵対するわけでもない、という適度な距離感に繋がり。一方で相手にとっては、嫌な感じはしないけれども、さっぱり何を考えているのかわからないということに。
AV嬢に「あんた、あたしのこと嫌いでしょう」と聞かれて「誰かに嫌われても誰かを嫌うことはしない。そんなに傲慢じゃないから」という会話がとても印象に残りました。誰かを嫌うということは確かに傲慢なことだな、と思うと同時に、たとえ嫌われても相手を嫌うことはない、ということは裏を返せばその人にとって相手はどうでもいい、存在しないのと等しいくらいのものでしかないのかもしれない、と思うと作中での主人公の言動に頷ける部分が多々ありました。
何だかとりとめのない感想になってしまいましたが、いつもと違う毛色の作品で何だかんだと惹き込まれていくのがとても新鮮でした。
珠玉の山岳サスペンス
2013.11.16 Saturday
このところすっかり寒くなっていましたが、今日は久しぶりに暖かな休日でした。こういう日が1日でもあると本当にありがたいです。
そんなにネタがない上に、このところ夜はあんまりPCの前に座っていられないという事情があってすっかり週一ブログと化してますが
少し前の日曜だったか土曜の朝、朝食を取りながらたまたまラジオで朗読の再放送をやっていたのです。ベテランの男性アナウンサーが読み手でしたが、それが抜群に上手くて、話も面白かったのですっかり惹き込まれてしまい、これは一体誰の何と言う小説なのだろう? と思って調べてみると。
なんてことはない松本清張の「証言」という短編でした。これは、是非とも活字で読みたい、というわけで家族に聞いたところ、持っていたはずが見当たらないので文庫本を買ってきてくれました。わーい。
黒い画集 (新潮文庫)
松本 清張
毎晩、寝る前に少しずつ読んでいたのですが、あんまり面白くて。中でも気に入った数編は3回くらい読みなおしてしまいました。
ラジオドラマでやっていた「証言」ももちろん面白かったですが、個人的には一番最初に収録されている「遭難」が最も印象に残りました。
長野の鹿島槍岳を舞台に繰り広げられる山岳ミステリーなのですが、全編に渡り描かれる登山のシーンがあまりにも秀逸で。登山は昔、ハイキングに毛が生えた程度のものしかしたことがない私でも、高い山や冬山にはこういう風に登るんだ、というのがまるで目の前で見ているかのようにありありと浮かぶ描写の素晴らしさにすっかり惹き込まれました。山頂や途中の場所から見える眺めや山の連なり等、山の魅力が短い文章に凝縮されていて、この景色を生で見たいっと痛切に思ってしまったほど。
恐らく山の熟練者に登山のことなど綿密に取材したのだと思われますが、それがこういう風に活かされるのかと。当たり前ですが、作家の力の凄さをまざまざと見せつけられた気がします。
そこで描かれる人間の心理などは、けっこう怖いモノがあるのですが、主人公の山を熟知した緻密な計画と冷静な振る舞い、そこに至った過程を合わせると、憎いという思いより、逆に感嘆の思いを抱いてしまいました。
「坂道の家」も、あれだけ真面目に切り詰めて財をなした主人公が、いとも簡単にしょうもない女に騙されて転落していく過程が鮮やかに描かれていて、なんとも物悲しい気持ちに包まれる一篇です。
この手の話は、清張の真骨頂という感じですが、さすがにそれなりに長く生きて来ると、何でこんなしょうもない女に騙されるかなぁ、という腹立たしさというかやり切れなさが募りました。でも、こういうことって21世紀になった今でも巷にそれなりに転がっているんだろうな、と思うと時代は変わっても人の心や人間の愚かさってそんなに変わらないものなんだな、と実感します。
清張の魅力って、物語の組立や心理描写の見事さもありますが、地の文の良さが土台にあるからこそなんだなーと。格別に文章が美しいとか、この人にしかない修辞を用いるとかではなく、ひとつひとつの文章に無駄がなく、それでいて大事なことはきちんと書かれているバランスの良さ。
暗い題材が多いので、苦手な人もいるかと思いますが、短編だと割と読みやすいので入門編としてお薦めです。
ヒエラルキー
2013.08.06 Tuesday
今年の直木賞受賞後に某新聞に載っていたインタビューに興味をひかれたので、前から気になっていた本を読んでみました。
桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)
朝井 リョウ
単行本が出た時から、斬新(?)なタイトルにどんな内容なんだろう? と気になっていたのですが、如何せん今更そんな高校生の部活の話はどう考えても対象年齢外です、と言われている気がして(^^ゞ書店で平積みされている表紙も学ランの男子高校生だったし。ずっと敬遠しておりました。 これ、先ごろ映画化されたようですが、文庫版のあとがきで、映画監督がタイトルから、まさに私が上に書いたような気遅れ感を抱き、お呼びでないと思っていた、と書いていたのがやっぱりそうだよねーと笑えました。
さて、内容は数人の生徒に焦点を当てたオムニバス形式で彼らの高校生活の一部がつづられるというもの。既にこの本について書いている方の殆どが触れているとおり、桐島くんは出て来ません。どーでもいいですが”キリシマ”と書いて変換したら当たり前のように元大関の名前が出ました(笑)。うん、キリシマって言ったら100%あのイケメン関取が浮かぶ世代です。
記事を書くにあたり、熱帯のレビューをざっと見たのですが、びっくりするくらい賛否両論が綺麗に分かれていました。個人的には思ったより読みやすくて面白かったです。まぁ桐島君が部活をやめることについてのすったもんだ的な話を予想していたので、それがかすりもしなかった部分は確かに肩透かしを食らったような気がしないでもないけれど。
イマドキ(と言っても既に作品が世に出てから月日が流れているので今はもっと違うんだろうけど)の高校生ってこんな感じなのかー、といちいち新鮮でした。
君たちは真っ白なキャンパスです、って未だに校長先生ってこんなこと言ってるんだと思うと、そりゃー醒めた現代っ子には受けないよなぁと妙に納得したり。
ただ、ここまでヒエラルキーがはっきりしている世界が現実なら、自分は早くに生まれてきてよかったな、としみじみ思ってしまいました。
高校って、生徒がランク付けされる。目立つ人は目立つ人と仲良くなり、目立たない人は目立たない人と仲良くなる。自分は誰より「上」で誰より「下」でっていうのは、クラスに入った瞬間なぜだかわかる。
という文がキーパーソンの1人でもある映画部の前田くんの章で彼のモノローグとして語られるのですが。こりゃ、たまらんわーというのが率直な感想でした。
ランク付け、振り返ってみれば確かにあったのかもしれないけれど。そんな厳密なモノではなく。成績は悪いよりいい方がいいし、見てくれもいいにこしたことはないけど、それだけでその子の価値が決まる、とかそんなアホな基準はなかった気がします。そもそも目立たない人は目立つ人と会話すら出来ない、なんてそんなことはなかったんじゃないかなぁ。
極端に運動が下手な男子がいたとしても、それをあからさまにバカにするような子もいなかったな。イケメン君はやっぱり美人や可愛い子とも気軽に会話してる、とかそれくらいならあったけど(逆もしかり)。
まぁ部活ばっかりしてた上に、元々我が道を行くタイプだったので、あんまりクラスのそういう雰囲気とか単純に気づいてなかっただけかもしれないけど(汗)。格別嫌な思いをしたこともなかったので、概ね恵まれた高校生活だったんでしょう。って本の内容と関係なくなってますね。
映画部の二人は、作中ではイケてない子の代表格として登場するのですが、私は逆にこの子達が一番読んでて共感できるというか、素敵に思いましたよ(ははは)。あと宏樹くんの今後にも期待大です。
最終的に何かが解決したわけではないけれど、最後の話と文庫化にあたり書き加えられた1篇が希望の光を感じさせる内容だったおかげで読後感はけっこうすっきりでした。
今のところ、朝井リョウ氏は高校や大学を舞台にした小説が殆どのようですが、次はそういうところから離れた題材でどんな物語を紡ぐのか、そういうものを読んでみたいです。
4年ぶりの新刊
2013.04.17 Wednesday
そういえば。先日からちょこちょこテレビで騒がれていた、4年ぶりの新刊。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
村上 春樹
そもそも、未だにあれは何だったんだろう??状態の異様なフィーバーだった「1Q84」から4年も経っていたことに軽い驚きでした。
一応、相当昔からずっとしつこく読み続けている、ぬる〜いハルキストの端くれとして、あ、新刊出るのね、ということで購入しました。
いつも行く書店で予約するとポイント5倍になる、というのでポイント欲しさに予約購入しました(^^ゞ
で、色々今月は慌ただしいので後で読めばいいや〜と思っていたのですが、日曜の夜にとりあえず少しずつ読み進めようかな、と読み始めてそのまま一気に読み終えてしまいました。
一気読みしたということは、期待してなかった割に(こらこら)面白かったということになるかな。うん、個人的には嫌いじゃないです。全体的に何だか懐かしい感じがしました。初期の「風の歌を聴け」3部作と似たような系統、という印象です。時事ネタと、ところどころクラシックに関する記述がやたらオタクじみたというか、昨年だったか一昨年だったかに出た、小沢征爾との対談を彷彿させる部分があるのが昔の作品と違う部分かな。
最初にタイトルを知った時は、意味がわからん!と思いましたが、読むと納得というか、そのまんまだなーと。
悪くはないけれど、ただ、何で今更またこんな内容の作品を書いたのかな? という疑問は残ります。すごく好き嫌いが分かれそう&これが売れに売れている、というのは正直???? です。40〜50代の若いころから読み続けているような読者は、半ば惰性みたいなものがあると思いますが、新しく例えば「1Q84」からファンになったような層って、何が良くて好きになったんだろう?? と(こらこら)。
村上春樹の話って、最後に何かが解決することは決してないし、登場人物は凡そ生活感がないというか、現実味に乏しい人ばかりだし。語弊を恐れずに言えば、かなりファンタジー的な要素が強いと思うので、あまり他人に薦めたくなるような作品ではなく。好きな人だけどうぞってスタンスだと思うので、前作同様そんな瞬間風速的にこれだけが売れる状況は、春樹世界的に言えば「やれやれ」という気がしないでも(^^A
そんなわけで、随分と懐かしい香りがしたので今度時間が出来たら久しぶりに鼠と僕の物語を読み返そうかな。
アラレちゃんの苗字ってのりまきなの?
2013.01.19 Saturday
先日のつばブロの替え歌以来、表題のことが気になってます。明日調べてみよう。
つば九郎さんの今日あったいいこと!の答え
”目覚ましなくて、お昼に起きれた”(平かなだと読みにくいので勝手に変換しました。あしからず、どすからす、ますからす)
つばちゃん、それっていいことなの? と突っ込むべきか?
さすがつば九郎先生、お昼まで寝てしまったじゃなく起きれた、と捉える前向きさが素敵です。と思うべきか。やっぱり後者なんでしょうね。
明日のつばさんぽの様子、大相撲中継やサンデースポーツでちらっと触れてくれるかな?
年が明けてサボリがちだったブログが更に滞りがちになってます。
寒くなってから立て続けに横山秀夫の「第三の時効」「64」高村薫の「冷血」と大作を読んだ感想とかも書きたいなーと思いつつ。
しかし、我ながら色気も笑いの欠片もないラインナップに苦笑するばかりです。秋は割と軽めの系統の本が続いた反動+好きな作家の新作が重なってこうなりました。
「64」はとても面白くて、久々に物凄い勢いで一気読みしました(^^ゞ
寝食忘れるほど、というより1人暮らしだったら絶対に全部そういうのをすっ飛ばしてひたすら読み続けたに違いない、と思ったほどでした。
私は昨年読んだ中で面白かった本ベスト1に挙げたいくらい、嵌りましたが。これ、サラリーマンというか誰かに使われる側の人間だとすごく共感できる部分が多い反面、人を使う側だったり、会社勤めを殆どしたことがない、もしくは面倒な組織のしがらみを体験したことがないような人だと、あまり面白味を感じないかも。
横山秀夫は、本書に出てくる楠見班長のような、傍にいたり上司や同僚だったら絶対に嫌だ、と思うような嫌な人を”嫌なヤツだけどいい味出してるんだよなー”と思わせたり、魅力的に書くのがとても上手い書き手だなと思います。そもそも、あんまり絵に描いたような”いい人”や気さくな人物は横山ワールドには登場しないんだけどね。皆それぞれに欠点を抱えてるけれど、その人間臭さや人間関係の機微についつい引き込まれてしまいます。
「冷血」は高村ワールドなので、恐ろしく分厚かった「64」を更に凌ぐ量&あまりに重すぎて少々時間がかかりましたが、これもとても読み応えがありました。こちらは日を改めてきちんと記事にしたいなと思います。
ロード&ゴー
2012.11.10 Saturday
長い長い1週間もとい2週間が終わり。今日はさすがに疲れ果て有給を取りました。例えば休日に1泊2日の旅行に出かけ、そのまま翌週に突入した場合、月・火と続いて行くとだんだん疲れも回復していくのですが、今回は逆に疲れが加速というかどんどん降り積もっていく感じで。木曜の帰りは運転しながら眠いよ〜状態でした(^^ゞ
昼間、買い物に出かけても、普段の休日だとついつい足を延ばしてあっちに行ったりこっちに行ったりするのですが、そんな気力も殆どなく。あー疲れてるなぁと思いながらも駅から武蔵を経て香林坊までてくてく歩きながら、途中でんん?こういう時はバスに乗ればいいのでは? と気づきました。
でも、普段車通勤なので休みに出かけた時くらいは歩かないとね。
さて、下で予告したとおり今日は先日読んで面白かった本の紹介です。
ロード&ゴー (双葉文庫)
日明 恩
元々は、出張のお供にと読みたかった横山秀夫の短編集が文庫化されたのでそれを買いに行ったところ。この本が目にとまり。たまには読んだことのない作家のものを、ということと何より帯にて有川浩氏が絶賛されていて。彼女がそんなに面白い!という本なら本当に面白いんだろう、と思い購入してみました。
読んだ感想は、本当に面白かった〜〜〜!ミステリーのくくりだけれど、陰惨さがなく読後感がとにかく爽やか。
消防士がらみの事件を扱った「鎮火報」シリーズのスピンオフ作品だそうで。代表作である「それでも、警官は微笑う」シリーズも含めどれも未読だったので、そんなことも全く知らずに単純に救急車がジャックって何だか面白そう、というそれだけで読みましたが、何の問題もなくすらっと話にも入っていくことが出来ました。
序盤は救急車というか、救命士という仕事がどんなものかをストーリ中でつぶさに描き、その上で本題の救急車ジャックに入るのですが、様々なケースを取り上げながら、救命士の仕事内容と各登場人物の特徴も読みながらにして頭に入って来るという展開。
暴走族上がりの元ヤンの主人公・生田温志を軸に美人だけれど、やたらお堅い正義感が服を着て歩いているような森栄利子、救命士の鑑ような頼れる隊長・筒井圭一の3人が勤務中に倒れている見知らぬ男に救いの手を差し伸べたことから前代未聞の救急車ジャックに巻き込まれる、というストーリー。
犯人グループが何故、救急車ジャックなどというとんでもないことをしでかしたかは、ストーリーが進むにつれて明かされていき。それは予想通り、昨今ニュース等で見聞きするような重い悲劇が元になっているのですが、それなりに重いテーマを扱っていながら、何故か読んでいて息苦しくなるようなそんな感じではなく。
救命士同士の固い絆というか篤い友情にほろりと来たり、胸が熱くなったり。
個人的に隊長の相棒的存在の名オペレーター、コマンダー鬼平のカッコ良さに惚れました。途中から勝手に寺島進か椎名桔平あたりが演じたら似合いそうだな、と思いながら見事な仕事ぶりに惚れ惚れしつつ楽しみました。
救急車ジャック自体は、ラスト前に解決するのですが、その後に展開されるストーリーから描かれる各登場人物の姿にじーんと来ます。
実際にそんな光景を目にすることは絶対にないだろうけれど、もし、そんなことが起きたらものすごい壮観だろうなーと思わずにはいられないクライマックスの展開には、かなりわくわくしてしまいました。
普段から、出来ることなら一生救急車のお世話になんかなりたくない、と思い未だに乗ったことはもちろんないですが、この本を通して救命士という仕事の想像もつかないような大変さ、それを全うしようとする人々の心意気に触れ、タクシー代わりに使うような人には厳しく対処してほしい、と心底思います。
今回の登場人物は、本編シリーズでは脇役として登場するそうで。次は本編のシリーズも読んでみたいと思います〜。
吹奏楽部あるある
2012.07.16 Monday
本日、涼みを兼ねて出かけた折、お連れの方が見つけて「これ、きっとアンタならわかるんじゃない?」と薦めて来たので思わず立ち読みしながら爆笑してしまいました。
吹奏楽部あるある
吹奏楽部あるある研究会,菊池 直恵
この先に野球部あるある、というシリーズもあるそうで。学生時代に吹奏楽部だった人には多少の差はあれ、共感する小ネタがいっぱい詰まった1冊。
私は中学〜大学までやってしまった上に、高校も信じられないようなエピソード満載で大学はせっかく都会に行くのだから楽しく泳いで過ごそう、と思っていたはずが……上(この場合下なのか?)には上があるのだとしみじみ思い知らされたほどのありえない逸話満載の筋金入りの吹奏楽学生時代を送ってしまったため、パラパラめくっただけでもわかるわかる!とあるある過ぎて悲しくなったくらいでした。
個人的にツボだった例を上げると
■別名は「体育会系文化部」。
■ドラマや映画の楽器演奏シーンに全力で突っ込む。
■『星条旗よ永遠なれ』を頭の中で再生すると、エンドレスになる。
■校内のマラソン大会で陸上部員とデッドヒートを繰り広げたことがある。
■高校野球でブラバン強豪高が出ると演奏に注目してしまう。
体育会系文化部はその名のとおり。強豪でもなく、単なる部活動の一環だった中学時代でさえ、中学の部活動にありがちな意味のないトレーニングとか満載だったなぁ。
これと似たようなので未だに練習中に水を飲むことを禁止している学校がある、というくだりには、21世紀でまだそんなこと言っている学校があるのかと驚きでした。水飲み禁止は運動部でも定番ネタですが、昭和期の笑えない部活の七不思議のひとつかも。
ドラマや映画の楽器演奏シーンに、はブラバン出身でなくても楽器をやっていた人ならついついやってしまう習性な気も。
ちなみに吹奏楽部のことをブラバンと呼ぶか吹部と呼ぶかで世代が分かれるそうで。吹部という呼称自体初めて聞いたのでへぇぇぇでした。
へぇぇぇついでに、もう1コ驚きだったのが。
福山雅治、堺雅人、つるの剛士は学生時代ブラバンでホルンを吹いていたそうで。後者の2人はともかく、福山とブラバン、しかもホルンてイメージが違い過ぎてびっくりでした。
星条旗はホントそのとおりで、この項を見たおかげで未だにエンドレスになってしまい、誰か止めて〜〜状態です。
校内のマラソン大会は、人によるんじゃないかな。というより、私の周囲は高〜大学含めてマラソンが得意な部員って殆どいなかった記憶が。
私自身は大学時代にやらかしましたが(デッドヒートというか、ぶっちぎりの優勝だと思ったら既に陸上部の子が到着していてすごく悔しかった 爆)、そんな部員はお前だけや、と呆れられたし、単純に子供の頃にずっと水泳をやっていたおかげでマラソンが得意だと思っていたので、これがあるあるの項目にあって逆に驚きでした。
甲子園での応援は、強豪校じゃなくてもまず、この子いいプレーするなーよりも先に応援に耳が行ってしまいます。ついつい「おっここの応援、切り変わりが早くて上手いなぁ」と感心したり。でも、家族は誰もそんな部分に着目していないのでついて来れずけっこう寂しいひとときです。
他にも
■休みがずーっと続いた挙句に少しだけ吹く場面で、うっかり吹きそびれてしまい知らん顔した
というのもタセット(楽章全休)が多い楽器だとありがちかも。ちなみに私自身は、このタセット部分で本番中に熟睡したことが(^^ゞ
それまでの練習がキツ過ぎて演奏会当日はもうフラフラで、前日に練習が早く終わり、帰りに寄った美容院でもカット中に寝入ってしまったほど疲れ果てていたという。
後半の方は強豪校あるある、として現在の吹奏楽界で有名な北海道の高校が取り上げられていたのですが。
●放課後の練習のほかに、朝練、昼練がある
●休みは正月とテスト期間のみ
●部活しかしていないので、当時流行ったドラマや歌を知らない
●土日なのに朝練がある
これはもう首がもげるほど同意でした。でも、これに関してはあまり厳しくない部出身だと逆にそんなのありえない!となるそうで。
あと、パラ読みなので本書に書かれているかどうか不明ですが。
大学時代、行事等の演奏する場でミスをやらかしてしまった場合、その日の終わりのミーティングで必ず全員の前で「本日は何の曲のでミスをやらかしてしまい、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」と詫びると「アホ!」という突っ込みと言うか喝を入れるという儀式があり。入部当初はものすごく驚いたのですが、学年が上がるにつれ抵抗なく喝を入れる側になれるようになっていったのが、今から思うと恐ろしいなぁ。
確か交流のあった他大学でも程度の差こそあれ割と馴染みな光景だったので、当時の関西特有のしきたりだったのか、未だに謎です。
あと、最初の方で”雨なのに金管だけ外で練習”という項目には、思わず雨ならいいじゃない、こっちは雪だったんだからね!と突っ込んでしまいました(苦笑)。これについては、未だに当時の友人に会うと、あれはありえなかったという話になるのですが、今これを打っていてもそう思います。ったく八甲田山じゃないんだから。
でも、雪も嫌でしたが、真夏の炎天下に金管だけずーーーーっと外というのもいったい何の罰ゲームだったのか(笑)。
そんな毎日だったせいで、下宿のおばさんと顔を合わせた際に「あら、いい色に焼けてるわねぇ。ハワイにでも行って来たん?」と聞かれ返答に困ったというトホホな思い出が。
他にもありえない、でもごく一部の界隈ではきっとあるあるな数々が山ほどあるのですが、あまりここで書くと身バレしそうなので。この辺で。
そんなわけで。学生時代、少しでも吹奏楽をかじったことがある方なら、かなり笑えると思いますので、見かけたら手に取ってみてはいかがでしょう?
