マチネの終わりに
2017.12.29 Friday
今年は色んな作家の本を読もう、という密かな目標を立て。
今まであまり読んだことがなかった作家の作品をそこそこ読んだ1年でした。夏くらいまでは桐野夏生や角田光代に嵌り、特に角田光代はかなり気に入って長編を何冊か読みましたが、どれも読みごたえがあって面白かったです。
映画化がらみで久しぶりに読んだ東野圭吾の「祈りの幕が下りるとき」も面白くて何度も読み返すくらいでした。
で、何か面白い本がないかなーと娯楽の殿堂=書店で物色していた時に目に止まったのが表題の『マチネの終わりに』。
まずタイトルに惹かれ、青と黄色の綺麗な装丁と帯にある又吉直樹さんの「この小説は是非読んでいただきたいです。」という文章に、手に取ってパラパラとめくってみると読みやすい文章でこれはいけるかも……と思いましたが、何しろハードカバーをいきなり衝動買いするのは躊躇われ。
数ヶ月間ずっと気になりつつも、11月の誕生月になり贔屓の書店のポイントカードが10倍になるというので買うなら今だっと出会ってから3ヶ月後に購入。大抵はすぐに一気読みすることが多いのですが。丁度あまり体調がよくなかったこともあり毎晩少しずつ10日ほどかけて読み終えました。
アメトーク!の読書大好き芸人の回で取り上げられ、話題になった本だそうですが。生憎と見ておらず。逆にまっさらな状態で読み進めることが出来てよかったです。
当初は大人の恋の物語との触れ込みに、恋愛モノがあまり得意でない自分は楽しめるのかな、と少々不安でしたが。
綺麗な文章で読みやすく。大人のと銘打つとおり若さで突っ走る激しい恋や純愛とも異なる、少々もどかしさも感じつつも飽きさせないストーリー展開で最後まで楽しく読むことができました。
天才ギタリスト・蒔野聡史と世界的に有名なクロアチア人の映画監督を父に持つ小峰洋子が出会い、互いに惹かれあいながらも結ばれない恋の物語です。
なんだか身も蓋もない要約ですが。日頃あまり馴染みのなりクラシックギターの世界の描写がとても興味深く。
また、洋子が蒔野や職場の上司や同僚相手と交わす豊富な語彙と知識に裏打ちされた会話がとても面白く。やや観念じみたところもあるけれど、出来過ぎる人はこんな風に物事を考えるのかと感心させられっぱなしでした。
物語上は悪役という立ち位置になる蒔野のマネージャー早苗と洋子の対比が随所でなるほどなぁと思うことが多く。最初の方で早苗が言った、この人が主役の人生の名脇役になりたい、はとても印象に残る台詞でした。
早苗が取った行動は許しがたいものだけれど、こういう人は少なからずいて。恋は盲目を地で行き過ぎた早苗が悪いのは当たり前ですが、簡単に引っかかり大事なところで押せなかった蒔野の非も大きい気がします。
洋子は魅力的な女性ですが、実際に身近にこんな人がいたら苦しいだろうなとも思います。リチャードが洋子に言った、君が正しいことをしたから尽くしたんじゃない、愛すればこそだ、は自分が彼の立場でも同じことを思う気がします。
正しさや信念だけで人は生きていけない、と思うのはきっと弱いものの勝手な理屈なんだろうけれど。洋子の厳しさと強さは時に息苦しさを感じてしまい、二人の恋路に関しては物語同様報われなくてよかった、と思います。
PTSDや好きだから相手を思いやり身を引く、というのもわかりますが。本当にそこまで分かり合える稀有な存在で、心底好きなのであれば、どちらももう少し突っ込んであのメールは何? どうして? ということを言えば誤解は簡単に解けたのでは? という気がします。
でも、きっとそういうことが出来ない二人だからお互い孤高の存在であったのかも、とも思います。
終盤の早苗が洋子に問う、マルタとマリアについての見解。考えさせられるというよりはそういう風に思う人がそれなりにいることにびっくりでした。
イエスは茶を供せよ、とマルタに命じたわけでなくお茶を出さなきゃというのはマルタがそう思って行動したことです。嫌ならマルタも一緒に話を聞くだけにすればよかっただけでは? 好きな人の名脇役になりたい、と言って憚らない人がマリアの行動を非難するのは何だか滑稽な気がしますが、そういう矛盾をいっぱい抱えながら人は生きているのかもしれないな、と思います。
登場人物の誰にも共感できないけれど、しいて言えば武知が一番人としては身近な感じで。結末は残念ですが彼があぁしてしまったのも頷ける気がします。
正直に言えば、恋愛小説や昼メロが得意ではない感覚からすると、メディア等そこまで絶賛するほどではない気もしますが(苦笑)、なぜだか何度も読み返したくなる不思議な魅力がある小説です。文章は文句なしに綺麗です。久しぶりに地の文が美しい本に出会いました。
素敵なタイトルだな、と最初に思いましたが最後まで読んだときに、ぴったりなタイトルだと納得です。
しばらくたって読み返すとまた違う感想を抱くのかも、というのも楽しみです。
来年、平野氏の別の作品も読んでみようと思います。
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