プリズンホテル
2014.06.07 Saturday
今回の入院中、手術当日以外は本を読むことが出来たので、家から持参したものや病棟にある書籍をいくつか読み耽りました。
その中でダントツに面白かったのが、昨日の記事でもちらっと書いた浅田次郎の『プリズンホテル』シリーズ。
以前、何かで中井美穂が絶賛し、この本をつまらないと思う人とは友達になれないとまで言っていて、そんなに面白いのかーと思いながらも天の邪鬼な私は、いや別に友達になる機会自体がそもそもないよ、なんてしょーもない突っ込みを入れていたおかげで(^^ゞ、病棟の本棚にこれを見つけた瞬間、彼女が絶賛していたことを思い出しました。
夏、秋、冬、春の全部で4作品があり、春で大団円のハッピーエンドを迎えるのですが、病院にあったのは秋〜春までの3冊。最初の夏はなかったのですが、特に問題なく楽しむことが出来ました。
簡単なあらすじというより、概略は以下のとおりです。
木戸孝之介は幼い頃に母が駆け落ちしたことがトラウマとなり、精神年齢がその時から止まったままの売れっ子小説家である。極道小説『仁義の黄昏』シリーズが代表作なのだが、自分が目指しているのは純文学であり、現在の状況に些か不満もあったりする。子供がそのまま大人になった状態であるため、性格はめちゃくちゃ、周囲に暴力をふるうことでしか、愛情表現ができない非常に困った人物である。
そんな彼には、今や唯一の肉親である木戸中蔵という伯父がおり、彼は関東桜会木戸組組長であり、湯浅元あじさいホテルのオーナーである。
マル暴対策として山奥に建てた、リゾートホテル=湯浅元あじさいホテルは、地元ではプリズンホテルという有り難くない別名で呼ばれる、一風どころかかなり変わったヤクザ御用達ホテル。そんなホテルだが、何故かやくざ以外にカタギの客人もしばしばやって来る。そんなホテルを舞台に繰り広げられる、ハチャメチャだけれども人情味あふれる出来事を通して、木戸孝之助が1人の人間として成長していく様子も描いたシリーズ。
今回読めなかった1巻夏では、孝之助の母の駆け落ちに絡んだ関係者がホテルに孝之助を呼び寄せて真相を語るのが大まかな筋のようで、これは続くシリーズを読んで行けば、詳しいことまではわからないまでも、概略は掴めます。
最初の夏が出たのが1993年。かれこれ20年以上も前のことで、テレビドラマや舞台等にも何度もなっているそうで。まったく知りませんでした(^^ゞ
ですが、知らなかった故に何の先入観もなく物語世界に入っていくことが出来ました。
ヤクザがホテル経営、なんてトンデモ設定なので、出て来る人物もほぼフツーの人は皆無。ホテルマンの鑑のような支配人でさえも、やっぱりちょっと(?)ずれた部分や悩みもあり。プリズンホテルに宿泊した客が漏れなく心の垢を綺麗に落として元気になって帰って行くのと同じように、読み手の方も笑ったり呆れたり、はらはらしたりしながら自分の心もすーっと軽くなっていく、というとんでもない本です。
秋、冬は比較的すんなり楽しめますが、最後の春は涙腺が緩い私は、かなりきてしまい、翌日鼻の周りが真っ赤になってしまいました。
トンデモない人格破綻者で、常に愛を求めてばかりだった孝之助が、育ての母である富江の一言がきっかけで、これまでの人生いかに多くの抱えきれないほどの愛情を受けて来たかを思い知るシーンは、涙なくしては読めません。
個人的には主人公よりも、プリズンホテルの従業員達の魅力にすっかりやられてしまいました。特に板長とシェフの料理人同士の絆というか、師弟愛のような関係にはぐっときます。一方で族あがりの繁クンの言動にもほろりとさせられっぱなしでした。
多分、古い上にとっても有名な小説なので、まだ読んでなかったの? と思う人の方が多いかと思いますが、ものすごくお薦めの1冊です。
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