人間失格
2012.03.24 Saturday
『人間失格』言わずと知れた太宰治の遺作に近い私小説(本当の遺作は『グッドバイ』未完です)。遠い遠い遥か昔の学生時代に読んだきり、それきりだったその本が何故が無性に読みたくなりました。
文庫本を持っていたはず……と本棚を探しましたが見つからず。他にも所持していた彼の文庫本数冊も見つからなかったので、随分前に書籍の整理をした際に処分したのかも。代わりに処分したとばかり思っていた『断筆宣言への軌跡』が見つかりました(苦笑)。
困った時の家族頼み。というわけで、もしかしたら日本の文学シリーズの太宰に収録されているかも。と探したところありました。生まれる前の蔵書なので原題で言うところのごつい単行本くらいの厚さなのに390円。読む前にしばし、当時の390円はどれくらい高価だったのだろう? と余計なことを思ってしまいました。
さて、十数年ぶりに読んだ人間失格。有名過ぎる冒頭の一節以外は綺麗さっぱりどんな内容だったのか忘れていたおかげで、新鮮な気持ちで読むことができました。この本に限らず、当時家にあった蔵書を片っ端から読み漁った殆どの内容はとっくに忘却の彼方。どれも断片的な記憶しかないのが悲しいと言うより、忘れるから何度でも読み返せるのかもしれないな、と。
自分の感想を書く前に、どんな感想があがっているのか調べてみたところ。こういう時ネットの利便性をつくづく感じます。さすがは往年の作品だけあって、なんとアマゾンのレビューが軽く200通を超えていたのには驚きました。
更にネット上に全文が掲載されていたのは驚きを通り越して、いいのか? と。
既に絶版となった書物ならわかりますが、この作品に限って言えば今でも大抵の書店で入手できるのに、わざわざネット上でタダで閲覧させることに少々ひっかかりを感じます。
太宰治といえば、去年だったかもう少し前だったか。教育テレビのJブンガクという英語学習番組で『ヴィヨンの妻』が題材として取り上げられていて軽い驚きを覚えた記憶があります。多くの作品の中から、何でよりによってあれだったんだろう? と思っていたら、一応(って失礼な言い方だけど)あれも『斜陽』や『走れメロス』等と並ぶ代表作のひとつなんだそうで。でも、あの話は取り立てて何かが起こるわけでも、格別文章が美しいわけでもなく。他に取り上げられていたのは「高野聖」や「にごりえ」「三四郎」「枕草子」「細雪」等々。それらに比べると地味な気が。しいて言えば、長さが丁度よかったのかな。
ま、それはどうでもいいとして。
私は太宰治が好きでも嫌いでもないですが、ものすごく好き嫌いが分かれる作家の1人であることにとてもびっくりでした。
ま、作家に限らず有名人なんて好きな人がいれば嫌いな人もいるのでそんなもんかもしれませんが、
普段から内容が自分にとって面白ければ、その書き手の人となりは気にしない方ですが、作品云々より生き方そのものに強い嫌悪感を覚える人、というのも少なからずいらっしゃるようで。呆れるより、そこまで見ず知らずの過去の他人に熱くなれることに逆に感心してしまいました。
あまりひとに誇れるような絵に描いたような偉人の一生ではないのは確かだけれど。そういう生涯を送ったからこそ、生み出せたモノがあっての作品群だと思うので。
過去の自分が、かつてこの小説を読んでどんな感想を抱いたのかは、内容同様全く記憶にありませんが。今、改めて読んでみて、若い読者のように大きな衝撃を受けるとかそういうことはないけれど、何となく何故突発的にこれが読みたいと思ったのかはわかった気がします。
客観的に筋だけ見れば、この小説の主人公である葉蔵が歩んだ道は、彼の言う世間から見れば大きく外れたどうしようもないモノだったかもしれないけれど。彼が本当に人間失格か? と問われれば違うと答えます。そもそも、果たして彼は狂人だったのか、と。面倒臭い付き合い辛い人ではあるけれど、彼の周りの人が思うほど彼自身は狂っていたのではなくひたすらもがいていただけなのでは?そんなことを思いました。
文中、世間というものについて、主人公が思う(語る)くだりに、あぁそのとおりだなと妙に納得してしまいました。
読み手の境遇、年齢色んな要素によって、読後感が激しく分かれる小説だと思います。昼間に読んだので、その後夕食の支度をしながら、あれこれ色々考えてしまいましたが、このところ暫く続いていた重苦しい感覚が吹き払われてしまった気がします。それ、逆じゃないの? という気もしますが。考え過ぎて逆に元気が湧いてきたというか、あれこれ考えるのがバカらしくなったというか。
もし、もう一度読むことがあるのなら、次は人生が残り少なくなった時に再び読んでみたいと思います。
そうそう、件のレビューを見ていたら、これと三島由紀夫の『仮面の告白』とセットで読むといい、と薦めている方がいて、しかも1人じゃなかった!、凄いことを思いつき実践する方がいるもんだ、と。仮面の告白なら、すぐ手に届くところにあるけれど、小心者なのでそんな剛毅な楽しみ方をする勇気はちょっとないのが残念です
お手軽読書
2011.12.20 Tuesday
このところ月1〜2くらいで行く整体で本の貸し出しをしているのに嵌まってしまい、ちょこちょこ少し前に流行した小説を借りてきてはせっせと読んでいます。
最近借りてきて面白かったのは宮部みゆきの「誰か〜somebody〜」と湊かなえの「告白」。どっちも数年前のベストセラーですが、宮部みゆきの方は大きな当たり外れがないので安心して読めますが、「告白」の方は当時やたら新聞の広告欄に掲載されていたのもあってどうなのかな? と半身半疑でしたが、なかなか面白かったです。
取り立てて卓越した描写があったり、ワクワクするようなストーリー展開ではないのに、読みだしたら何故か止まらなくなり一気に読んでしまいました。
昨年映画化され、そちらの方も期待を裏切らず、恐ろしく後味の悪い嫌な作品に仕上がっているそうで。こちらは年末年始のお休みにレンタルして見たいと思います。
「誰か〜somebody〜」が思いの外面白かったので、その続編とも言うべき長編「名もなき毒」が丁度文庫化されいたので、こちらは購入して数ページ読み始めて見たのですが……うーん、もしかして買うほどでもなかったのかも(^^ゞという気が既にしています。でも、これ文学賞受賞作品なんだよなぁ。
ま、最後まで読了したらもう少し印象が違うのかもしれないけど。こちらも年末のお休みにじっくり腰を据えて読みたいと思います。
がっつり読む時間があまり取れないのがジレンマです。
その割に先日の日曜は「坂の上の雲」をBSと地上波続けて2回も見る、なんてアホなことをやってたり(^^A
毎回、すごく楽しんでいる反面、これ高橋英樹、米倉斉加年、渡哲也ら今回のドラマで脇を固めているベテラン勢が順番にいなくなってしまったら、もうこういう感じの作品て二度と作れないんじゃないかと思うと、ドラマが終了することもそうだけど、それ以上にそのことが寂しいです。
それくらい各役者さんそれぞれの演技が見ごたえがあって楽しいです。
伊地知役の村田さんなんて、原作ではこれ以上ないくらい無能で使えない奴として描かれているのをどう演じるのかな?と少し不安もあったのですが、無能で情けない面も晒しつつ、何とも言えない味のある人物になっていて凄いなぁと感心してしまいました。
あと1回で終了なのがすごーく惜しまれます。
ってこんなところで油売っていないで頑張らないと。
ボトルネック
2011.11.16 Wednesday
たまに行く整体院で1年くらい前から本の貸し出しサービスをやっているので先日久しぶりに行った際に借りてきました。
ボトルネック (新潮文庫)
米澤 穂信
こういう時は日頃あまり読まない作家の作品を読もう!というわけで、最近よく見かけるけれど、作品自体は短編を2つくらいしか読んだことがないのでこの機会に長編を1つ読んでみることにしました。
本の裏表紙によると
亡くなった恋人を追悼するために東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
とあります。ぶっちゃけ舞台が金沢とあったのも読んでみようと思った動機のひとつでしたが。こっちの方はあんまり関係ないというか、読み終えてこの作者多分某国立大出身なんだろうなーと思わせてしまうくらい、大学近辺の描写が多く、日頃テリトリーではないので(^^ゞ別に他が舞台でもいい気がしました。この作者は岐阜県出身だそうで。あちら側の方からすると、そんなに北陸の冬って嫌ですか? と問いかけたくなるくらい、小説の中でも冬が嫌だというのが滲んでました。ま、学生時代に外の地域を経験してそう思うのもわかるなーというのはありますが、いや、一応住んでる人いるんだから……と(苦笑)。
そんな前置きはおいといて。肝心の小説は……うーん、不思議というかあまりない小説ですね。このミス大賞を取った作品だそうですが、これってミステリーなの?という突っ込みは置くとして。ぶっちゃけ何故、東尋坊からいきなりIFの世界に飛んでしまったのか、という点は最初から最後まで解明されないというより、解明しようとすらされてないし(苦笑)。SFなのか、というとそれとも違っていて。
取り立てて何か感動的なシーンがあるわけでも、ましてや起承転結があるわけでもないけれど、読み終わった後、少しだけ考え込んでしまう、何とも形容しがたい小説です。
文体も読みやすいのかというとうーん。。となるけれど、難解なわけでもなく。続きが気になって仕方がないようなわくわく感もないけれど、かと言って途中で放り出したくなるような内容でもなく、何となくすらすらーっと最後まで読んでしまいました。
最後の最後にリョウが辿りついてしまった結論は、残酷すぎるけれど、よほど強くあるいは前向きに生きてきた人以外は少なくとも1度くらいはそういう風に思ってしまうことはあるかな?という気がします。
短編を読んだ時も「で、結局なにが書きたかったんだろう?」と思ってしまったのですが、今回も同じような感じかな。
うーん最近はこういうのが受けるのかな。近年の芥川賞作家やケータイ小説よりは読みやすいけれど、全体的にインパクトに欠ける印象でした。あとがきの解説でやたら絶賛されていて、そうなのかぁと。
ただ、タイトルのボトルネックに絡めたくだりは、なるほどなーとけっこうくるものがありました。
あまりに読後感が不思議だったので、ネットで色んな方の感想を探してみたら……見事に評価が割れてました。いくつか見かけた「時間の無駄」とまでは思わないけれど、他の作品を読んでみたいとまでは思わないなぁ。いかにもラノベ、という方もいましたが、ラノベ自体読んだことがないのでその辺はよくわかりません。
と、よくわからない感想(ともいえないな)になってしまいましたが、たまには毛色の違うものも読んでみました、ということで。
最後に内容とまったく関係ない感想を。文庫版ですが、あまりの文字の大きさにびっくりでした。文庫もひと頃より文字は大きくなってはいますが、これ単行本より大きいんじゃ……(苦笑)。
ダイイング・アイ
2011.07.23 Saturday
昨夜ブログを書くはずが、急に涼しくなったせいなのか、夕食のマーボー茄子の唐辛子が刺激的すぎたのか、久々に派手にお腹を壊してしまい、オールスターも途中で断念する有様となりました(トホホ)。9人全員クローザー(一部中継ぎ)リレー最後まで見たかったのになぁ。
今日は久しぶりに読んだ本の感想を。
時々行く整体で本の貸し出しサービスをやっていたので、せっかくなので借りてみました。
ダイイング・アイ (光文社文庫 ひ 6-11)
東野 圭吾
最初の数ページを手に読んでみたところ、面白かったのでこれに決めましたが、あっという間に読めてなかなか面白かったです。
簡単なあらすじは、バーテンダーの雨村慎介はある夜、閉店間際にやってきた見知らぬ男性客に襲われ頭に怪我を負ってしまう。男は慎介が以前、起こした交通事故の被害者の夫だったが、事故の影響か?何故か慎介には事故の記憶だけが抜け落ちていた。
一体どんな事故だったのか慎介が探り始めると、急に行方をくらました恋人を始め、彼の周囲の人間達が次々と不穏な動きを見せ始める。
そんな中、慎介の前に1人の妖しい魅力を放つ女が現れる。どうしようもなく彼女に惹かれて行く慎介だったが、やがて恐ろしい事態が彼の身に起こることに……。
東野圭吾と言えば、言わずと知れたミステリー作家ですが、これはミステリーというカテゴリーに属するものの、いわゆる謎解き小説ではなく。どちらかというとホラーサスペンス的な物語です。
人によっては相当怖く感じる部分もあるかと思いますが、怖がりな私は意外にもさほど恐怖は感じませんでした。謎の女そのものよりも、個人的には冒頭の交通事故の描写が一番怖かったです。
おかげで、それ以来安全運転をいつにも増して心がけるようになりました(^^ゞ免許書き換えの時に見るビデオもそれなりの効果がありますが、あまりにリアルな文字による描写が、視覚より強烈にその情景を脳内に再生させられてしまい、実際にそういう風になるのかどうかはともかく、それだけは勘弁と思ってしまいました。
慎介が起こした事故に隠された真実が明らかになっていくにつれ、それはないでしょ、という突っ込みたくなる部分もあるのですが、展開が気になるのもあって一気に読んでしまいました。
そこまでするかと普通なら思ってしまう、もう1人の加害者=木内の行動は、自分は絶対に出来ないしやりたくもないけれど、現実に彼のような行動を取ってしまうサラリーマンは少なからずいる、ということを断言できてしまえるところに自分も年を取ったんだなぁと実感しました。
多分、この作品が発表された当時に読んだら、きっとそんなのありえない!信じられない!という思いばかりが強く残った気がしますが、そういう意味ではもしかしたら、若い人より中年以降の読者の方がより作品世界に共感(というとちょっと違う気もしますが)出来るのでは?
少し不謹慎ですが、慎介の職業柄か、作中色んな美味しそうなカクテルがいくつも登場するので、今度機会があればこの名前のカクテルを注文してみたい!という衝動に駆られました。
登場人物の1人が口にした「交通事故は運だ」。確かにその通りかもしれないけれど、そう簡単に口にしてしまえるほど軽いものでは決してない、ということを強く考えさせられます。
しかし、それほど怖くはなかったと書きましたが、しばらくマネキンはあまり見たくないかも
東野圭吾の小説の中では、好みが割とはっきり分かれる話だと思いますが、暑〜い日に少しの清涼感を味わいつつ、一気読みもいかがでしょう?
