対岸の彼女
2018.05.05 Saturday
以前は面白い本に出会うとせっせとマメにブログであぁだこうだ感想を書いていましたが、ここ数年すっかり億劫になり。
読んだ直後はこの喜びを誰かに伝えようと思うのに、疲れたとか眠いとか先送りにしているうちにもういいや、となってめっきり書かなくなってしまいました。
ここ半年くらいでも何冊もこれは!と思う本との出会いはありましたが上述の理由でそういう本がたまってしまい結局そのままに。
せっかく連休なので今日は久しぶりに表題の本を取り上げてみることにします。
『対岸の彼女』角田光代著
以前から好きな作家の1人でしたが、去年急に猛烈に嵌り何冊か読み漁った中で抜群に好きな1冊です。
彼女の作品は読後に楽しい、嬉しいという気持ちになることは少ないけれど(汗)その中でこの話は読み終えると毎回、とても爽やかなすがすがしい気持ちになります。
簡単なあらすじは
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが……。結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く長編傑作。文庫本裏表紙より
同い年の立場の異なる二人の女性を主人公に二人の出会いからすれ違いを描いたこの本は、小夜子の視点で綴られる現在と葵視点の過去が交互に交錯しながらストーリーが進んでいきます。
立派な書評や感想はネットのあちこちに溢れているので、毒にも薬にもならない独善的な感想になりますが。
葵パートの高校時代の部分、とても面白くて引き込まれる一方で高校でもこんなこと(スクールカーストと多くの感想に書かれていました)が起きるのか、というのが初めて読んだ時の率直な感想でした。
高校でのスクールカーストは「霧島、部活やめるってよ」でその存在らしきものを知り現代の高校生達は大変だな、と思ったのですが。自分たちが高校生だった頃も知らないだけで存在していたのか、と。この本を読んで今更ながら驚きました。
家庭の事情からカーストの最下層にされてしまったナナコの「今みんながあたしについて言ってることは、あたしの問題じゃなくあの人たちが抱えている問題。あたしの持つべき荷物じゃない。人の抱えている問題を肩代わりしていっしょに悩んでやれるほど、あたしは寛大じゃないよ」という台詞がとても心に残ります。
葵がナナコはずっと幸せな環境で大事に育てられてきたと勝手に誤解したほどのナナコの明るさの原点を見せられたようで。また、これは家族のことだけでなく、すべての人との関係に通じる言葉な気がします。
あれほど深く結び付いていた葵とナナコが、ある事件をきっかけにぷっつりとその関係も途絶えてしまったことを不思議に思っていた小夜子が、終盤ふいにその理由を理解するくだりがとても好きです。
多くの読者は、終盤の葵の父の計らいで事件以来、初めて葵とナナコが再会するシーンが落涙ポイントのようですが。泣き虫な私は意外とそこは平気で。
最後の一旦は葵の元を去ろうとした小夜子が再びその扉を叩きに行くシーンで毎回、必ず鼻の奥がつーんとしてしまうくらい大好きです。特に元々人に思いを伝えるのが苦手な小夜子が、うまく葵に真意が伝わらなかったのではないかと思い、言葉を重ねようとしてそうじゃない、ちゃんと正確に伝わってるとわかるくだりがたまらないです。
その直後の掛け合い漫才のようなやり取りが嬉しくて、人と人が出会うっていいなーとポロリと涙が零れます。
なので、病院の待合室などではそのシーンが来る前に本を閉じます(笑)。
個人的に掃除業の指導員として登場する、中里さんがとても好きです。実際に一緒に働くとなるときっと怖くて逃げだしたくなるに違いないけれど。彼女の言動を見ていると気持ちよく、仕事はきっちり頑張らなきゃと思います。
女性が主役で男性は脇役、しかも葵の父以外は全員ちょっと嫌な感じの人しか出てきませんが。毎回、読み返すたびに気になるのが葵の会社を手伝っていた木原です。葵さんのファンなんです、と言いながら最終的には葵のやり方に不満を持っていた社員を団結させてごっそり引き抜いて去っていった木原。
最初からそういう目的だったのか、本当にファンだったけれど途中からそういう目的になったのか。とても気になります。実社会でもこういうタイプの方は時々見かけますが、そういう風に立ち回る心理とはどんなものなのか?
単純にこのまま泥舟に乗り続けるよりは的な心理なのか、作中で葵が言うように会社を作るなんて簡単だと思ったからなのか。
ただ、彼が一斉に退社するように仕向けた女性達は、皆あんまり一緒に働きたくなるような人ではないので(苦笑)うまくいくのかなぁ、とかなり疑問です。それも手伝ってわざわざ後ろ足で砂をかけてまでやる行為なのかな、と思ってしまいます。
けっこう検索かけてみましたが、端役も端役な彼に着目した感想は殆どなく。物語の主題とは無関係なので当然ですが、読み返すたびにますます気になります。
年齢を重ねれば重ねるほど、自分を含めたいていの人は臆病になり、なかなか新しく”出会う”ということに抵抗を感じるようになります。
でも、そうではなくて。全く自分と交わることがないと思っていたところにも”出会い”はあってそれは必ずしも楽しいことばかりではないだろうけれど、それでもやっぱり誰かと出会うために人は生きるんだ、と思わせてくれる1冊です。
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