ノースライト
2019.04.29 Monday
お休み中なので今年初めから春にかけて読んだ中で特に面白かった本の感想など。
横山秀夫『ノースライト』
病院帰りに立ち寄った書店で2月下旬に発売、のポップを目にして久しぶりに新刊が出るのかーとその場で予約しました。
SNSで読みたい本を予約購入することが街の本屋さんを救う一歩になる、という書店員の呟きを見て以来、実践しなくちゃ(←影響されやすい)と思っていたとこに漸くチャンスがやってきて嬉しかったです。
それはさておき。
横山秀夫と言えば警察小説の印象が強いですが、この本は”横山ミステリー史上最も美しい謎”というキャッチコピーでそれまでの作品とは一線を画す内容でした。
一家はどこへ消えたのか?空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか?
一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに……。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば。このY邸でいったい何が起きたのか?
帯に記されたあらすじを読んだ時は高村薫や宮部みゆきのような読後にずしりとくるような陰惨な事件を想像して読み始めたのですが。
主人公青瀬の行動を通じて、彼の人となりやこれまで歩んできた道のりが次第に明らかになると同時に本流である謎解き=依頼人一家はどこへ消えたのか? ということに少し近づいたと見せかけて、別の疑問何故タウトの椅子だけが残されたのか?が浮上。このタウトの椅子を巡っての探索がとても面白かったです。
青瀬の職業柄、建築士とはどんなことをする人なのか、という普段の生活では知り得ないことも細かな描写により、まるで傍でじっと観察しているように浮かび上がってきました。読み進めるうちに依頼人からの要望を聞く、という大きな違いはあるものの、建築士と作家はともに何もないところに緻密で壮大なストーリーを作り上げていく、という部分に置いて通じるものがあるのかもしれない気がしました。
青瀬は非常に優秀な建築士ですが、1人の人間としてみると凸凹だらけのとても不器用です。彼の上司や部下、事件を通じて関わってくる人物誰一人をとってみても皆それぞれに欠点や出口が見えない悩みを抱えています。謎を追いかける過程で様々な出来事が起こり、中にはとても悲しいこともあるけれど。底流にはずっと暖かなうねりがあっちこっちに蛇行しながら続いている。そんな気がしました。
キーとなる家を訪れた時の”ノースライト”を含めた描写が美しく、実際に住むのは嫌だけど(苦笑)本当にこんな家があるのなら見てみたい、と思いました。
すべての謎が解き明かされた時、青瀬の行く手にも新しい光が射しこんでくるラストは静かにじーんときます。
とてもいい話を読んだなぁ、という満足感に包まれました。
と、ここで終わっておけばいいのですが。最初に読み終えてすぐに再読し、細かな部分の繋がりになるほどなーと感心した後にふと思ったことは。
横山氏が女性だったら、きっとこの結末にはならないのでは? でした。壊れた壊してしまったつながりが様々な出来事を経て再生する(ように見える)、という話は萩原浩 の作品でもありましたが。
女性は覆水盆に返らず、の言葉通り希望が見える結末であっても過去を踏まえた上で別の道へ行く、もしくは希望そのものをそれほど持たせない、というものが多い気がします。
あくまでも私の狭〜い読書範囲の中で感じたことなので、そうでない場合や逆のケースも多々ありますが(^^ゞ。
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