サクリファイス
2010.11.28 Sunday
秋に行った海外出張の際、飛行機の中で読んだ小説がどれも面白く、記事を書こうと思いつつ書きそびれていました。ここのところスイーツの紹介してしかしていなかったので久しぶりに、お薦め本の紹介など。
サクリファイス (新潮文庫)
近藤 史恵
この作者のことは全然知らず、出張前に書店で、乗り物の中で気軽に読めて、泣かなくていいもの(←ここ重要 笑)、できればからっと爽やか系がいいなー、なんて思いつつ探していたところに出会った1冊です。
読む前は自転車レースの話しらしい、ということくらいしかわからなかったのですが、読み始めてびっくりするくらい面白く。どんどんのめり込んでしまい、読み終えた時には自転車のロードレースってこんなに面白い世界だったんだ!と感激しました(単純)。
作者の近藤史恵はミステリ作家だそうで。なので、この物語も例に漏れずミステリ絡みなのですが、ミステリの要素も盛り込みつつも、自転車ロードレースがどんなものなのか、全然無知なものにも自然とその魅力に引き込まれずにはいられない展開になっているのが凄いです。
で、泣かないというのが重要だったのですが、これもしっかりちょっとつーんとさせられてしまいました(^^ゞ
自転車ロードレースは、マラソン等と同じく個人レースだと思っていたら、完全なるチームプレーでしかもそれぞれ役割が決まっている、というのに驚きでした。チームのエースを勝たせるために、アシストと呼ばれる残りの選手が全力でエースの勝利のために尽力する。サクリファイス(犠牲)というタイトルはそういう意味だったのかーと途中で気づく時の爽快さは、ちょっと言葉では言い表せません。
先頭集団の中で暗黙のうちに誰かが交代で先頭を走り風除けとなりながら、駆け引きが展開されるところなんかは、クロスカントリー等に通じるものもあったりして。
そして物語の要であるミステリの謎解きの要素にも、ちゃんとまさかこう来るとはという展開になっているのにも、こう来たかーという感じで気持ち良く裏切られました。
この物語はロードレースの魅力をあますところなく伝えてくれるけれど、決してロードレースってこんなに素晴らしいものなんだよ、なんてことは一言も書かれていません。寧ろ、読み進むにつれ嫉妬や欲、羨望といった醜い部分も思いっきりさらけ出されていきます。が、逆にそれがあるからこそ、余計物語や登場人物に引き込まれていきます。ラスト近く、主人公が前エースが身を以て教えようとしていた真実に辿りついた時に吐く台詞、そのくだりの描写が素晴らしく、何度読み返しても胸が熱くなります。
ちなみにこの続編「エデン」が今春既に刊行済み。恐らく今度は舞台をフランス(スペイン?)に移してになるんだろうけれど、これも文庫化になるのを待って読みたいと思います〜。
植物図鑑
2009.09.20 Sunday
以前のブログでそのうち紹介します、と書いた本の記事もまだですが。こういうものは旬なうちにというわけで。今回は、私らしからぬ(笑)本の紹介です。
植物図鑑
有川 浩
疲れた身体にお薦めです、との温かい文言で紹介をいただいて山菜やら野草を扱うという内容に興味を惹かれ、地元の大型書店に買いに行ったところなんと最後の1冊でした。しかも、レジですぐにブックカバーをかけてもらったため、どんな表紙だったんだろう?と改めて見てみたら……。帯に赤字でデカデカと発売たちまち7万部突破!!この夏、最高のベストセラー恋愛小説!!とあるではないですか。いや〜買う前に見ないでよかったわ。こんなうたい文句先に知っていたら恥ずかしくてレジに持って行けないところでした(笑)。
唐突ですが、私はものすごく泣き虫です。泣き虫という表現が適当でなければ無駄に涙腺が緩いです。しかも、悲劇とか悲恋とか普通の人が泣くような場面ではなく、何でそこで?という場面で突然涙腺が決壊します。
例えが古いですが「タイタニック」では全く泣かないけれど、「ホームアローン」を見に行ったら、最後に両親が帰ってきてカルキン君を抱きしめてくれるシーンで決壊して相当恥ずかしい目に遭った、とかそんな感じです。
そういえば、子供のころ親に連れられて見に行った寅さんでも、周囲の大人が笑い転げる中、必死に涙をこらえていた記憶があります(苦笑)。
なので、公共の場で読んだり見たりするものにはかなりの注意が必要です。
元々、男性が好むような色気の欠片もないようなモノが好きなので、電車の中で読書をしていてもさほど困ることはありませんが、たまにうっかり選択を間違えて恥ずかしい思いをする羽目に陥ったこともあります。
と、前置きが長くなりましたが。そんなわけで(?)、今回紹介する本も、絶対に外では読めない本です。
平凡なOLのさやかが、ある晩1人暮らしをしているアパートに帰ると、家の前に見知らぬ若い男性が行き倒れていた。
驚くさやかに男が放った一言「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。咬みません。躾のできたよい子です」。それがきっかけとなり、奇妙な同居生活が始まった。住環境を提供する代わりに、男=イツキが一切の家事を引き受ける。家事が苦手なさやかにとって、願ってもない条件で始まった同居生活は、巡る季節とともにさやかに今まで全く知らなかった世界を教えてくれるものとなり、それとともに募っていく相手への思い。
とある事件がきっかけとなり、お互いの思いを伝え合うことに成功した2人。けれども、幸せな生活は長くは続かず。ある日、たった2言の書置きを残し、イツキはさやかの前から消えてしまう。残されたさやかは……。
あらすじだけを書いていると、本当に絵に描いたようなベタな展開で、何だか気恥ずかしさが募るのですが。そこは作者の技量が光ります。話の組み立て方がとにかく上手くて。冒頭のシーンが後半、測ったように出てきたときはやられた!となりました。読み終えてものすごく幸せな気持ちになりました。というか、途中から「誰かを好きになるっていいなー。あー恋がしたい」と柄にもなく思ってしまったくらいです。
紹介してくださった方が最初に言ったとおり、どこからどう見てもラブコメ以外の何物でもないのですが、それが決して厭味でなく。
さやかとともに色んな野草の名前、料理法を覚えていくうちに、どんどん物語に引き込まれていきます。
癖のない読みやすい文章の中に、はっとさせられる表現がたくさんあり、思わずそのとおりかも、と頷いてしまいました。
特に冒頭の「女の恋は上書き式、男の恋は保存式」には上手いっそのとおりとものすごく納得してしまいました。普段、そんなことを考えたこともなかったですが、確かに言われてみれば本当にそのとおりで。女は失恋してどんなに落ち込んでいても、新しい恋が見つかれば綺麗さっぱりとはいかないまでも、記憶の底に沈めてしまうけれど、男はそうはいかない。
とにかく出てくる野草、どれもがとても魅力的で。この本を読むと無性に道草に出かけたくなります。山菜はどれも苦手なので、採っても殆ど食べないことが多いけれど、イツキが作る野草料理の描写があまりに活き活きしていて、今度春が来たら作ってみたいと思ってしまいました。
フキノトウの天ぷらだけは、さやか同様無理だけど(笑)。
イツキもさやかも、どちらも魅力的で2人がだんだんと自然に距離を縮めて行く過程が微笑ましくあーいいなぁこういうのってと思う反面。
個人的には損な役回りとなってしまった竹沢クンがとても印象に残りました。文中にあるように、きっと彼相手なら、将来も安心付き合ったら優しくて楽しい彼氏になるだろう、と思います。でも、人を好きになるのは理屈じゃない。しかも、意外とこういうタイプは、実際にはそれほどモテなかったりもする、ということを見てきてしまっているせいか、ついつい応援したくなってしまいます。
さやかに個人的なお祝いをあげるシーンなんて、おーなんていいヤツなんだ!と嬉しくなってしまいます。そんなお人よしがいるか、と突っ込まれそうですが、でも、こういう人って本当にいたりするから世の中まだまだ捨てたもんじゃなかったりするなーとも思ったり。
そんなわけで、明日はさやかとイツキにならって、久しぶりに散歩に出かけようかな。
命の重さ
2009.08.21 Friday
今日は先月末に読み終えてずっと書こうと思いながら、バタバタしているうちに日が経ってしまった本の紹介です。
シベリア抑留とは何だったのか―詩人・石原吉郎のみちのり (岩波ジュニア新書)
この本を知ったのは、たまたま手に取った雑誌のお薦め本コーナーにて紹介されていたのがきっかけです。読んでみたいというより、何だかこれは読まなきゃという思いに駆られ購入。甲子園に行く車内で読破しました(そういう時に読む本じゃないだろーという突っ込みはこの際ナシです^^ゞ)
強制収容所を生き延びた詩人・石原吉郎は、戦争を生み出す人間の内なる暴力性と権力性を死の間際まで問い続けた。彼はシベリアでいったい何を見たのか? 石原を軸に抑留者たちの戦後を丹念に追った著者が、シベリア抑留の実態と体験が彼らに与えられたものを描き出す。人間の本性、生きる意味について考えさせられる一冊。 本書裏表紙より
シベリア抑留って何だろう? 太平洋戦争の戦いについては、毎年8月が近づくと必ずメディアで組まれる特集を見たり、子供の頃に聞いた校長先生や教頭先生の体験話、或いは子どもとして戦争を実際に体験した父母から聞いたりしてこれまでに少しずつ知ってきました。が、シベリア抑留、と聞いても何となく戦後ソ連で強制労働させられた人々がいたということがわかるのみで、実際にどんなことがあったのかまったくと言って知りません。
恥ずかしながらこの本で取り上げられている詩人・石原吉郎についても初めて聞く名前でした。
そのため、本書で語られることすべてが衝撃的で、こんなことが実際にあったのかという思いがとても大きく。読み終えた後とても色々なことを考えさせられました。
太平洋戦争は1945年8月15日で終結した、というのがこれまでの認識で。それは本当にそのとおりなのですが。でも、このシベリア抑留は1945年9月から始まっています。中国各地や南の島などで戦っていた兵士達が順番に本土へと引き揚げ始めた時に、祖国へ帰るのではなく、見知らぬ国・ソ連へと送られた上に彼らを待っていたのは想像を絶する世界だった…。
それが戦争、敗戦というもので、日本だって戦時中アジア諸国の人々に対して口では言えないようなことをしてきた、と頭でわかっていても、やりきれないなんて簡単な言葉では言い表せない思いがこみ上げてきます。
でも、それ以上に衝撃だったのは、そんな抑留からようやく解放され夢にまで見た祖国へ帰ってきた人達を待ち受けていたのは、温かい出迎えでなく。赤=共産主義者というレッテルを貼られ、故郷の人はおろか家族からさえもある種拒絶される、という現実のむごたらしさでした。
そういえば昔読んだ「蒼ざめた馬を見よ」の中に、とある人がアカと目され尾行や警官の訪問などを受けるシーンがあり、その時はその状況がいまいちよく飲み込めなかったのですが、あのくだりはこういうことを言っていたのか、と初めて理解しました。
文中に紹介された石原氏が残した言葉
<もっとも恐れたのは「忘れられること」であった。故国とその新しい体制とそして国民が、もはや私たちを見ることを欲しなくなることであり、ついに私たちを忘れ去るであろうということであった>
という一説が決して誇張や被害妄想でも何でもなく、現実はそれ以上に過酷であったことに胸が塞がれる思いです。
他にも捕虜たちが乗せられたシベリア行きの貨物車「ストルイピンカ」の壁には平仮名やカタカナで日本人の名前が多数書かれていた、という記述と。シベリアから帰国した方の「名無しで死んでいくのは、”人間”の死じゃない」という言葉が忘れられません。
また上にあげた事柄と関連して、石原氏がヒロシマの平和運動に対して投げかけた疑問。
<私は、広島告発の背後に「一人や二人が死んだのではない。それも一瞬のうちに」という発想があることに、つよい反撥と危惧をもつ。一人や二人ならいいのか。時間をかけて死んだものはかまわないというのか。戦争が私たちをすこしでも真実へ近づけたのは、このような計量的発想から私たちがかろうじて助出したことにおいてではなかったのか 後略>
これにははっと胸を衝かれる思いでした。戦争被害者に限らず、たとえば災害などでも100人が亡くなれば大惨事として取り上げられるけれど、1人の場合はさらっと流されてしまいます。私自身もつい被害が少なくてよかった、と思ってしまいます。でも、その亡くなられたたった1人の人も同じ”人間”です。100人ならとてつもない重さで1人なら大したことはない、と思ってしまうその感覚。それがとても怖いです。
石原吉郎は今から30年くらい前に亡くなられたそうで。今では彼が残した詩集や評論、抑留について語った記録など書店で見かけることは皆無です。
試しにこの本を読んだ翌日、梅田の紀伊国屋書店に行き探してみましたが、本当にどこにもなく。それどころか時期的に太平洋戦争に関する書物が山と積まれていましたが、その多くが沖縄戦や戦争そのものを検証するもので。シベリア抑留についての本はこの本のみで。そのことが余計に色々考えさせられてしまいました。
元々シベリア抑留については、体験した方もあまりに筆舌に尽くしがたい状況、人には決して言えないことなども含め語りにくいのだろうと想像します。でも、だからと言ってそんなことがあったことすら、ともすれば忘れてしまうような今の状況はやはりいけないのではないか。
実際に体験した方々が辛うじてまだ生きている今のうちに、どういうことがあったのかきちんと語り継いで行くことが大切なのではないか、と強く思います。
子供の頃、ソ連という国が何故かはわからないけれどものすごく怖いイメージでした。
ペレストロイカからさほど経っていない時にトランジットで初めてロシアという国に足を踏み入れた時。空港内は薄暗く、天候も悪く。少しだけ連れて行ってもらった市内観光でも、あまり人気のない町並みとたまに見かけた人は何故か一様に黒い大きな犬を連れていて「犬さえも黒くて怖いよ」と思ってしまったくらい。その晩泊ったうらぶれたホテルでも、意味のない恐怖感(汗)でとても熟睡できなかったことを覚えています。
その後、ロシアンスケーターを応援するようになり(苦笑)、ロシアのイメージが一気に怖い国から身近なモノへと変わり。いつかじっくり訪れてみたい国になりましたが。本書を読んであのよくわからない恐怖感は、知らないうちに刷り込まれていた過去の人々が体験したことによるのかも、と思いました。
上手くまとまりませんが。楽しい本ではないけれど、少しでも興味を持った方がおられましたら是非読んでみることをお薦めします。
ジュニア新書のカテゴリーだけあって、内容の重さとは違いとても読みやすい本です。
ルパンの消息
2009.05.10 Sunday
今日は元気があれば映画を見に行こうかな、と思っていたのですが。
朝起きて諸々掃除やら洗濯やら雑事を済ませたら面倒くさくなってしまったので(^^ゞ1日のんびり過ごしました。
このところ運動不足なので、とあるところへ出かけるのに片道20分くらいかけて歩こうかな、と帽子を被り準備万端で家を出て1分もしないうちに、あまりの陽射しの強さに諦め、結局車で出かけてしまいました
2日くらい前までは少し寒いくらいだったのに、急激な気温の変化におかしくなりそうです。
さて、連休中に読んだ本の感想など。
ルパンの消息 (カッパノベルス)
横山 秀夫
このところすっかりお気に入りの横山秀夫の幻のデビュー作が文庫化され、本屋に山積みになっているのを眺めながら、でも買うのはもったいないし……と家に帰り何気なく書棚を見たら、新書版があったのでちゃっかり拝借しました。
「昭和」という時代が匂い立つ社会派ミステリーの傑作!平成2年12月、警視庁にもたらされた一本のタレ込み情報。15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は殺人事件だった―しかも犯人は、教え子の男子高校生3人だという。時効まで24時間。事件解明に総力を挙げる捜査陣は、女性教師の死と絡み合う15年前の「ルパン作戦」に遡っていく。「ルパン作戦」―3人のツッパリ高校生が決行した破天荒な期末テスト奪取計画には、時を超えた驚愕の結末が待っていた…。昭和の日本を震撼させた「三億円事件」までをも取り込んだ複眼的ミステリーは、まさに横山秀夫の原点。人気絶頂の著者がデビュー前に書いた“幻の処女作”が、15年の時を経て、ついにベールを脱いだ。第9回サントリーミステリー大賞佳作。 Amazonより
横山氏の作品は何作か読み、どれも甲乙つけがたい面白さなのでこれも期待して読みましたが……いや〜期待を裏切らないというか期待以上に面白かったです。処女作なので、現在の作品では使わないような描写もあり、それが逆に惹き込まれる要素にもなっていて、個人的には氏の作品のベスト3くらいにあげたい気に入りました。
物語は、15年前の事件と作中における現在(ここでは1990年12月)が交互に展開していくのですが、自然な感じで過去と現在を行ったりきたりしつつ、登場人物たちの過去と現在が見事に浮き彫りにされ、ほろ苦さをかみしめさせられてしまいます。
事件の鍵を握る期末テストの答案用紙をという”ルパン作戦”がネーミングといい、その手口といい男子高生の悪がきっぽさがとても感じられ、どんな風に実行していくのか、わくわくさせられっぱなしでした。
教師のあだ名とか、細かな部分でそうそう高校の頃ってこんな感じ、と思いださずにはいられない描写が心憎いです。
一方で、時効と闘いながら捜査を進めていく警察官達の心理描写や人間ドラマもしっかり描かれていて、そちらの方でも飽きることなく読み終えることが出来ました。
最後にはえー、そうだったの!?と思う大どんでん返しもしっかり用意されていて、しっかり嵌められたのが悔しいと思いつつ、やはり泣いてしまいました。
あらすじ紹介にもあるように、今は亡きサントリーミステリー大賞で佳作に入ったそうですが、ストーリーや個性溢れる登場人物など、ドラマ化するのにぴったり。でも、最近の2時間ドラマじゃ却って陳腐なモノに作り変えてしまって興ざめかな?と思ったら、、既にWOWWOWで映像化されDVDにもなっているんですね。ちらっと見た方の感想を読んでみたら、けっこう好評のようなので近いうちにレンタルで探してみたいと思いますー。
しあわせのねだん
2009.03.05 Thursday
3月に入り、初日こそ頑張って(?)書いたものの、いったん日を置くとずるずるいきますね(^^ゞ
そもそも平日なんてほとんど家と職場の往復しかしていないので、そんなネタもなく。
そういえば、最近朝通勤する時に妙に道路がすいていて、少しくらい家を出る時間が遅くなっても早く着くことが多くなりました。
やっぱり休みの人が増えてるのかなぁと思うこのごろ。
不況が関係ない業種もありますが、ウチの職場は製造業なので聞こえてくる声も景気の悪い話ばかり。週休じゃなく出勤が週2日なんてところもあるので、そういうところに比べれば恵まれてるなぁと思うけれど、何となく先行き不安感がずっとつきまとってます。
とはいうものの、毎日おいしいご飯が食べられてあったかい布団で眠れる上に、遠くはいかなくとも近くでちょこちょこ楽しんだりできるだけ十分すぎるくらい幸せなんだけどね。
さて、そんな幸せって何だろう?ということを教えてくれそうなタイトルの本が書店に並んでいたのでぱらぱらと立ち読みしてきました。
しあわせのねだん (新潮文庫)
角田 光代
作者が日々の暮らしの中でのお金の出入りについて綴ったエッセイ集。
基本的にお金に無頓着な人らしく、お金についての無邪気というか能天気とさえ言える発言に思わず苦笑いしてしまう部分もあるのですが、妙にほのぼのというか、この人と自分てもしかして同類項?と思える部分がたくさんあって、読みながらニヤニヤしてしまいました。
立ち読みなのでささーっとしか見ていませんが、ひとつだけやけに心に残ったのが、その中で人は精神的に不安定になると不相応な買い物をしてしまう、という意味のことが書いてあるくだり。確かにそうかも、、と思わずわが身を振り返り納得してしまいました。
小心者なので、そんな大きなモノは買えないですが、確かに何となく気分が塞いだ時やずずーんと落ち込んだ時など、やたらあれもこれも欲しくなったり、ちょこまか必要のないものを買っていたりすることってあります。
買い物した直後って妙に晴れやかな気分になるしね(あとでしまったと思うこともあるけれど^^ゞ)。
さて、明日はいよいよ楽しみにしていた神尾真由子。どんな演奏を聴かせてくれるのか楽しみです♪
ポトスライムの舟
2009.02.23 Monday
現在発売中の文藝春秋に芥川賞受賞作品が掲載されていたので、週末に読みました。
ポトスライムの舟
津村 記久子
少し前から芥川賞作品より直木賞作品の方が自分には読みやすくなってしまい、今回のもさほど期待せずに読み始めてみました。
簡単なあらすじは
工場に契約社員として働くナガセ。29歳独身。古い家に母親と2人で暮らしている。これといった夢も特にない彼女はある日、工場の壁に貼られていたポスターに書かれていたボートで世界一周旅行に行くことを思い立ち、費用163万円を貯める決意をする。
そんな彼女の家に友人が子供を連れて居候することになる。平凡だった暮らしにささやかな変化が生まれるが、やがて春が近づく頃、友人は無事職を得て子供とともに新しい住まいへと移ってゆく。
尻切れトンボのあらすじ紹介になってしまいましたがあまりストーリーらしいストーリーがなく、ただ淡々と日々が過ぎていく様子が綴られていて、少し退屈さを感じてしまいました。
一時期の芥川賞作品に見られた、文体そのものが合わないということはなかったですが、物語全体を覆うなんとも形容しがたい閉塞感がずっとつきまい短い作品なのに読了するのに意外と時間がかかってしまいました。
特にこれといった展開もなかった物語はラストに突然、とある出来事がきっかけで爽やかな方向へと変わり、ほんの一瞬すがすがしい気持ちになったのには少々驚きました。
うーん、、何と言っていいか非常に困ります。”微妙”という言い回しは好きではないけれど、本当に微妙な作品です。
登場人物の誰かに共感を覚えるわけでもなく、物語から何か思うところがあるわけでもなく。ところどころ、女友達との会話のくだりなど、あーこういうことってあるな、と思う部分もありましたがそこから某かの感情が湧いてくることはなく。
身も蓋もないことを言ってしまえば、わざわざ小説にする必要があったのかな?と。
今年もやっぱり合わなかった芥川賞作品。それだけ自分が年を取ってしまったということなのかなぁ。。と思うと侘しさが残ります(苦笑)。
こういう時はお気に入りの小説で気分転換を図ろう♪
無痛
2008.10.25 Saturday
このところ週末になると、来月の17キロに向けてせっせとウォーキングに精を出しています。
今日は久しぶりに伏見川沿いを歩いてみたら、時節柄マガモくん達の群れがたくさんいて、バシャバシャ音を立てて泳いでるのがいるかと思えば、首を丸めた身体の中に突っ込んで、パッと見は丸い茶色い石にしか見えない集団もいたり。春先に我が家でちょっとしたブームになったスズガモには敵わないけれど、鳥好きにはかなり癒される光景でした。
でも、あの首を身体に突っ込むのはお昼寝をしているのか?気になります〜。
平日は沢山歩けないのでなるべく歩いたり階段を使うように心がけていたら、心なしかふくらはぎにちょっぴり筋肉がついたような(苦笑)。
でも、おかげでちょっとした距離を歩くのは苦痛ではなくなりました。せっかくなのでもみじウォークが終わっても寒いけど、出来るだけ歩く習慣を続けられるよう頑張ろうっと。
さて、少し前に読んだ本の紹介を。
無痛 (幻冬舎文庫 く 7-4)
大体ここで取り上げるのは読んで面白かったものが多いのですが。今回は例外中の例外。かつてない辛口になると思いますので、それでもOKな方のみ下からどうぞ。
閉鎖病棟
2008.09.21 Sunday
今日から3連休♪ ウチの職場はときどき土曜出勤がある代わりに年に数回、こんな風に飛び石連休の谷間を埋める形で連休があるのが嬉しい。もちろん普通の連休も嬉しいけれど、平日のお休みは貴重&色んなことが出来るので今から明日はこれとあれをして…とウキウキしてます。
初日の今日は生憎の空模様だったこともあって、雑事を済ませた後はひたすらのんびり。おかげで先週の旅行疲れもようやく取れたかな。
数年前に姉が旅行に行くと疲れがなかなか取れなくて、と言っているのを聞き。そうかなぁ、旅行に行ったら目いっぱい行動しなきゃ損(←せこい)くらいに思っていたのですが。このとろこ実感してます。夏のライブの時は翌日はまったりのんびり過ごしたので大したことはなかったのですが、今回は2日間歩きまくったおかげで、月曜日は爆睡。火曜からはずっと日曜日を心待ちにしてました
そんな旅行の移動中に読破したのがこれ。
閉鎖病棟 (新潮文庫)
とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと駆り立てたものは何か?その理由を知る者たちは―。現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。山本周五郎賞受賞作。 裏表紙に記載のあらすじより
書店でぱらぱらとめくり、読みやすい文体に惹かれ購入しましたが、ものすごくよかったです。
あらすじに感涙を誘うとありますが、感涙なんてものじゃなく。電車の中で静かに号泣しました。
決してお涙頂戴的なストーリーではないのに、登場人物たちの優しい、真っ直ぐな言動に涙が止まりませんでした。
電車が空いていて心の底からよかったと思いましたもん(^^ゞ
昨今、信じられないような事件が起こるたび、精神鑑定云々ということが言われます。
また、犯人は精神科に通っていてというような報道がされると、無意識のうちに「あ、やっぱりね」ということを思ってしまったりするように、精神病院と聞くとどうしても怖い、というようなイメージを持ってしまいがちです。
でも、ここに出てくる患者達は、確かに皆少しだけ人と違うところもあるけれど、誰もが自分たちと同じようなことで悩んでいたり、しごくまっとうな考えの持ち主であることに驚かされます。
当たり前ですが、彼らは皆自分の家に帰りたいと思っているけれど帰れない。
誰かが退院していく時、笑顔で送り出したいとは思っていても、素直によかったねと言えないことを知っているから、出て行くほうも仲間達に退院することを告げられない。
そんな当たり前の気遣いが切なく、戻れない者達の辛さが心に沁みます。
また、随所に見られる患者を見守る医師・看護士側と厄介者としてしか見ようとしない家族、の両者の心情の違いにも心を抉られます。
後半、退院させることを渋る家族に向かって放った主任看護婦の台詞は、心からの問いかけが胸を打つ一方で悪役的な描かれ方をしていた彼女の本当の姿を見せられたようで、胸がすく思いでした。
こんな時代だからこそ、より心を打たずにはいられない一冊です。
氷の華
2008.07.12 Saturday
毎日暑いですねー。仕事に行っている時は涼めるけれど、家にいるときはひたすら汗だくです(^^ゞ
汗をかくのはいいことだとは思っていても、こう暑くてだくだくになるとそれだけで体力を消耗します。
暑さにかまけてサボっている間に読んだ本の感想を今のうちに。
氷の華 (幻冬舎文庫 あ 31-1)
天野 節子
元は自費出版で出したものが、好評で大手出版社から文庫化されたという新聞広告に吊られて読んでみました。
涼しげ(?)なタイトルが今の時期に丁度いいかも。
専業主婦の恭子は、夫の子供を身篭ったという不倫相手を毒殺する。だが、何日過ぎても被害者が妊娠していたという事実は報道されない。殺したのは本当に夫の愛人だったのか。嵌められたのではないかと疑心暗鬼になる恭子は自らが殺めた女の正体を探り始める。そして、彼女を執拗に追うベテラン刑事・戸田との壮絶な闘いが始まる。長編ミステリ。 裏表紙の紹介文より
新聞紙上で絶賛されていましたが、確かに読み始めたら止まらなくなり結局一晩で読了してしまいました。
作者の方は還暦を過ぎて自費出版された、いわば人生の練達者。よく練られた文章がとてもよみやすく、各所で貼られた伏線が終盤になって見事に解き明かされていく様が痛快でした。
ヒロインの恭子は、ある嫉妬に駆られ殺人を犯した後、自身が置かれていた本当の境遇を知り、復讐を誓い実行していく”悪女”なのですが、あまり悪女の匂いを感じさせず、見方によっては、高慢ちきな鼻持ちならない女とも言えますが、それが決して嫌味でなく、共感はしないもののこういう生き方もあるかな、と妙に納得させられてしまいます。
一見、完全に見えた恭子の犯罪は思いがけない人物の行動により、一気に破綻するのですが、人と人の繋がりの大切さを改めて教えられた気がします。
プライドが高く非常に頭がいい恭子より、そんな恭子にある思いを抱いて接近し、十数年越しの復讐を果たすもう1人のキーパーソンの方が、個人的に苦手かも(^^ゞ
子供の為なら鬼にもなる、事件の鍵を握る被害者・関口真弓も含め、女って怖いというのが存分に味わえる作品です。
震度0
2008.06.13 Friday
震度0 (朝日文庫 よ 15-1) (朝日文庫 よ 15-1)
横山 秀夫
先日から読み始め、先週末の旅行で一気に読了。面白いというとちょっと語弊がある気もしますが嵌ってしまい、もう一度再読してしまいました。
未曾有の大震災の朝、N県警の1人の幹部が失踪。事件か蒸発か?N県警最高幹部6人がそれぞれの利害と保身と野心をかけて震災そっちのけでパワーゲーム(権力闘争)を繰り広げる様を描く。
N県警と聞いて真っ先に長野県を思い浮かべてしまったのですが(^^ゞ、舞台は長野ではなくそのお隣の新潟県でした。
県警本部庁舎と県警幹部公舎という非常に限られた舞台を逆に活かし、狭い空間で広げられる腹の探り合い、エゴとエゴのぶつかり合いをそれぞれの視点から追いかけながら、同時に事件も解明していく展開は緊張感とスリルに溢れいてページを繰るのがもどかしいくらいでした。
それぞれかなり極端に性格付けされた幹部6人の言動の滑稽さに呆れながらも、目の前で展開されているかのようなリアルな描写にどんどん引き込まれていきます。
前半、随所に散りばめられた象徴的なシーンの謎が後半、パズルが組み合わさるように解き明かされていくのが痛快で、ストーリーを追うのに夢中でつい見落としていた台詞や言動を再読して発見して、緻密な構成に唸ってしまいました。
多分、もっと若い頃にこの手の小説を読んだならとにかく彼らの無責任さ、保身ぶりに腹が立つばかりだったと思いますが、いい加減会社勤めも長くなってしまうとここまで極端でないにせよ、どこかで見たような風景に妙な親近感と可笑しさがこみあげてきてしまい、心ではサイテーと思ってもどうも憎めません。
「背広姿で汚れもせずにあの現場へ辿り着くことはできない──私はずっと神戸の映像を見続けていたんです」
同じ日に起きた阪神大震災には、業務上携わらざるを得ないただ1人を除き誰1人目もくれず。次々と報告される恐ろしい数字は単なる数字の羅列でしかなく、映像さえも目の前を素通りしていく。それに罪悪を感じることさえなかった彼らが、初めてほんの少し現実を直視させられたと思うこのシーン。とても心に残りました。
登場人物同様、読者も、とりわけ当時遠くでテレビが伝える映像を見ているだけだった読者にも堀川が発した言葉の重みを感じさせずにはいられない場面です。
小説の中では阪神大震災は同じ日に起きた大事件として登場するのみで、実際のストーリーとは無関係なことに批判的な向きもかなりあるようですが、私は逆にその方がよかったと思います。
遠くで大惨事が起きていようとも、目の前の小事にしか関心が向けられない人間の愚かさを見事に描き切る様は痛快であると同時に、己を省みて胸が痛みます。
この小説の主人公は”情報”だ、というのがハードカバーに添えられた作者の言葉ですが、最後まで読み終えて納得です。確かに主要人物6人のうち誰もが主役ではなく、誰の視点からでも読めるようになっています。今回は何となく冬木目線で読んでしまったので、次は別の人の気持ちになって読んでみようかな。
それにしてもこの小説のラストページ後の彼らが猛烈に読みたいです。
タイトルどおり震度0のまま押し通すのか、それとも決定は覆されるのか、だとすればそれは誰が? そんなことを考え出すと止まらなくなります。
阪急電車
2008.03.12 Wednesday
少し前から新聞広告などで見つけ、読もうと思っていたものの大きな書店になく、昨日の帰りに近くの小さな書店に置いてあるのをたまたま見つけて購入。
少しずつ読むはずが、やめられなくなり気がついたら一気読み。おかげで今日は少々寝不足でした(^^ゞ
阪急電車
有川 浩
西宮北口→門戸厄神→甲東園→仁川→小林→逆瀬川→宝塚南口→宝塚
片道わずか15分の阪急・今津線を舞台に恋の始まり、別れの兆し、人生の転機etc.電車にたまたま乗り合わせた人々が紡ぎ出すそれぞれの物語。
各物語は一見、バラバラなように見えてレールが終着駅へと繋がっているように、それぞれの物語も電車・駅という小さな空間にたまたま居合わせることにより連なり、そこから新たな話が生まれたり、その場限りの素敵な繋がり・エピソードを残しまたそれぞれの日常へと帰っていく。
私がこの本を読もうと思ったのは、ずばり舞台が今津線だったから(苦笑)。最初、タイトルと路線をつなぐ云々、という文句を見たときはてっきり神戸線だと思っていたのが、広告の下に書かれた駅名を見てびっくり。
かつてこの沿線に住み、数え切れないくらいこの電車に乗っていたモノとして、あの短い路線、小さな各駅を舞台に一体どんな物語を描くのだろう?ということがどうしても知りたかったから。
有川浩、という作者は全く知らず、本書が初めてでしたが。
冒頭の1人で電車に乗っている人の描写、そのリアルさにいきなり惹き込まれ、登場する初々しい人物たちが交わす会話の面白さに止められなくなり、折り返し地点で残りは明日にしよう、と思っていたはずが一気に読了してしまいました。
各駅・街の特徴を話に反映させた巧みなストーリー展開はお見事。ありありと情景が浮かんでくる風景描写や関西ならではのボケっぷりで笑いを取ったかと思えば、読んでて赤面するくらい可愛い恋の会話があったり。
でも、それが全く嫌味なく、あぁこういう気持ちっていいなぁ、と読んでいてこちらも微笑ましく・嬉しくなるような甘さが心地よく、読み終えたときには人を好きになるっていいなぁ、と今更なことを噛み締めてしまいました(^^ゞ。
どのエピソードも面白いのですが、中でも各話に登場する下は小さな孫娘から上は、芯がきりりと通ったおばあさんまで、様々な年代の女性達がとにかく魅力的。もちろん全てが素敵な女性ばかりではなく、中には「いるいる、こんなおばさん!」と目を顰めつつ声を大にして共感してしまう、傍若無人なおばさんも登場するけれど、どの女性たちも一生懸命「今」を考えて生きているのが伝わってきて、読み終えた後とても爽やかな、周りの人を大切にしなきゃ、という気持ちになりました。
個人的に、結婚間際の彼氏を冴えない同僚に寝取られ、結婚式に討ち入りした翔子さんと、ピンと伸ばした背筋が見えるような孫に対しても適度な距離を保っているおばあさん・時江にすごく惹かれました。
電車に乗っていて偶然耳にした会話がきっかけで、今の自分を見つめなおしたり、見ず知らずの人が何気なくかけた一言から大きなものをもらう、ないとは言い切れない、寧ろそういうことって意外とないようであったりする。
もちろん、この話に出てくるような素敵な出会いばかりではないけれど、何だか無性に電車やバス(ウチの地域はこういう私鉄の電車がないので^^ゞ)に乗って誰かに会いたくなりました。
ロクでもない事件やニュースが多く、何だか人間不信になりそうなこの頃ですが、久しぶりに人っていいなぁ、としみじみと実感した1冊です。
物語中で小林(こばやしではなく”おばやし”と読みます)が絶賛されているのですが、これには私も同意。小さくてちょっぴり田舎っぽい感じもするけれど、あったかくてとてもいい街です。食べ物も美味しいしね。もう一度あの沿線に住めるのなら、今度は小林に住みたいなー、なんて本書を読みながら思ったほど。この小林駅のツバメではないけれど、当時の今津線の駅には何故かハトがいつも沢山いて、たまに駅のベンチに座って、鳩の可愛らしい仕草をひたすら眺めているのがとにかく楽しかったことを懐かしく思い出しました。
ところで西宮北口、当時は皆”きたぐち”と呼んでましたが、今は”にしきた”というんですね。そんなところも新鮮でした。
逆瀬川の中洲にあった、”生”のモニュメント、見てみたかったなぁ。
あ、1つだけこっそり突っ込み。物語中に登場するとある学校、土曜はお休みで授業はありません
あぁ、阪神タイガース
2008.02.23 Saturday
2週間前くらいの新聞紙上で見かけて気になっていた本を家族が購入してきたので回し読みしました。
あぁ、阪神タイガース―負ける理由、勝つ理由 (角川oneテーマ21 A 77)
野村 克也
阪神にあったのは、「負ける伝統」だ! 阪神ファン絶対、必読!
と黄色い帯に黒字(一応こだわりなわけやね 笑)で大きく書かれているのが目を惹きます。
30分くらいで読めるかな、との目論みは大きくはずれ何だかんだと1時間半以上かかって読了。
ノムさんのことだから、一体どんな辛口が飛び出すのやら、、と内心ヒヤヒヤしながら読み始めましたが、遠慮もあるのか(?)、ノムさんもあれから何年もたち丸くなられたのか、もちろんファンや選手にとってはなかなか耳の痛い内容ですが(^^ゞ、わかりやすく懇々と説かれた何故阪神はダメなのか、というノムさんなりの考えやチームの実情などが思いの外面白く、随所にノムさん節も炸裂させながら、ふむふむなるほどなーと思いながら一気に読んでしまいました。
辛口なノムさんなのでかなりの選手がメッタ斬りとはいかないまでも、バッサバッサやられてますが不思議と腹は立たず。
人を誉めないことでは有名なノムさんだけど、井川へのアドバイスのくだりは、そういうことも出来る人なんだなーと意外な一面を見せてもらった感じで楽しかった。
関西人と阪神のあの独特ななんとも形容しがたい関係も「さすが、よくわかっていらっしゃる」と頷きっぱなしでした。
子供の頃からタイガースファンだったから、阪神地域に住めた時はすごく嬉しかったけど、でも、阪神ファンでもなく、まして野球のルールも知らない友人が「六甲颪」をソラで歌えるのを知った時はすんごいカルチャーショックを受けました(苦笑)。
でも、自身でも認めているように、言ってることは正しいしいちいちごもっともなんだけど、言われた方が「この人についていこう」「コイツの為に何とかしてやろう」と素直に思えないところが不幸というか、気の毒な部分だなーと。実際、私もノムさんみたいなタイプが上司だったら間違いなくパスしたいと思ってしまうので色んな選手のエピソードは、やけに共感する部分がありました。
でも、その時は反発しても後から「あの時のあれが……」と感謝している人が多いことからみても、やっぱりひとかどの方なんだなぁと実感でした。
ちなみに私も多くのファン同様、2003年の優勝はやっぱりノムさんのおかげな部分が大きい、と思ってます。
一緒にいると絶対に苦手なタイプではあるけれど(苦笑)、こういう不器用な生き方しかできない人って好きです。
楽天vs阪神の日本シリーズ、出来ることなら見てみたいな。
ノムさんらしい内容なので好き嫌いは別れると思いますが、帯にあった”阪神ファン絶対、必読!”はあながち間違ってないかも。
姫椿
2008.02.03 Sunday
昨日は1日お腹の具合が思わしくなく、夜はあまりの腹痛に耐えかねて早々に寝てしまい『フルスイング』を見逃してしまって残念!
家にあった中国製の冷凍食品は処分しちゃったし、そんな変なもの食べてないのになぁ。単にこのところずっとよく食べてたツケがきたのか、今夜は美味しいものを食べに行くので意地でも治ってやる〜〜。
姫椿 (文春文庫)
浅田 次郎
先週末に購入し、ちまちま読んでいた浅田次郎の短編集『姫椿』をようやく読了。一瞬有名オペラと同名かと思いましたが、よく見るとこちらは字が逆になってます(^^ゞ
凍てついた心を抱えながら日々を暮らす人々に、冬の日溜りにも似た微かなぬくもりが、舞い降りる。魂をゆさぶる全八篇の短編集。
と裏表紙の紹介にあるとおり、1本1本は10分もあれば読めるものだけど、読み終えた後に何ともいえない余韻が残り、一気に読んでしまうのが惜しくなるそんな話ばかりでした。
個人的には競馬場を舞台に妻に先立たれた大学助教授と娘と常連客を描いた『永遠の緑』がとても心に残りました。
偶然の凄さと人と人は見えないところできっとつながっている、そんな思いを強くさせられました。
その一本筋が通りすぎな潔い生き様に思わず読む側の背筋がぴーんと伸びてしまった『マダムの喉仏』もお気に入り。一生をかけてウソを本当にしてしまったマダムがカッコよすぎて、絶対無理とわかっていても憧れてしまいます。
最近は同じ本を何度も読み返す、ということはあまりしなくなってしまったけれど、すごく疲れた時や何だか消えてしまいたくなった時にまた読み返したいそんな1冊です。
きみのためのバラ
2007.12.22 Saturday
普段、読んだことのない作家の短編集に手を出してみたら、思いの外よかったです。
きみのためのバラ
池澤 夏樹
某新聞社の書評欄で今年のお薦めに多くの方が押していたのがこの作品。
ヘルシンキ、ミュンヘン、メキシコ、パリ、沖縄etc.世界の様々な都市を舞台に繰り広げられる8つの物語。
とりたててドラマチックなことが起きたり、天地がひっくり返るほどの大事件が起きたりするわけではないけれど。読み終わった後に「あ、いいなぁ」と何だかほっとするそんなお話です。
表題の話も素敵ですが、個人的には一番最初の話がとても気に入りました。
恐らく舞台は羽田の周辺。自身のうっかりミスで飛行機に乗り遅れてしまった男が空腹に耐えかねて入った閉店間近のレストランでのひとこま。
たまたま最後の残り客となってしまった見知らぬもの同士の男女の会話が描かれるのです。といっても色っぽい内容では一切なく。
何がいいって、この話に描かれている食事のシーンがとにかく美味しそうで、読んでいるだけでその様子が目に浮かぶようで、思わず口元が綻んできます。
実際に食材についてどうこう語られるのではなく、ただそれを食べている女性の描写をそれを見ている男性の視点で描くのですが、それが本当に美味しいものを食べた時、人はこうなるよね!と強く頷かずにはいられないくらいリアル。
子供の頃、大草原の小さな家シリーズの本が大好きで何度も読みましたが、それも食べ物がとにかく美味しそうで(笑)。そこにかなり惹かれたのですが、それとは一味違った大人の味わいの美味しさ、といった感じでしょうか。
他にはドイツでこれこそが天職と思っていた男が、人生も半ばを過ぎたあるとき、とあることがきっかけでパリに暮らした体験を友人に語った『人生の広場』も、なかなか面白かったです。
冬の夜長に、ゆったりとした気持ちでのんびり読みたい一冊です。
クライマーズハイ
2007.09.30 Sunday
ついこの間まで暑い〜暑い〜と言っていたのが嘘のように涼しくなりました。今日は1日何だか肌寒く、とうとう冬のお布団まで引っ張り出してきてしまいました。
昨夜の甲子園最終戦。残念ながら勝利を飾れませんでしたが、最後の最後に広大がバックスクリーンに放り込んでくれてもやもやが晴れました
しかし、雨の中あれだけのお客さんが残ってくれたのに挨拶もなしだったのは、ちょっと寂しかったというか拍子抜けしてしまいました。
いつか最終戦を見に行きたいものです。
今年は色々何だかんだと不満もいっぱいあったけど(^^ゞ、桜井、林、上園、渡辺等若い選手がいっぱい出てきてくれたおかげで、いつになく試合を見るのが楽しみでした。来年は皆レギュラーに定着してチームを引っ張っていくくらいになってくれますように!
新しくなった甲子園での活躍が今から楽しみです。
さて、少し前に読み終えていた本の感想を。
クライマーズ・ハイ (文春文庫)
横山 秀夫
1985年8月12日。羽田発大阪行JAL123便が群馬県上野村の御巣鷹山に墜落。乗客・乗員合わせて520名にも及ぶ死者を出した未曾有の大惨事。
事故から20数年を経た今でも尚、多くの人の記憶に残る、この事件を追った地元新聞記者達の姿を描いたベストセラー。
2年前にNHKがドラマ化、昨年再放送され、現在はDVD化もされているそうですが、ドラマを見ていないので全くどんな内容か知らずに読み進みましたが、先入観がない分却ってよかったです。
ベストセラーなので、既に各地の書評で多くの方が絶賛されていますが、掛け値なしに面白い!
作品中の台詞にもあるように「もらい事故」として突然振ってきた金メダル級の事件に右往左往する記者達の姿を、これでもか、という臨場感でもって活き活きと描いています。
著者は当時、群馬・上毛新聞の記者として実際にこの事故の取材に携わっていたそうですが、その経験を余すところ無く伝えるリアルさが怖いくらいです。
新聞社、それも地方の小さな新聞社ならではのしがらみや、うんざりするような人間関係など、読みながら思わず、昔、仕事の関係で垣間見た地元の新聞社のことを思い出し、どこも似たり寄ったりだな、と苦笑してしまいました。
主人公である悠木は決して優秀な記者ではなく、寧ろ不器用なはみ出しモノ。上司に疎まれ、部下からも尊敬されているとは言いがたく、家に帰れば息子との不和に悩む、いわゆるどうしようもないくたびれた中年オヤジ。
全くカッコイイところなんてないけれど、読み進むうちにその人柄にどうしようもなく惹かれていきます。
嫉妬の塊のような同期の連中や、報道のあり方よりも権力争いに奔走する上役たち、悠木を山の世界に誘った安西。どの男たちも情けない、醜い姿を晒しているにも関わらず、不思議と怒りの気持ちが沸いてこない。
件の日航機事故を扱った作品では、山崎豊子の『沈まぬ太陽』が上げられますが、あの作品では1人強力な悪役といえる人物が設定されていて、多くの読者の怒りが彼に向かうような描写があったのとは対照的な気がしました。
『沈まぬ太陽』は本当に事故の当事者たる日航側を舞台に描いたため、そういう人物の存在がどうしても必要だったのかもしれませんが、あの作品に限らず山崎作品には、各書に悪役設定がされており、その辺は作者の作風なのかもしれません。
ただ、個人的には読後もやり切れない思いがどうしても拭えなかったので、この作品は少々強引な部分もありますが、読後が爽やかだったのがよかったです。一仕事終えたような高揚感を味わえました。
悠木の生き方は、組織人間としては失格という烙印を押されてしまうものかもしれないけれど、ある程度長く会社・組織というものに携わってきた人間なら、一種の清々しさ羨ましさを感じる部分がある気がします。
どちらかというと男性が好きそうな小説ですが(^^ゞ、熱い世界が好きな人にはお薦めです。
カシオペアの丘で
2007.08.15 Wednesday
カシオペアの丘で(上)(下)
重松 清
発売以来、新聞の書評や広告を見るたび読みたいけど単行本2冊は高いので文庫本になる3年後かなーと思っていた本をたまたま家族が買ってきたので先に拝借してしまいました(^^ゞ
幼い頃、夜空に浮かぶ星を眺めながら、いつか自分たちの遊園地”カシオペアの丘”を作りたいね、と話したトシ、シュン、ユウ、ミッチョ、幼馴染の4人。
生まれる前からシュンの祖父とトシの両親に絡むとある事件に巻き込まれていたトシとシュンは、それからほどなくして起こった出来事により互いに許しあうこともなく別れ別れになってしまう。
それから長い歳月が流れ、トシとミッチョが管理する”カシオペアの丘”に幸せそうな親子3人が訪れる。1年後に彼らを襲った悲劇がきっかけとなり、互いに疎遠になっていたトシ、ミッチョの元にユウが現れ、そしてトシの元にある一通のメールが届く。
差出人”ボイジャー”とだけ名乗るそれは、自分がガンで余命いくばくもないことを告げるものだった。
限られた時間の中で再び出会った4人は、それぞれ相手を、自分を許すことができるのか。
既に読み終えた多くの方が絶賛の本書。
重松さんの作品はどれも涙を誘うものが多いですが、これも例外なくというより、”最近泣いてない人にお薦め”、というコメントをつけた方がいるくらい泣けます。
作者の意図どおり散々泣きながら、でも素直には泣けない自分がいました。
この作品は”許し”ということがテーマになっており、4人それぞれの間だけでなくシュンと祖父、物語のキーマンでもある川原さんと妻、など複雑に絡み合った様々な関係の許しが描かれます。
その中でも余命いくばくもないシュンが、幼い頃から憎み続けた祖父を、そして自分を許すことが出来るか、というのが最大のポイントなのですが。
40歳目前という人生半ばで突然、末期がんに冒されるという状況にシュンを置いた時点で結末は見えているわけで。
更に追い討ちをかけるように、直接的にはシュンのせいではないにしろ、シュンの祖父の決断により生まれる前に父を失ったトシ、そしてそんなシュンと自分との間の秘密を知ったその日にシュンの目の前で事故に遭い、半身不随となってしまうトシ。
更には過去にシュンと関係を持ち、哀しい別れをしたことを隠したままトシと一緒になったミッチョ。
そのほかにも出てくる人物すべてが、何らかの重い重すぎる過去を背負い、そしてそれがまるで”メビウスの輪”のように少しずつねじれてつながっていく。
何気ない台詞や描写のひとつひとつが切なくて、時には息苦しいくらいの気持ちになりながらも、そこまで(不幸に)しなくても、とその”あざとさ”で感動も半減してしまいました。
死を目前にした人間と向き合って尚、「お前を許さない」と言える人がどれだけいるのでしょうか。
しかも、若さだけで突っ走ることができる20代ならまだしも、人生も半分を過ぎたこの歳になれば、たとえどんなに忌み嫌う相手だったとしても「最期くらいは…」と思うのが人情です。
登場人物すべてが、劇中では唯一冷酷なように描かれているシュンの祖父・千太郎でさえ優しい、優しすぎるくらいの人々だからこそ、病気という小道具に頼らない別の描き方を見たかった、と思います。
随分辛口、偉そうな感想になってしまいましたが。
いい話です。読んでいると満天の星が見たくなります。
たまたま登場人物と全くの同年なので、過去の色んな描写が懐かしく。ボイジャーとか、高校生ぐらいの時に東京佼成ウィンドオケが毎年出していた今年のブラスみたいなアルバムの中にそういう曲があったなー、なんてどーでもいいことまで思い出しました(笑)。
読み手により、感情移入する人物が違ったり、色んな印象を持つ作品だと思います。
長いわりにさらっとあっという間に読めるので、時間をかけずにでもじっくり読みたい人にお薦めです。
最後にとても印象に残った台詞を。
「忘れっぽい人は優しい人」「ゆるしたことって覚えてないでしょ。ゆるさなかったことは、やっぱり忘れないじゃないですか。だから、ひとをゆるすってことは、忘れるってことなんだと思うんですよ」
昔、子供の頃に姉がよく聴いていたチューリップの歌の中にあった
♪忘れることをつくってくれた 神様に感謝をしなければ♪
という歌詞(タイトルはもう憶えてない)をふと思い出しました。
忘れるって時に哀しいことでもあるけれど、忘れられるってしあわせなことでもある、そう思います。
ローマ人の物語
2007.05.01 Tuesday
4月29日は3地域対抗のジャパンオープンでした。
旅行に出かけていないので、留守録をセットし帰宅後にゆっくり鑑賞するのを楽しみにしていたのです。が、見事に録画に失敗してました(T-T)。
とりあえず、ちょこっとネットサーフィンをして各人がどんな演技・内容だったのかは確認しましたが。。
うわーん、ヤグディンやトッド・エルドリッジの演技見たかったよ〜。ワールドでは不本意だったバトルの再演も楽しみにしてたのにぃぃぃ。とりあえずガラの方は今月放送されるようなのでそれだけが救いです(とほほ)。
少し前から少しずつ読み進んでいるのが塩野七生のライフワークとも言うべき大作『ローマ人の物語』シリーズ。
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫
塩野 七生
高校の頃、月から土まで毎日でも受けたいと思うくらい大好きだったのが世界史でした。私が教わった先生は相当な変わり者で(^^ゞいわゆるココは受験に出るので覚えましょう、的な授業は全くと言っていいくらいせず。
2年から始まった世界史の授業の1学期を丸々使い、延々ギリシア神話の様々なエピソードを毎回面白おかしく聞かせてくれたり、古代ローマの各人の話をやはりどーでもいいネタを交えて話したり。
当然、試験の問題もまともな問題は半分くらいで、般若心経の有名な冒頭部分を穴埋めしたり、楊貴妃にちなんで貴方のクラスの傾国の美女は誰か?、啓蒙君主にはフリードリヒ2世、ピョートル2世、エカテリーナ2世と2世が多いが何故か? 等どーでもいい内容だけど満点を取るのが難しい問題を混ぜる人でした。(傾国の美女云々は今なら即問題扱いになりそうですが、当時皆かなり真剣に考えて楽しかったですよ。ちなみに最後の問題の答えは単なる偶然です。つい、もっともらしい理由を考えてしまいますが、史実に基づいた裏づけのある説は今のところないので単なる偶然なのです 笑)
そんな困った人でしたが、そのどーでもいい小ネタがとにかく面白くて。まともな授業はいらないから、もっとそういうネタをどんどん話してほしいと願うこちらも変わり者の生徒でした(^^ゞ
そもそも世界史なんて暗記モノなんだから、受験用なら自分で教科書なり資料を読んで憶えればいいわけで。実際、興味のない生徒達は世界史は専ら内職の場と化していて先生の側もそれでOKみたいな学校だったので、こういう先生でも特に槍玉に挙げられることなく続けられたのかも(^^A
そんな変わり者の先生のおかげで、すっかりギリシア神話や古代ローマ好きになってしまい、就職して初任給でギリシア神話集を購入し高校生の頃聞いた話をもう一度ちゃんとした文章で読み返した時の感激はかなりのものでした(大笑)。
で、このローマ人の物語。ハードカバーが刊行された時点でうずうずしていたのですが何せ高いのと全巻ハードカバーにしてしまうとスペースもバカになりません。文庫本になってほくそえんでいたら、上手い具合に家族が購入していたので早速借りて読んでます(^-^)。
しかーし、これ全24〜5巻くらいなのですがどう数えても途中までしかなく。何で?と聞いたところ、カエサル以降は興味がない、とのつれない返事が。そ、そんな!悪名高い皇帝が次々現れたり、五賢帝の治世から最後はあれだけの栄華を誇った帝国が滅びるくだりが面白いのに!! と力説したのですがあっさりかわされてしまったので残りは自前で揃えることになりました(^^ゞ。
いわゆる小説とは違うので、読み始めると続きが気になってページを繰る手が止まらないということはないですが、それまで断片的にしか知らなかった事柄が詳しく、ひとつの流れとして書かれているのを読むのはやはり面白いです。
特に面白おかしく読ませようと、色んな登場人物の人となりを膨らませたりするのではなく、現時点で明らかになっている史実を淡々とわかりやすく書き連ねながら、時折著名な歴史家の意見を引用しつつ、でも、私はこう思う、という私見を挟んでいくので、読み手によってはそれが退屈に感じることもあるかもしれませんが、個人的にはそれが却って読みやすく、歴史上の人物たちがその時何を考えたのか想像できたりして楽しめます。
しかし、紀元以前の出来事なのに、現代社会と通じるものが多く、このやり方を今応用したらもっといい世界が出来るのでは? と思ってしまいます。
月並みな言い方だけど、古の人々というのはホントに凄いものだなーと改めて思います。
現在7巻の途中なので先はまだまだ長いですが、夏ぐらいまでかけてじっくり楽しめそうです(^-^)。
ぼくのボールが君に届けば
2007.04.13 Friday
会社帰りに立ち寄った書店で、シンプルだけどとても目を惹く表紙と帯にあった長嶋茂雄氏の”伊集院さんの作品が語る『野球』の魅力に私は感動しています。”というコピーに興味を引かれ読んでみました。
ぼくのボールが君に届けば
伊集院 静
例によって内容についてはアマゾンより引用です。
少年は青空に抱いてほしかった。彼女はその人を見つめて生きてきた。大切な人に届けたい9つの短編。
あの時、どうしてあんなにときめいたのだろう。見上げたボールの先は、どうして青空だったのだろう。いとしい人とひとつのものを見つめた、あの思いがよみがえる、9つの物語
伊集院静さんについては、故・夏目雅子さんのご主人という認識しかなく作品は初めて読みました。
タイトルと表紙の絵から、勝手に「瀬戸内少年野球団」みたいな爽やか少年系の話を想像していたら・・内容はまるで逆と言っていいような。
かつては恐らく爽やかに純真にボールを追いかけていたであろう、今は大人となってしまった人々の出会いと別れ、失ったモノは永遠に取り戻せないけれど、ただ嘆き悲しむのではなく、色んなことを乗り越えていったり、現実は現実としてあるがままを受け入れた上で新しくもう一度生きていく姿を描いた短編集です。
全ての話に野球が登場しますが、あるときはいい方向へ変わるきっかけだったり、美しく人生でいちばん輝いていた最高の思い出だったり、別の話では妻に「息子が死んだのは貴方が医者の言うことをきかずキャッチボールをさせたからだ」となじられたり、と様々です。
どれもそれぞれ味がありましたが、個人的にお薦めは2話目の”えくぼ”。
夫と息子・孫を立て続けに失い、60歳を過ぎて鬱病を患い人を見ると憎まれ口を叩かずにはいられない老女・吉乃。自分でも嫌な性格だと自覚しつつどうすることも出来ない彼女は、知り合いのマスターの紹介で医師のカウンセリングを受けることに。ある日たまたまテレビで見た、ヤンキースの松井の笑顔が死んだ孫にそっくりなことから気に入り応援を始めます。
たまたま医師も松井のファンですっかり意気投合した2人はカウンセリングの度に松井の話で盛り上がるうち、病気が回復したかに見えますが……。
シーズンオフと同時に再び塞ぎ込むのですが、医師の一言から遂に自身の胸のうちにずっと仕舞い込んでいたある出来事を語る決心をし、それがきっかけで自分でも思いがけない行動・結末を迎える話です。
嫁・姑のホントにどこかにありそうな行き過ぎた不幸な出来事を描いた作品ですが、吉乃の心情が細かに描かれていて、共感できる部分が多くラストはしみじみといい話だなーと心を打たれました。
後半の苛め抜いた嫁の墓参りをするシーンは、涙なくしては読めません。
ひとつでも心にやましい思いや消えない傷がある人なら、吉乃の気持ちに共感せずにはいられないはず、というくらい見事な描写にやられました。
文中、話の流れで「マツイって一度も人の悪口を言ったことがないんですって知ってました?」「何言ってるの、人の悪口を言わない者が世の中にいるもんですか。嘘に決まってるじゃない」というくだりがあるのですが、恐らく吉乃の言うとおりなんだけど、マツイ君に限ってはホントかもしれないなーと思ってしまいました。
しかし、松井にえくぼがあったとは。この話を読むまで気づきませんでした(^^ゞ今度機会があったら注目してみようっと。
あと、いくつかの話でキャッチボールを取り上げられているのですが、作者の持論なのか、登場人物が語るキャッチボールについての思いがどれも素敵で。キャッチボールの新しい魅力を教えてもらいました。
華麗なる一族(原作)
2007.03.30 Friday
ドラマ終了と同時に読み始め、先週のフィギュア観戦旅行の前夜翌日が早いのにも関わらずやめられなくなり、結局寝不足覚悟で読破してしまいました(^^ゞ
華麗なる一族〈中〉
山崎 豊子
冒頭に我慢できずに最後は一気読み、と書いたとおり読み始めると先の展開が気になりページを繰る手が止まらなくなります。
大まかに言ってしまうと地方都市銀行頭取一家という、平凡な庶民には想像すら出来ないような財閥一家を舞台にした複雑な人間模様に銀行再編・財界・政界との軋轢を絡めた長編小説です。
が、各登場人物それぞれがとても丁寧に描かれていて、どの人物に焦点を合わせても楽しむことが出来る、とても緻密なストーリーで最後まで飽きさせません。
銀行と大蔵省の関係や、融資を巡る様々なからくりなど銀行界独特の世界の疲れを癒すかのように描かれた鉄鋼マン達の活き活きとした様子が心に残ります。作者本人があとがきで書いているように、綿密な取材を重ねただけあって読み進むうちに知らずと銀行だけでなく、製鉄についてもミニ知識が得られたような気になります。
組織を巡る軋轢や技術と経営の両立の難しさ、等今の時代も変わらぬモノが多々ある中、ベアリングについてのくだりで”ニードルベアリング”が最新技術となっていた部分に、あーそういう時代だったのかと感慨を覚えました。(現在は更なる高速対応としてニードルからボールベアリングが主流)
単なる親子の愛憎劇という一言では言い表せない、それぞれの思いにかなり感情移入して読みふけってしまいました。
『白い巨塔』や『沈まぬ太陽』でもそうであったように、山崎氏の作品ではとにかく敵役の描き方が絶妙ですが、この作品でも万俵大介と高須相子という2人の悪役(だと私は思います)のこれでもか、というくらい人間の嫌な部分を見せ付ける言動にすっかり嵌り、時折激しい憤りを感じるくらいのめりこんでしまいました。
これくらい非情でなければ一筋縄どころか幾重あるのかわからない、おどろおどろしい世界でのし上がっていくことは出来ない、と頭でわかってはいても最後までこの2人を許す気には到底なれず(^^A
特に次々と娘たちの閨閥結婚を目論み、万俵家の人々を意のままに操ろうとする相子には、同性として受け入れがたいものを感じてしまい、あのラストを迎えても尚、一抹の虚しさを感じたのみで同情するとか、そういう気持ちはとうとう持てなかったです。
もっと若い頃に読んだなら、多くの読者同様きっと鉄平のあのひたむきさに惹かれたと思いますが、それなりに会社の中で長年過ごしてしまった今となっては、鉄平よりも寧ろどうしようもない現実を受け入れながらも、ささやかでしょうもない抵抗を続ける銀平の方に惹かれてしまいました。
普段は誰に対しても心を閉ざす銀平が、母に対してだけは人並みの息子らしい気遣いを見せるところに、世の中の息子の母への愛情の深さを見た気がしました。
って色々理屈をつけてますが、ドラマで銀平を演じていたのが山本耕一クンだったというのも大きいのかも(苦笑)。
苦しみは深いけれど、自分の信じるやりたいことをとことんやり抜く鉄平の方が、見方によってはワガママに生き、結末はどうあれ幸せだった気がします。通常ならば決して受け入れられない、彼の選んだ道ですが、この話に限って言えば彼はこうしなければならなかったんだな、と納得しました。
誰1人幸福そうに見えない万俵家にあって、夢というものを持ち、それを信じた鉄平と二子の存在は眩しく、鉄平が自分の生き方にけじめをつけたくだりは流石に胸にこみ上げるものがありました。
当初はいわゆる上流階級を舞台にした小説なので「華麗なる一族」なのかなー、と思っていましたがラストシーンを読み終えた時に、あーこの話はこのタイトルしかないな、と思いました。上手く言えませんが、ラストシーンの宴の後ともちょっと違う、何ともいえないやるせなさが漂うあのシーン、これを書きたいがために作者はあの長い長い話を書いたのかもしれないな、そう思わずにはいられないラストです。
ノルンの永い夢
2007.03.02 Friday
先日、久しぶりに図書館に行きパラパラとめくってみて面白そうだったので借りてきた本をようやく読み終えました。
ノルンの永い夢
平谷 美樹
図書館でぱらっと見た時は、目に付いた名前などから1930〜40年代のドイツを舞台にした小説かなと思って借りてきたのですが、数ページほど読み進んでみるとSFだったのでびっくりしました(^^A
2001年秋、新世紀SF新人賞を受賞したばかりの作家・兜坂亮は、新興出版社ハイネマン書房の時野から、数学者・本間鉄太郎をモデルにした小説の執筆を依頼される。
第2次大戦下のドイツで消息を絶った本間は、高次元多胞体理論なる独自の時空論に到達していたというのだ。
取材をすすめる兜坂の周囲で、公安調査庁が不気味な活動を開始する。
いっぽう1936年のドイツ、学術都市ノルンシュタットを訪れた若き日の本間は、何かに導かれるかのように、空軍総司令官ヘルマン・ゲーリングに接近していくが…。 紀伊国屋オンラインより
SF、一時期はコナン・ドイルやフィリップ・K・ディックなどのアメリカの古典(?)系を読み漁ってましたが、最近は全くといっていいくらい遠ざかっていたので、読破できるか少々心もとなかったですが、無事最後まで読めました。
中盤くらいまでは、主人公の正体や次はどうなるのか?といったそれなりのワクワク感があって飽きさせません。
が、最後はそれぞれ少しずつ違った多次元の世界が同時進行で描かれるのでだんだん頭が混乱してきてしまい、やや読みづらく感じました。
時空を越えた空間移動を可能にする”高次元多胞体時空論”については、そういった方面にはとんと疎いので(苦笑)、辻褄が合っているかどうかとかはよくわかりませんが、中盤で主人公の正体や何故彼がそこに存在していたかというようなことが種明かしというか、色んな登場人物のつながりが明かされるくだりは、なかなか面白かったです。
ある特定の事象を避ける(変えたい)ために、時空を越えて何度も何度もその時間をやり直す、という話は以前何度か読みましたが、やればやるほど少しずつ間違ったもしくは望まない方向にどんどんずれていくのがやりきれなく。終盤で、だからこのタイトルなのかーと気づいた時に何とも切ない思いになりました。決して解決はしていないけれど、どこか希望を感じさせるラストに少しだけ救われました。
すごーくお薦めではないけれど、まぁまぁ面白い部類に入るかな。
割とどーでもいい雑学的な知識もちょっと得られた気分にもなるし。
さて、ようやく週末です。明日も出勤しかも棚卸なのでかなりきつそうだけど、気分的にはもうちょっとでお休みだーと少〜し上昇してます。
ひとり日和
2007.02.25 Sunday
既にあちこちで話題になっている、今年の芥川賞受賞作品『ひとり日和』
を読みました。
ひとり日和
青山 七恵
ここ数年、芥川賞の受賞作は???で数ページで挫折してばかりでしたが(^^ゞ今回の作品は割合読みやすく、最後まですーっと読むことができました。
簡単なストーリーは、埼玉から東京で暮らしたい、と出てきた20歳そこそこの女性・知寿がかつて母が下宿するはずだった遠い親戚である荻野吟子という70過ぎの女性の家に居候し、老女やそこで暮らしながら出会う人々との交流を描いた作品です。
ドラマティックな出来事も、特に哀しいことも起こらないけれど、吟子さんと知寿の日常を淡々と丁寧に描き、ハラハラドキドキはないのに何故かページを繰る手が止まらず気がついたら最後まで読んでました、という不思議な魅力があり、何となくほのぼのとした読後感が残ります。
色んなことがらの理由は殆ど説明しない代わりに、何気ない風景や動作などがとても丁寧に描かれていて、その背景は読者に想像させるような風になっているところが上手いなぁと。
知寿ちゃんが失恋したり、色々思い悩んだときに、思い切って相談しようと吟子さんに持ちかけても、あっさり気づかぬふりをしているのか、はたまた本当に気づいていないのか全く取り合わず放っておくところがいいです。
小説に老人が登場すると、大抵の場合は含蓄のある言葉を吐いたり、主人公が道に迷ったときに救いの手を差し伸べてくれるパターンが多いですが、この作品では一切なく。ひたすらマイペースにホースケさんとの老いらくの恋を静かに楽しむ様子に惹かれ、実際身近にいる老人と言われる人々を見渡してみても、そんなもんだよなぁと納得させられました。
割と簡単な些細なことで「全然楽しくない」と思ってしまう知寿に、あーそういうことってあるな、と妙に共感を覚えたり。すごーく面白かった!感動した、とかそういう大きな感情のぶれはないけれど、何故か妙に心に残る作品です。
蒼ざめた馬を見よ
2007.01.06 Saturday
世間では3連休の方も多いですが、今日は仕事&夜は職場の新年会。
夏の創立記念日と並んで最も面倒な行事のひとつだけど、これも仕事のうちと思って行って来ました。
毎度のことながら、何となくお腹が膨れたのかそうでないのかよくわからない食事でしたが、同じテーブルだった後輩の男性社員の見事な食べっぷりがすがすがしいくらい楽しく、気持ちよかったです。
お酒の席で絡んだり暴れたりする人は嫌だけど、美味しそうに沢山食べる人は大好きです。なんか見ていて嬉しくなるのです。
帰りは近くに住む同僚と途中まで駅からおしゃべりしながら歩いたおかげで、寒さもさほど感じずにすみました。
今日は年末に読んだ本の紹介を。
蒼ざめた馬を見よ 五木寛之著
以前読んだエッセイで大の風呂嫌い特に洗髪が大嫌いなことを告白されていて、それ以来、テレビ等で五木さんの姿を見るたび、洗髪してない風には見えないんだけどなぁ。あの素敵な髪型を維持するには洗髪しない方がいいのかな、と本人には失礼極まりないどうでもいいことを思ってしまいます。
1967年発表、直木賞受賞の表題作を含む初期の短編集。戦後数年から十数年後の旧ソヴィエトや東欧を舞台にした作品が多く、当時の空気を色濃く反映した内容になっています。が、決して暗くならず、けれどそれなりの作品によってはかなりの重さを持って語りかけてきます。
全5作のうち、後半の2作は舞台が地元で馴染み深い地名が沢山出てくるため、情景が想像しやすくすっと物語の世界に入ることが出来ました。
どれも読み応えのある作品ばかりですが、その中でも特に、とある新聞社のアウトロー的存在な社員が病死したロシア文学者が密かに遺した作品を求め、遠くロシアの地を訪ね、スパイまがいの行動を取りながら何とか作品を受け取り、無事出版にこぎつけた果てに張り巡らされた壮大な恐るべき陰謀が明かされる表題作は秀逸。
他には終戦直後にシベリアで体験したことに二十年後に苦しめられる助教授の姿を描いた「夜の斧」も、舞台が地元ということもあり、とても惹き付けられました。現実にはありえそうにないけれど、あの時代なら本当にこんなことが起こりえたのでは?と思わせる内容で、ラストの結末を描かずに終わるのため、その後の彼がどうなるのかとても気になりました。出来ることなら、これは長編として読みたかったです。
さて、外は荒れ模様だけど明日から2連休♪今月は月末までもう連休はないいので、のんびり楽しみたいと思います〜。
ナイチンゲールの沈黙
2006.11.14 Tuesday
第四回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作のベストセラー『チーム・バチスタの栄光』の続編。
ナイチンゲールの沈黙
海堂 尊
前作がもう久しぶりにページを繰る手が止まらなくなる!というのを体感したくらい面白かったので、またあの田口&白鳥コンビの活躍が見られる〜と期待して読みました。
前作の8ヵ月後という設定で今回は小児科病棟を舞台におなじみのメンバーに、藤原さんの弟子・猫田看護師、白鳥の友人警察庁の加納という、かなり濃ゆいキャラが新たに登場。前作同様、田口・白鳥コンビが事件を解決していくのですが・・・。うーん、期待が大きかったせいか前作ほどのインパクトはないです。
何より、主役であるはずの田口センセ、白鳥が目立たない。田口先生の鋭い突っ込みや、白鳥の思わず口をあんぐりあけてしまうほど、毒舌だけど的を得た暴言が痛快だったのに、今回はそれがあまり見られないのが残念です。更に肝心の事件が、今回は多分大半の読者がすぐに犯人がわかってしまったのでは? というくらいひねりが少なくて。。
今回の見せ場というか売り、だと思われる歌による映像化云々については、、本当に素晴らしい歌・音楽ではそういうことが起こるのかも? とそういうものをいつか体験してみたい気にはなりましたが、やはりそれを軸に据えられるのはあまりに現実離れしすぎて(汗)。その突飛さも手伝ってか、犯人特に小夜に共感できず動機としても不十分な印象を受けました。
とはいえ、さりげない会話の端々にニヤリとする台詞があったり、わかっていても次はどうなるのだろう? と思わせる文章の上手さは健在。
アツシら子供たちに大人気の特撮ヒーロー「ハイパーマン・バッカス」の設定が、やけにリアルに世相を反映しているあたりなどかなり笑えました。
うーん。。イマイチかもと思いつつ結局今回も一気読みしてしまいました。
それなりに面白いですが、ミステリとしてはちょっと弱いかな。
次作があるのなら、今度はまた原点に返り不定愁訴外来を舞台にじっくり謎解きも楽しめる作品を期待します。
水曜の朝、午前三時
2006.10.20 Friday
連日、本の紹介ばかり続いてますが(^^ゞ
先日、新聞の書評の”売れてます”欄で紹介されていて興味を引かれたので購入、その日のうちに一気読みしてしまいました。
これを読んだのが月、おととい紹介した短編集を火・水とかけて読み週の初めに2日続けて夜更かしをしてしまったため、今週はものすごーくあとが辛くなりました。
ちょっとずつ読めばいいとわかってるんだけど、こういうところにも無駄にせっかちな性格が災いして、ついやめられないのです(苦笑)。
水曜の朝、午前三時
蓮見 圭一
発売当初は売れなかったのが、児玉清氏が”泣けた”と絶賛したことから話題になったそうで。新潮文庫版には児玉氏の”飛行機の中で涙が止まらなかった”というオビがついてます。
物語は、病気のため45歳の若さで死を目前にした詩人&翻訳家である直美が娘にあて自らの半生をテープに吹き込む。その内容を再現する形でストーリーは進んでいきます。大阪万博を舞台に出会った男女の別れとその後の再開・20年以上に渡る秘密の友人以上恋人未満の関係。
児玉氏が号泣した、というのは私には残念ながらそこまで共感できませんでしたが、読み終えた後にしみじみといい物語だな、と思える作品でした。
今の時代ではとうてい直美のような人生を送ることは無理だけれど、ものすごくひたむきに、ハタから見ればかなりわがままに、そんな自分の人生のいいところも悪いところもすべて受け入れて生き抜いた直美の生き様が素直にカッコよく思えました。
アマゾンのレビューやささっとネットを検索してみても、かなり評価の分かれる作品のようです。
祖父がA級戦犯、出会った運命の恋人が在日朝鮮人だった、という設定が表すように、万博があった1970年という時代背景やあの時代特有の色んなしがらみや人々が自然と心の中に持っていたモノ、が理解できるか出来ないかにより読後感が全く違ってくる、ものすごく時代感に溢れた小説です。
全体的に文章がとても綺麗で、さりげない風景や日常会話の描写がそのまま映像になって頭の中に浮かんでくる、自然な描き方がとても読みやすく、直接には当時の空気がわからないけれど、何となく辛うじてあの時代の記憶がどこかにある私のような年代でも、あー確かにこういう時代があったんだなと実感できる、あたたかさがありました。
美男美女の絵に描いたような、波乱に溢れたラブ・ストーリーと言ってしまえばそれまでだけど、そんな薄っぺらいだけでない、読み手の心のどこか(人によってはとても大きなもの)に触れずにはいられない、少し古風な恋愛小説です。
ところで、この本のタイトルは言うまでもなくS&Gの同名曲から取られていて、物語の中にもジャニス・ジョプリン、ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディラン、ジョン・レノンら当時の洋楽があちこちに登場しますが、ストーリー自体はサイモン&ガーファンクルの歌とは、かなりかけ離れていて、物語全体に流れる雰囲気とか、匂いみたいなものは、どっちかというと某グループの同名曲の方が近いかな、という印象を持ちました。
天窓のある家
2006.10.18 Wednesday
日曜日の新聞書評で目に止まった本を買いに行ったところ、探していたもう1冊が見つからず代わりに手に取ったのがこれ。
天窓のある家
篠田 節子
普段はつい読みなれた作家のものばかり選らんでしまうため、恥ずかしながら初めて目にする方でしたが、イラスト風な表紙とタイトルに惹かれ、ぱらぱらとめくってみると読みやすそうだったのでトライしてみました。
おさえきれない衝動がリアルに怖い9編。と帯にあるように嫉妬や焦燥、葛藤など日常に潜む心の闇というと大げさですが、そういうものを中年女性を主人公に描いた短編集。
話のバリエーションが豊富でどれも面白いですが、その中でもとりわけ気に入ったのは冒頭の『友と豆腐とベーゼンドルファー』
タイトルだけ見ると何それ?となりますが、(ベーゼンドルファー知らなくて犬の種類かと思っていたら・・高級ピアノのメーカーだそうで 笑)読んでみて納得。
もっと人間的に生きたい、という理由から大手商社をやめ福祉の仕事を始めた夫。家計のためにアパートの六畳間で、身を削って多くの生徒にピアノを教える有子。しかし、夫は理想を語るばかりで挙句の果てに、自身がかつて勤めた会社でリストラした相手の娘が病気と知り、有子が貯めた100万円をその彼に貸そうとする。ところが相手は高級マンションに住み、買いたくても買えない高級豆腐を買っているところを目撃した有子が最後の最後に取った行動が痛快で、思わずやった!と叫びたくなりました。
全体的に頑張り過ぎて、しかも頑張る方向や相手を誤ったためにこんなはずじゃ・・・という結末を迎えてしまう話が多い中、1作目と違う意味で笑わせてくれたのが、20世紀末に大流行した”やまんばメイク”を題材にブラックシュールな笑いを盛り込んだ『世紀頭の病』。
単純なので、文中やまんばメイクが21世紀に更にバージョンアップしてリメイクされている、というくだりを読んだとき、「え?そうなの?」と一瞬信じかけました(^^ゞ
この中に収録されている『果実』の冒頭、いきなり松花堂弁当が出てきたので、へーこれって東京にもあるお弁当なんだ、と思ったら、、なんてことはない地元が舞台の話でした(笑)。
いわゆる熟年離婚を扱った話なのですが、これだけあまりホラーの影がなく、少し哀しいけれどじんわりといい話だなーと思わせる余韻が好きです。
初めて手にした作家でしたが、なかなか面白かったので他の作品も読んでみたいと思います。
アンダースロー論
2006.10.02 Monday
新聞広告に釣られ、爆笑問題・太田光と中沢新一の『憲法9条を世界遺産に』を買いに行ったところ、お目当ての本を見つける前に同じ新書コーナーで目に止まり、これってあの俊介だよなーとパラパラめくったところにいきなりジョニーとジジィの名前が目に飛び込んできたので、そのままレジへと直行してしまいました(笑)。
アンダースロー論
渡辺 俊介
タイトル通り、世界一低いところから投げる、ロッテのアンダースロー・渡辺俊介投手が”アンダースロー”について自身の経験を元に、わかりやすい解説を交えて語る本です。
アンダースローとオーバースローでは実際に同じ球を投げても、バッターには全く違う作用があることに始まり、ボールの握りや縫い目の使い方などを素人にもわかりやすく説明してくれています。アンダースローで”打たせて取る”極意とまではいきませんが、打たせて取る、やリズムがいいとはどういうことか、等現役選手の言葉だけあって説得力があり「へー、なるほど」と思うことが沢山です。
不勉強にも知らなかったのですが、俊介もとても身体が柔らかいそうですよ!更に彼がアンダーに転向したのは中2の夏です。(って誰に言ってるのか 笑)
それと彼が1軍で定着する影に袴田コーチの存在が大きかったと知り、ホントにいいコーチなんだなーとまたまた株が上昇しました(^^ゞ
中盤ではWBCでの思い出やエピソードもあり、彼が身をもって経験した日米の違いなども書かれていて興味深いです。
後半の、アマ時代〜ロッテのチームメイトの証言による渡辺俊介像もなかなか面白く個人的にツボなネタが満載でにんまりしてしまいました(笑)。
上原がルーキー時に同期でプロ入りし何かと比較された、松坂大輔に対抗(?)して”雑草魂”という言葉を流行させましたが、本当の意味での雑草は俊介のような選手を言うんだろうなーと。
俊介から見たら、大学でエースを張っていた上原は充分雲の上の人ですよ、うん。って上原は好きな選手なんだけどね。(ペナントレースでは決して応援しませんが^^ゞ)
全体的にとても読みやすく、彼の人柄が感じられる優しい文体が心地よく「へー、なるほど。うんうん」と思ううちにあっという間に読めてしまいます。
俊介ファンはもちろん、アンダースロー好きな方には色々と役立つ1冊です。
あとがきで本人が書かれているように、この本や俊介の活躍に触発されて、いまや”絶滅危惧種”と言われるアンダースロー・ピッチャーが1人でも多くプロの世界で活躍してくれたらいいな、と思います。
破裂
2006.09.22 Friday
今日は先日から書こうと思いながら、なかなか書きそびれいてた本の感想など。
ここ最近、遠出をする際に長〜い本を携帯することが多いのですが、先日COI静岡公演に行ったときに車中で読みふけっていたのがこれ↓
破裂
久坂部 羊
発売時に新聞広告にも載っていたオビの”医者は、三人殺して初めて、一人前になる。”というセンセーショナルなコピーが気になり、ずっとどんな内容なのか気になってましたが。
ものすごーく乱暴に言ってしまえば、「白い巨塔」と「太陽は死なない」を足して割ったものに、老人医療と安楽死という禁断のスパイスを振りかけてみました、という感じでしょうか。
見かけは医療ミスを題材にした、大学病院のドロドロが絡んだ裁判モノかと思わせておいて、実のところは高齢者問題にとんでもない手法でもってメスを入れようとする役人の話でした。
ジャーナリスト、医者、厚生省の役人、医療ミスの被害者等、色んな立場の人物が入り乱れて物語が展開していき、読み出したら止まらない勢いで一気に読んでしまいました。なかなか面白い本でしたが、主要登場人物の描かれ方が、いかにも的なステレオタイプなのがちょっぴり気になりました。
完全な悪役として描かれいてた大学病院の教授の最後が、あーやっぱりねというものだったり、色んな種を撒き過ぎてラストが希薄な感が否めなかったり、いくらなんでも、一介の中間管理職に過ぎないお役人がそこまで好き勝手には出来ないのでは?と思ってしまう部分もありますが、全体としては読み応えのある内容でした。
特に老人医療と介護についてのリアリティー溢れる描写は、誰もがわかっていても目を背けてずっと先送りにしている、少子化と高齢者問題についての現実を突きつけられた気がします。
「ピンピンぽっくり(PPP)」(ピンピン生きてぽっくり死ぬ)を謳った人口統制を行う佐久間のやり方は、作中にもあるようにファシズムの思想だけれど、実際に自分が介護の必要な立場となってしまったら、、と考えずにはいられませんでした。
さて、せっかく気持ちのいい季節なので次はもう少し明るい爽やか系なモノを読みたいと思います〜。
瀕死のライオン
2006.08.30 Wednesday
瀕死のライオン〈上〉
麻生 幾
麻生氏の作品を読むのは、公安警察を舞台にした『ZERO』以来。前回もページを繰る手が止まらず、大長編ながら一気に読んだ記憶があるのですが、今回のこの本も先日の甲子園行きの車中で、一気に上巻を読破し、あまりの面白さに続きがどうしても気になり、翌朝紀伊国屋書店に飛び込み(笑)、とりあえず最後はどうなるのか立ち読みし、帰宅してから下巻をこれまた一気に読んでしまいました。
この人の作品の魅力は何といっても、圧倒的な取材量に基づく緻密な描写とフィクションでありながら、本当にこういうことがありえるのかも、と読み手に思わせてしまうところにあると思っているのですが、今回もこちらの想像以上にやってくれました。
泣く子も黙る(?)内閣調査室、通称”内調”と陸上自衛隊・特殊作戦群という、いわば一般にはタブーの世界を舞台に、日本の隷属化を企てる北朝鮮の陰謀を阻止しようと立ち向かう人々の攻防を描いたエンターテインメント大作です。
ストーリー自体も面白いですが、内調や特殊作戦群について、これでもかというくらい細かな描写に圧倒されました。もちろん全てこの通りというわけではないと思いますが、これまで決して語られなかった世界を覗き見しているようで、それだけでもわくわくしてしまいます(笑)。
諜報戦の凄まじさや想像を絶する訓練の過酷さ等、同じ日本の地にこんなところがあったのか、とひたすら驚きの連続でした。
各登場人物の描写も念入りで、それぞれが魅力的に描かれているので、どの登場人物の視点から読んでも飽きさせないあたりは流石です。
しかし、前半からじわじわひたひたとあれだけ盛り上げておきながら、肝心のクライマックスが案外あっさりというか、やや散漫な感じになってしまったのがちょっぴり残念でした。
どんなに冷静沈着な人間であっても、死を前にしては家族への情というものが現れる、ということを言いたかったのかな、という気もしますが、もう一ひねりあった方が物語としては面白かったようにも感じられました。
ま、そんな重箱の隅をつつくようなことくらいで、小説自体の面白さ・読み応えには何の影響もないくらい、読み出したら止まらないパワー満載です。
冒頭、未だ未解決の世田谷事件を思わせる事件が登場するのですが、物語の上での真相が、実際の事件の真相とだぶって感じられてしまうあたりに、現実の社会の恐ろしさを少しばかり痛感してしまいました。
さて、明日で8月も終わりです。夏も終わりかぁと思うとちょっぴり寂しい。とりあえず明日は忘れずに「下北サンデーズ」見なくっちゃ!
今夜は眠れない
2006.08.24 Thursday
以前に購入し、購入したことさえも忘れていた本が出てきたので読んでみました。
今夜は眠れない
宮部 みゆき
僕は球拾い専門のサッカー部に所属する中学1年生。両親とともに団地に住むごく平凡な男の子。ある日、”放浪の相場師”と呼ばれた人が母さんに5億円の遺贈をしたことから、僕らの一家を台風が襲った。お隣さんや同級生の態度が急に変わったり、脅迫電話がかかってきたり。挙句の果てに父さんの浮気が露呈し、父さんは母さんの過去を疑い家を出てしまう。
一体何故、彼はそんな大金を母さんに遺したのか?僕の父は本当に父さんなのか? 家族が再び元通りになるように、僕は親友で恐ろしく頭の切れる島崎と真相究明に乗り出した!?
買ったことも忘れているくらいなので、何故自分がこの本を買ったのか不思議なのですが(^^A、思いのほか面白く、とても読みやすくてあっという間に読んでしまいました。
全体的にどの登場人物も、犯人さえもどこかあったかくて憎めない人ばかりで、読み終えた後ほのぼのとした気持ちになりました。
どの登場人物も魅力的ですが、その中でも対照的な少年コンビに惹かれました。
主人公の緒方少年は、大金でそれまでの生活がめちゃくちゃになり、知りたくもなかった家族の秘密を知ってしまい、と踏んだりけったりの状況になりながらも、決して悲観したり投げたりせず、現代っ子らしくどこか醒めた視点で次々と起こる出来事を冷静に見つめていて、しっかりした子だなーと感心させられるのですが、ちゃんと時折子供らしい面を見せてほっとさせてくれることも忘れません。
相棒の島崎君は、こまっしゃくれてやたら頭が切れて、必ず「言ってもいいか」と断りを入れながらも、ずけずけはっきりと場合によってはミもフタもない、と言いたくなるくらいグサリとくることを言ってくれるのですが、でも根っこの部分ではちゃんと親友のことを思っていて、こっそり見ていないところで友のために働いていたりする憎いヤツです。
はっきり言って、こういうタイプ大好きです(笑)。上辺だけの優しい言葉を並べて的外れな期待をもたせるより、よっぽど本当の優しさに溢れてる気がします。
しかし、この島崎君的なおませな秀才少年(少女)って、子供の頃によく見た少年たちの活躍を描いたドラマに、必ずこういうタイプいたよなーと懐かしかったです。
それにしても、お金により親戚・隣人・友人知人、全く面識のない赤の他人までもが変わっていく様が見事に描かれていて、しみじみお金って怖いなーと思い知らされました。
たまに友人と宝くじが当たったら・・・なんて冗談で夢物語を話すことがありますが、もし本当に当たってしまっても友達のままでいられるのかな、なんてふと考えてしまうくらいお金は魔物です。
肝心の事件の真相は、見方によってはあんまりだー、という気もしないではないけれど、鍵を握る主要人物の心意気に胸がスカッとさせられました。
私も一度でいいからあぁいう大博打を打ってみたい(笑)。
野火
2006.08.21 Monday
先日のA新聞の土曜版に「野火を読みましたか」というコラムが掲載されていました。
筆者が教鞭を取る大学で学生に聞いてみたところ、読んだことがあるという生徒は一人もおらず、中には「大岡昇平とは中国の作家ですか?」という質問をしてきた生徒もいた、との記述には思わず苦笑してしまいました。
しかし、そういう私も大岡昇平は戦争文学というジャンルを確立させた作家で、表題の他に「レイテ戦記」「俘虜記」などの作品があることは、遠い昔の文学史の知識で辛うじて知っていても読んだことはなく。
元々戦争にまつわるドキュメンタリーを見ることは、かなり好きですが、文字での表現はどうにも怖くて、これまで逃げてきたのですが、戦争について正しく理解するために読むことも必要、との家族の言に従いこの機会に読んでみました。
野火
大岡 昇平
フィリピン・レイテ島で敗残兵となった主人公・田村が、胸の病気のため態を追放され、食糧不足から病院にも受け入れらず、死までの僅かな時間を過ごすため島内を彷徨う姿を描いた小説です。
リアルで緻密かつ叙情的な表現から、ドラマや映画では決して知りえない、当時の戦地がどのようなものであったかをまざまざと伝えてくれます。
政治的な見地でなく、単なる一個人から見た戦争がどんなものであったのか。
飢えやマラリア等、現在では想像すらも難しい事柄が、まるで目の前で見ているかのように体感させられました。
いつ死んでもいい、と思っているはずの主人公が、いざという局面に遭遇するたびに見せる生への執着。極限状態におけるエゴのぶつかりあい。
それらが全て限りなくリアルに、淡々と綴られていくことで強烈な印象を残す一方で、戦争の悲惨さを描いた作品でありながら、あまりに圧倒的な世界に涙すら流すことを読み手に禁じてしまう強さ。
もし、自殺を考えている人がいるのなら、「貴方が必要だ〜」というキャッチコピーのCMで励ますより、この小説を読んでもらった方が何倍も効果があるのでは? と思うくらい生きることについての説得力に溢れた小説だと思います。
戦争とはどんなものであったのか、それを正しく知るために、今もこれからも多くの人に読んでほしい作品です。
地下鉄に乗って
2006.07.18 Tuesday
週末に上京した折、地下鉄のホームにこの作品の巨大な映画告知ポスターが貼られていました。
へー、こんな映画が出来るんだ、堤真一に常盤貴子etc.けっこう面白そうかも。浅田次郎の書き物はたまたま目にした情報誌や雑誌でエッセイを読むことはあっても、小説はちゃんと読んだことがなかったけれど、これどんな話なのかなーというごくごく単純な動機で帰りの空港で購入。出発が遅れたこともあり待ち時間の間に一気に読んでしまいました。
地下鉄(メトロ)に乗って
浅田 次郎
永田町の地下鉄の階段を上がると、そこは三十年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いを励む父に出会う。だが封印された”過去”に行ったため・・・。
あらすじだけを読むと、少し前に紹介した重松清の『流星ワゴン』と似たような系統な印象を受けますが、あちらは純粋なファンタジー的な色が強いのに対し、こちらは遡る時代の影響もあってか、人が生きてきた歴史の重みというものをとても感じさせられました。
また、遡る道具にタイトルにもあるように地下鉄(メトロ)が使われているのが面白く、読みながらにして地下鉄・銀座線の生き様というとたとえが妙ですが、普段、人々が何気なく乗っている地下鉄にはかつてこんな様々なドラマがあったのかーと感慨深く、何気ない会話や様子に人々の息づかいが聞こえてくるような臨場感がありました。
決してハッピーエンドではなく、寧ろ見方によってはかなり辛いラストにも関わらず、読後感がとても爽やかな作品です。
過去を遡り、父が生きた時代を垣間見ることにより、主人公である真次は少しずつ反発しか感じていなかった父について理解していくけれど、すべてが明らかになった後彼が取った行動は読者が期待するような劇的なものではなく。読み手は一瞬肩透かしを食らったような気持ちにならなくもないけれど、それが逆にリアルに心に突き刺さります。
クライマックスで、兄が自殺した本当の理由が明らかになるのですが、今の時代ならきっと自殺しなくても生きてゆけただろうな、と思うと改めて時代の流れというか、時代の無情さを感じます。
これ、ポスターで俳優の名前だけを知り、読んでいるときはてっきり常盤貴子がみち子を演じるのだと思い込み、めちゃくちゃはまり役だーと思っていたのですが、今本にかけられている帯を見たら、なんと常盤貴子がお時ですか!ちょっと意外でしたが、それはそれで見てみたいような。
今度上京して銀座線に乗ることがあったら、、アムールやお時etc.とても大変だけれど誰もが必死に生きようとしていた時代を生き抜いてきた彼らのことを思い浮かべながら乗ってみたいと思います〜。とりあえず映画は映画館は無理でもDVDになったら見てみようかな。
理由
2006.06.30 Friday
理由
宮部 みゆき
「火車」「模倣犯」と読破したので、次はこれを読もうと思っていたものの、なかなか機会がなく。丁度ブッ○オフのお買い物券の使用期限が近づいてきていたので立ち寄ったところ、売られていたので迷わず購入しました。
事件はなぜ起こったのか、殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのか。ドキュメンタリ的手法で現代社会ならではの悲劇を浮き彫りにする、直木賞受賞作。
というあらすじというか触れ込みがついているとおり、事件にまつわる様々な人へのインタビューという形式で物語りは進んでいき、少しずつ事件の核心が明らかになるのですが、他の宮部作品同様、次はどうなるのか気になってしまい、最初はちまちま読んでいたのが、後半以降は一気読みしてしまいました。
冒頭、色んな人物の話が少しずつ語られていくくだりは、関連性が見えないのもあり若干じれったくも感じますが、後半のばらばらだった点と線が少しずつつながっていき、事件の輪郭が見え始めてからは面白さにどんどん引き込まれていきました。
沢山の登場人物、その誰もがあ、こういう人いるいる、と思わずにはいられない現実味溢れる描写の上手さにはいつもながら感心しきりです。
「競売」というものに無知なので、短期賃貸借制度を悪用したカラクリには、ひたすらへぇぇと頷くことしきり。ちなみにこの短気貸借制度は今は廃止されたそうで。でも、きっともっと巧妙な悪巧みが密かに横行してるんだろうなぁと思ってしまうところが現代社会の悲しさです。
真犯人の心理がどうのこうのより、個人的には事件の鍵となる2人の女性がとても気になりました。いえ、気になったなんて綺麗な言い方ではなく、顰蹙覚悟で白状するなら、小糸静子と宝井綾子の言動がどうしても好きになれず、特に小糸静子にいたっては、貴方が被害者になった方がどんなにかよかっただろう、とまで思うくらい苦手でした(^^ゞ
彼女を見ていると見栄を張ることの虚しさをつくづく感じます。
もちろん、時として見栄を張ることが必要な場合もありますが、でもそれだけに固執しているととんでもないことになる、という見本のような方です。
自分の足元もわからずに、全てを都合のいいように解釈・捏造して、そのくせ他者はとことん攻撃する姿には、物語の人物だということも忘れて「ふざけるのもいい加減にしてよ!」と言いたくなるのを何度堪えたことか(苦笑)。
こんな人が人の親なんて、と思うと空恐ろしいけれど、そんなどうしようもない両親に育てられた息子は、ちゃんと母親の悪い面もわかっていて、色んな物事をとても冷静な目で見ているのが救いというか、痛ましいです。
って小糸夫人や綾子の言動にやたら手厳しいのは、多分私が同性故の同族嫌悪もかなりあるのかもしれないなー、と読み終えた後に勝手に自己分析もしてみたり。
と、感想というよりはただのぐだぐだしたひとり言になってしまいましたが、家族というもののありがたさ、大切さをしみじみ考えさせられる1冊です。
今夜の伝統の一戦。弱いとは思ってたけどここまで弱いと張り合いがなさすぎです。楽な試合すぎて逆にまた調子を落としたりしませんように。
こうなったら3つともいただきましょう!!
しかし、クドちゃんこれが今季初黒星だったとは(驚)。けっこうボコボコ打たれていた印象があるのに、これまで勝ちも負けもつかない試合ばかりだったのは運がいいのか悪いのか。いい加減ビシッとしたピッチング見せてください!せっかく勝ったのに、あそこまでボコボコに打たれた姿を見せつけられて、すごく淋しい&悲しかったよ
流星ワゴン
2006.05.28 Sunday
先日、『ダ・ヴィンチ・コード』を購入した際、これ3冊そのままレジ
に持っていったら何だかいかにも!ってな人だよなぁ、、という妙な見栄
から(^^ゞもう1冊併せて購入しました。
流星ワゴン
重松 清
38歳、秋。ある日、僕と同い歳の父親に出逢った。
僕らは、友達になれるだろうか?
という帯のキャッチコピーと、シンプルな表紙が目を惹きました。
実は中身を読むまで、主人公は独身で同い年の父親な人との交流を描い
た話なのだと思っていたら・・本当に自分と同い年の実の父親に出会う
話だったのでびっくり! ってそんなバカな勘違いをする人は他にいな
いのかもしれないけど(笑)。
金曜の夜中から読み始め、面白くてやめられなくなって一気に読んで
しまいました。
ストーリーは、38歳の仕事にも家庭にも失敗した永田さんが、色んな
ことに疲れ果て「死んじゃってもいいかなぁ・・・」と思った夜、
5年前に交通事故死した父子が乗るワゴンに拾われ、夜毎人生の岐路と
なった場所に旅します。その中で、同い年の父と出会い、親子として
ではなく、チュウさん言うところの朋輩として付き合ううち、長い間言
えなかった互いの気持ちをぶつけあい、同時に過去に自分が犯した過ち
に気づいていく。最悪の事態を変えようと、連れて行かれた先々で、
こうしようあぁしようと思うのに、どうしても過去と同じ言動を取って
しまう自分に打ちのめされるばかりの永田さん。
果たして人生のやり直しは叶えられるのか?
とても不思議な話だけど、切ないリアリティーに溢れていて、実際には
そんなことはありえっこないと思いながら、どんどん惹き込まれていき
ました。どの登場人物もそれぞれ魅力的なのですが、お父さんとともに
ワゴンに乗り続ける健太くんと、死を前に朋輩となって現れる永田さん
の父”チュウさん”が特にイイです。
いっぱい溢れるくらいの愛情を持っているのに、それを上手く伝える
術を持たないばかりに、大好きな息子とどんどん険悪になっていって
しまうチュウさん。
実際にこういう人が目の前にいたら、間違いなく衝突しそうだけれど、
彼の不器用な率直さがあったかくて悲しくて、些細な言動のひとつひとつ
にすっかりやられてしまいました。
過去と今の象徴として出てくる、さりげなく散りばめられた、今はない
ものや、今はあっても過去にはまだなかったもの。
横浜フリューゲルス、松坂大輔、カズ、武田、ラモスがいたヴェル
ディ、ユニクロのフリースetc.
たった5年前のことなのに、あっけなく入れ替わってしまうことに恐ろ
しいまでの時間の流れを感じてしまいます。
色々心打たれるシーンが満載ですが、その中でもとりわけ
知りたくはなかった過去に自分が犯してしまった過ちを目の前につきつけ
られた上に、何もできないことへの悔しさから、「やめてください、も
う」「知らないほうがましだ」と言う永田さんへ「被害者づらができる
からですか?」とぴしゃりと言う橋本さん。
この部分にいちばんやられてしまいました。
取り返しのつかないことが起こったとき、あのときあぁしていれば・・と
悔やんでも、心のどこかで確かにあったはずのシグナルを見落としていた
ことを認めたくない気持ち。
多分誰にでもあるそんな甘えた感情を、橋本さんが静かにぴしゃりと指摘
した瞬間、永田さんと同じく自分も読みながら絶句してしまいました。
そんな橋本さんにも、もっともっと大きなそれこそ本当に取り返しの
つかない後悔と秘密があり、読み進むうち明らかになっていくのですが、
終盤の橋本さんと健太くんとの劇的なシーンは涙なくして読めません。
そんな健太くんが永田さんと別れるときに、ひとつだけ特別にと永田さん
親子にプレゼントしてくれたもの。
えーーーっこれかい! と思わず言ってしまうようなものなんだけど、
でも、通してみてみるとこれしかない、というもので。
最後の最後までやられっぱなしでした。
最近は同じ小説を何度も読み返す、ということがめっきり少なくなりま
したが、これは是非もう1回じっくり読み返したいと思います。
そしてこの先、疲れたときや心にぽっかり穴が開いたとき、家族と喧嘩
してしまったとき、等など負の気持ちに押しつぶされそうになったら、
これを読んで元気を取り戻そうかな
ダ・ヴィンチ・コード(今度は原作)
2006.05.26 Friday
昨日、宣言した
ダ・ヴィンチ・コード
ダン・ブラウン, 越前 敏弥
原作読破しました。文庫で上・中・下の3冊もあるので、時間がかかる
かと思いきや、けっこう面白くて結局一気に読んでしまいました(^^ゞ
あーここは映画と同じ、ここは映画は変えたのね、と色々比較しながら
でしたが、映画ではイマイチわからなかった部分が、一気に解決して
すっきりしました。
色んな薀蓄や各登場人物の設定や背景などは、小説の方がずっと詳しい
けれど、図形や絵画に記された謎に関してのくだりは、実際の絵を
見ながらのほうがやっぱりわかりやすく。これはどっちがいい悪い
じゃなく、両方見たほうがより楽しめるようになってるんだなーと。
ただ、ジャン・レノが演じた警部は、原作の方がずっといいかなと
思いました。映画だと何が何だかよくわからなくて(^^ゞ、
単にフランスが舞台だから出したのかなーと思ったくらいなので
一方で、クライマックスの犯人との対決場面は、映画の方がより
ドラマチックにしてあって楽しめました。
最初にあの分厚い単行本2冊が発売されたときは、煽り文句と装丁から、
面白そうだけど、ちょっと読むのに気合が要りそう・・と思ってました
が、蓋を開けてみれば何だ、こんなに読みやすかったのかーとちょっぴ
り拍子抜けしました(苦笑)。
読み応え、という点からみれば、少し題材は違うけどルネサンス美術
を絡めた謎解きでいえば似たような範疇に入る
ウンベルト・エーコーの「フーコーの振り子」の
方がかなりあるかも。
でも、単純にこれも物語としてはとても面白いです。
とりあえずルーブル美術館にとっても行ってみたくなっているあたり、
まんまと乗せられたかな(^-^)A
トワイライト
2006.04.25 Tuesday
先日から書いていた親知らず、本日とうとう抜歯してきました。
行く前は、終わったら痛くてもんどりうつんだよなー、明日からしばらく
はおかゆ生活だ、など戦々恐々でしたが、いざやってみたら、、
思いの外あっさり抜くことが出来ました(^-^)。
口腔外科の肩書きを持つ先生だから、上手いんだそうで(って自分で
言うところがすごいと思うけどね 笑)。今のところ口の中が血だらけで
鉄くさい以外は、痛み止めの効果もあって支障はありません(ほっ)。
このまま痛くなりませんように(><)。
しかし、抜いた親知らずをじっくり見させてもらったのですが、けっこう
大きい上に見事に虫歯になっていて、虫歯ってホントに黒くなるんだなー
と妙なところで感心してしまいました(^^ゞ
さて、週末に遠出をした際、日頃あまり読まない作家のモノを
読んでみようと思い立ち、
トワイライト
重松 清
を読みました。タイトルと帯の「あの頃の21世紀はもっと輝いていた」
という文字に惹かれて読んだのですが。。
泣けました。電車の中で読んだのははっきり言って大失敗。一応化粧が
はがれるから、と我慢していたのですが、それでもこらえきれず、時折
ハンカチで鼻を押さえるめちゃくちゃ怪しい人と化してしまいまし
た(苦笑)。
大阪万博が開かれた頃に小学校6年生だった、元少年少女が40歳になったら開けよう、と卒業記念に埋めたタイムカプセルを、母校の廃校がきっか
けで約束より数年早く開けるために再び集まるところから話は始まり
ます。
数十年ぶりに再会した彼らは、それぞれの姿に夢と現実の厳しさを見、
唯一の同級生カップルが引き起こす騒動に抗いながらも巻き込まれて
いく様子を温かくも厳しいタッチで描いた1冊。
万博、太陽の塔、ドラえもんをキーワードに「あなたたちは、いま幸せ
ですか?」と登場人物を通して読み手に問いかける、人によってはかなり
心を揺さぶられる内容です。
太陽の塔、と聞いても昔、学生の頃アメフトの応援に行った際、
万博記念公園の近くにそびえていたあれだよね、という認識しかない、
直接万博そのものを知らない私でも、そこに描かれた人物1人1人の
生き方に共感したり、時には憤りを感じたり、微笑ましくなったり、
彼らの目を通じ、思わず自分の○○年の人生を振り返ってしまいました。
登場人物すべてが、切ない思いを抱え、葛藤しているのですが、その
中でも不仲な両親に挟まれ、妹の面倒を見ながら大人びた言動をとらざる
を得ない千晶のけなげさは、胸がじーんとするくらいでは足りないくらい、
切ないです。
ちょっとした台詞や仕草に、色んな感情が滲んで見えて、行間というより、
描写で読ませる小説だなーと。
リストラ、不倫、仮面夫婦、不治の病、ドメスティックバイオレンス、
描かれている内容はどれも言葉にすると目を覆いたくなるようなもの
ばかりで、あの頃それぞれが色んな夢を抱えていたはずなのに、
大人になった彼らはもはや夢を見ることも、過去を振り返ることも
許されない毎日をひたすら生きていくしかないのだけれど、それでいて
ラストはどこか希望を感じさせてくれる、すがすがしい読後感を与えて
くれるのが嬉しいです。
大人たちもすごくいい味だしているのですが、唯一の同級生カップル
の娘・千晶と愛美が特に愛しいです。清少納言にならなくちゃ、という
くだりはもううるうるしっぱなしでした。
紫式部と清少納言、私も子供の頃は清少納言の方が断然好きでしたが、
そっかーその理由はこんなところにあったのか、と30年近くたって
納得しました。せつない見栄っ張り、いいじゃないですか。
あと、劇中ではどう見ても最低の男・ジャイアン。これもすごく好き
です。弱くてすぐ逃げるのに、意地っ張りで妙なところで正義感に
溢れているジャイアン。こういう人っているいる、というか途中から
すごく自分のことを言われているような気がして、負けず嫌いについて
の部分なんて、ホント穴があったら入りたい〜と思うくらいすっかり
感情移入してしまいました(^^ゞ
たくさん泣いて、色んなことを考えさせてくれた「トライライト」。
万博を体験した世代はもちろん、若い世代の方々にもきっと胸に
残る何かがあるはず。お薦めです(^-^)。
次は解説によると、これまた泣けるらしい「その日のまえに」あたり
を読んでみようかな。
チーム・バチスタの栄光
2006.03.13 Monday
WBC、審判の判定を覆すとはどうなってるの!?と思いながらも、
何だかんだ言ってアメリカの方が日本より遥かにやる気なのでは?
と思ってしまいました。
面子も大リーグに詳しくない私でさえ、知ってる名前がズラリだし。
遅きに失した感ありありですが、日本も各球団や個人のみみっちいエゴ
なんて捨てて、メンバー構成や事前の練習など、本気で優勝するための
策をもっと必死になって講じることは出来なかったのかな?とちょっぴり
歯がゆいです。
さて、昨日宣言していた
チーム・バチスタの栄光
海堂 尊
読破しました。新聞広告を見た時点から、絶対面白そう!と思っていた
とおり一気に読み切る面白さでした。
最近、本を読んで泣くことはあっても、あんなに堪えきれずにげらげら
笑ったのは久しぶりだったので、そういう意味でもほんっと気持ちよく
読み通せました。
既に読み終えた多くの方が言われているように、白鳥さん楽しすぎです。
主人公の田口センセもかなりいい性格だし。
どちらも捨てがたい美味しさ&素敵さですが、個人的には高階病院長に
惚れました。なんて素晴らしいバランス感覚の持ち主なんでしょう!
四角四面に見えて、とてつもないことを平気でさらっとやってしまう
あの柔軟さ。いや〜こういう上司がトップにいたら、いい組織になる
だろうなという見本のような方ですね。それでいてさりげなーくブラック
な面も持ち合わせてますし。
ちょっとタイプが違いますが、タイガースの我らが兄貴・金本選手の
真面目さとやんちゃな遊び心が絶妙に見え隠れする、あの魅力的すぎる
人柄にちょっと通じるような印象を持ちました。(←どんなたとえやねん)
しかし、病院特に大学病院を舞台にした小説といえば、『白い巨塔』や
初期の渡辺淳一作品などに見られるような、とにかくドロドロな人間関係
に話の面白さとは別にうんざりさせられることが多いのに、同じ医療小説
でここまで楽しく読ませてしまうのは凄いです。
もちろんこの小説の中でも、女同士の争いは醜いと言うけれど、男の嫉妬
も醜すぎる、、と思わせるエピソードがいくつもあるのに、それでも
不思議と負の感情にならないのは、ひとえにテンポの良さと各登場人物
の魅力の賜物でしょうか。
大竹さんの涙についての白鳥さんの鋭すぎるコメントには、もう素で
うん、その通り!と頷きまくりでした。
ところどころに覗かせる医者の本音と建前の構図には、気持ちは
わかるけど患者とすればたまったもんじゃないなーと(^^A
もし、この先入院する羽目になった場合、出来れば大学病院には収容
されたくないという気持ちを一層強くしてしまいました(苦笑)。
ミステリーの要の謎解きも難しすぎず易しすぎず、のさじ加減バッチリ
で、そちらの面も大いに満足でした(^-^)v
ところでおしまいの方で、田口センセが白鳥さんの子供でもひっかかりそうにない偽者にだまされていたと知りショックを受ける場面、
すすすすすいません。私もあの場面を読むまで本物だと信じてました(爆)。確かに自分の頭使って考えてないもんなーと小さく反省した
瞬間でした(^^ゞ
何はともあれ、これはホント人にも自信を持って面白い!と薦められる
1冊です。未読の方、騙されたと思ってお試しあれ。
どちらかが彼女を殺した
2006.02.18 Saturday
今夜は超簡単!だけど美味しいハヤシライスにりんごとくるみのサラダにデザートをつけた夕飯に、ごく個人的に金メダルおめでとう!の意味を込めてちょっと珍しいベルギービールを飲みました。綺麗な緑色のラベルの瓶でしたが、これがとてもコクがあって、最後の最後まで泡立ちがよいとても美味しいビールでした(^-^)。
昨夜から、プル君関連のブログなどをあれこれ検索し、あー皆様思うことは同じなのね、と思ったり、辛口なコラムにうんうんと頷いたり余韻を楽しんでます。
本音を言えば、あのフリーの演技には全然納得してません。ドキドキしながらリアルタイムで観戦し、無事終わったことの安堵感はあったものの、かなりの物足りなさと、ソルトレークの方がよかったという思いがよぎったことは事実です。
でも、1年前は手術でリンクの上に立つのもやっとだった彼が、五輪に出場し誰もが当然彼のものと思っていた金メダルを、強力なライバルもいない淋しい状況の中圧倒的な差でもって獲得したことには、賛辞を送りたいし、怪我と戦い続けた4年間の努力が報われたことを心からよかったなと思います。
SPはともかく、フリーの演技が彼本来のモノではなかったことは本人も認めているし、現役続行宣言には自分自身まだまだ納得できなかったことへの再挑戦への意味もあるのかも、なんて勝手に解釈しています。
ただ一視聴者としては、ここまで力の差が歴然としてしまうとかなり興ざめしてしまったことは事実だし、どんなに難易度の高い技を披露してもプルシェンコなら当然と思われてしまうことが、何だか可哀想にさえ感じてしまいました。五十嵐さんではないけれど、4回転が3回転に思えるほど楽に跳び、アクセルもコンビネーションにして当たり前、と思ってしまう圧倒的な能力。
今すぐは無理でも、ランビエール、バトル、ライサチェクら若い力のある選手達がこの先ジェーニャを脅かす存在になって再びヤグディンとのような
熱い戦いが見られる日が来ることを願ってます。
と、今日もまたフィギュアの話題になってしまいましたが(^^A
表題の
どちらかが彼女を殺した
東野 圭吾
を読みました。今回は、、うーん微妙です。
これを読んでわかったことは、私は謎解きよりも犯行にいたる経緯や登場人物の葛藤など人間ドラマが好きなんだなーということ。
話自体はそれなりに面白いけれど、被害者である園子、容疑者の2人、園子の兄誰に対しても共感できず後味の悪さだけが残りました。
しかも、この本の売りである犯人はどっちなのか、難しすぎて袋とじになっている解説を3回も読み直してようやく、それでも何となくですが(^^ゞどっちが犯人かわかりました。
おおっぴらに書くと流石に不味いので詳しくは書けませんが、終盤康正が佳世子にあることをさせるその部分に犯人の答えが隠されてますよ。
文庫版ではその決定的な証拠を削り更にわかりにくくした、とありますのでハードカバーをお持ちの方は確かめてみてくださいね。
内容的にはちょっと不満が残りますが、康正がスイッチの内部をつないでおかなかった理由は、洒落ているというとニュアンスが違いますが、ニヤリとさせられて好きです。
さて、残り少なくなってきたオリンピックを楽しみつつ、このところミステリー続きだったので次は毛色の違うものを読んでみようかな。
もうひとつの『秘密』
2006.02.16 Thursday
先日、東野圭吾の『秘密』がとっても面白かったということを書きましたが。今日はもうひとつの秘密の話題です。
数日前の朝のテレビで出版記念握手会の話題をたまたま見て、
つい勢いでアマゾンで申し込んでしまった 布袋寅泰さんの『秘密』が届きました。
斜め読みに近い速読でざっと一気読みしましたが、それなりに面白かったかな。語られている話の多くは、ファンなら既によく知っていることばかり
ですが、ちょこちょこ本人ならではのエピソードもあって楽しめました。
特に寅さんとの微笑ましいエピソードは、かなり羨ましかったです。
確かに寅さんの前では誰しもあの口調になるかも(笑)。
しかし、渥美さんて普段も寅さんみたいな方だったのですね。いいなぁ。
途中勝手に綺麗事にしてんじゃないわよ、と意地悪な感想を持つ部分も
いくつかありましたが(^^ゞ、そういう部分が彼らしいといえば彼らし
く、こういう突っ込みがいのあるお方だから、もういいと言いつつも未だに
テレビで見かけるとつい見ちゃったり、街の中であの独特なギターを聴けば「お、布袋」と耳がいってしまったりして何だかんだと離れらないのかも、と再認識しました。
あ、解散の真相を期待している方は買わないほうがいいと思います。
でもそれについては墓まで持っていく、という彼の意見に賛成かな。
世の中には知らなくていいこともあるし、今更知ったところでどうに
でもなるものでなし。案外本当の理由なんて、第三者が聞いたらえっ?
というようなことなんじゃないかな。
とりあえず25周年ツアーはチケットが取れれば久しぶりに行きます。
『ミリオネア』怖いもの見たさで見たら、、今週ではなく次回でした。
リベンジ大会の目玉として紹介されましたが、果たして結果はいかに!?
あれ以来屈辱の日々、とのことだそうですが、そーかやっぱりけっこう
言われたのかーと。ご本人も辛かったでしょうが、ファンもトラウマのようになってしまった方が多いのでは? 日頃は突っ込んでばかりいる私も、
あのときばかりは笑うに笑えず、かなりショックでしばらく立ち直れませんでしたから(苦笑)。
ま、でも前回が前回だけに3問以上正解すればリベンジ成功ですよね。
だったら軽い軽い。そう思って、OAこっそりドキドキしながら見たいと
思います〜(ビデオに録るときっとずっと見ないままだと思うので、怖いけど頑張ってリアルで見ます 笑)。
さーて、あと数時間で待ちに待った男子フリー☆ どうか最高の演技が
見られますように(><)。
秘密
2006.02.12 Sunday
今日は雪が降っていたので、せっかく治ってきた風邪がぶり返しても
と思い、大人しく家でオリンピックを見たり、読書をして過ごしました。
で、先日の『容疑者Xの献身』に続き、他の作品も読んで見ようと購入しておいた
秘密
東野 圭吾
を読破しました。
前回もそうでしたが、今回もタイトルの裏にそんなことが隠されていたのか!? と来る内容ですっかりひき込まれてしまいました。
あの結末を選んだ直子の強さと、受け入れたくはないけれども、敢えて気づかないふりをすることに決めた平介の優しさにじーんときます。
主人公のラストの行動が直木賞受賞作のラストとちょっとだけ被る気がしないでもないですが、この2作を読んでしみじみ思ったのは、東野圭吾という人は男の泣かせ方が実に上手いなぁと。
日本人は男子たるもの人前で泣くとは沽券にかかわる、という気持ちが強く、確かに2つの物語の主人公の生き方・行動はどちらもお世辞にもカッコイイとは思えないけれど、でも1人の人間としてとても魅力を感じます。特にこの『秘密』の主人公は誠実さと強さと弱さが上手い具合に混じり合っていて、多くの言動に共感を覚えました。
ところで、途中からこの話と似たような話をどこかで見たり読んだりしたような気が・・と思ったのですが、3分の2くらい読んだ時点で突然「ちょっと待って神様」だ!と気づきました。
じーんとくる度合いはやっぱりこの本の方が上ですが、山下公園でのシーンとドラマの終盤で竜子が夫に別れを告げる海辺でのシーンが重なります。「ちょっと待って〜」は主婦と女子高生、こちらは本物の親子で細かい設定なども大きく違いますが、もしかしてあのドラマを作るにあたり、この本が少なからず影響を与えたのかもなーなんて思いました。
あ、決して盗作とかそういうことを言っているのではないので、誤解を与えてしまったらごめんなさい<(__)>。
今のところ当たり続きな東野作品。次は読者にも犯人の名前を明かさず判断させるという『どちらかが彼女を殺した』に挑戦してみようかな。
容疑者Xの献身
2006.02.02 Thursday
昨日購入した
容疑者Xの献身
東野 圭吾
あまりの面白さ&読みやすさに一気読みしてしまいました。
最後のオチというか結末は、タイトルどおり・・・なんだろうなと思っていたら、、結末は確かに予想どおりでしたが、まさかそんなことまで・・!?という展開に、すっかりやられてしまいました。
ラスト数ページはもうひたすら号泣(T-T)。あんまり泣くと翌朝顔が大変なことになるので、途中から我慢しましたが(^^ゞ
主人公たる容疑者Xもいい味出しているのですが、それ以上に物理学者に惹かれました。べたべたしたり甘やかすのではなく、それでいて、誰よりも相手のことを理解し、友を思いやる彼の言動にぐっときました。
特に彼が友人に向かって放った最後の言葉「そのXXXXをそんなことに・・・・」。ホントその通りだなと。
普段の生活でも例えば、ホリ○モンが捕まったときなども同じようなことを思ったのですが、そんな見ず知らずの他人が無責任に思うような軽いものではなく、本当に心の底からの、殆ど魂の叫び、に近いあの台詞は重みがありすぎです。
そして、これはミステリーでありながら、一方でものすごい純愛小説です。
こういう風に誰かを愛したり、愛されたりしてみたい!と思わずにはいられない、愛とは何か、という究極の命題に答えた小説だと思います。
もし、自分がヒロインの立場だったら・・・やっぱり彼女と同じ選択をすると思います。想いが純粋すぎるが上に、そうすることは相手の望みではないとわかっていても、あぁするしかないだろうなぁ。
トリックの部分も予想外の仕掛けに、ひたすら参りました〜状態で、ミステリーとしても充分満足できるモノでした。
とにかく色んな意味で凄い小説です。
色んな要素が詰まっているのに、さらっと読ませてしまうところがもしかしたらいちばんすごいところかも。お見事
ダーク・タワー
2005.12.11 Sunday
今日は所用で東京日帰り強行をしてきました。
余裕をみて帰りの飛行機を決めたはずが、予想外に時間が延び途中で帰る羽目になりましたが(T-T)楽しかったです。
東京も思ったより寒かったけれど、小松に着き、空港から一歩外に出た途端比べ物にならない外気の冷たさが身に沁みました(^^ゞ
やっぱり寒いよ!雪国だよ(><)
朝も帰りも雪が舞ってましたもん。
いつも機内では、JALやANAの機内雑誌を読むのがけっこう楽しみで、(なかなか読ませるエッセイや旅行記がてんこ盛りであなどれないんですよ!)しかもJAL(ANAにも載っていたような?)は毎回母校の記事が1ページ載っているので、それも楽しみのひとつなのです。
で、今回ページを担当したのが在学中にチャペルでお世話になったT先生だったのでびっくり!でした。
牧師の息子の友人に言わせると「あんなん、適当なこと言うてるだけや」だったチャペルの説教でしたが、信者でもない単純な田舎からやってきた学生にはとってもありがたいお話に聞こえ、また、T先生の優しい笑顔と素敵な声がいたく気に入り(笑)、チャペルは1回生のみ必須なのに2回生以上になっても、お話が聞きたいのと賛美歌を歌いたい!
の両方で、時間があると出席してました。
ちなみに4回生になっても先生の説教の内容は変わらず、毎年同じ話をしてました(爆)。
当時は青年講師だった先生も頭に白いものが混じり、更に文学部の教授になられていて、年月の流れを実感するとともに、うわー出世したんだなーと(当たり前ですね)ちょっぴり嬉しくなりました(^-^)。
今回機内で読もう、と先日「模倣犯」を購入した際に併せてS・キングの「ダーク・タワー」1巻を買い、行き帰りの機内で読破したのですが。。キング版指輪物語、キングのライフワークという触れ込みでしたが、、、いまいちだったかなぁ。元々指輪物語自体にあまり興味がないのもありますが、長い物語のプロローグ部分ということもあってか、全体的にまどろっこしい感じで、じれったく、ワクワク感が少ない気がしました。そして、何より全然怖くないし(苦笑)。
「IT」なんかは最初っから次が気になって気になってしょうがない上に、
かなり怖かったのに。
来秋まで順次刊行とのことですが、とりあえず来月続きを読んでみて最後まで買うかどうか決めようかな(^^A
さて、京本ファンの皆様(ってココ見てる方はかなり少ないと思うのですが^^ゞ)に嬉しいお知らせです
明日12日発売のニッカンスポーツに来年2月発売のシングルの記事がカラーで掲載
されるそうです(やったね!)
是非、皆様記念にお買い求めくださいね♪
ただし、スポーツ新聞って東京版と関西版で記事が異なる場合が多いので、関西版にもこの記事が掲載されることを祈りつつ(てか、ウチの地域の場合なんか折半みたいにされた紙面のときもあるからなぁーー;
えぇ、過去にも何度もヒムロックのライブの記事とか全面広告とか、工藤ちゃん1面トップなどで散々泣かされました とほほ)、明日の朝は駅へニッカンスポーツを買いに行ってきまーす!
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