彼岸過迄
2014.04.25 Friday
動物園だよりの続きを1回お休みして。
4月から某新聞で100年ぶりに夏目漱石の「こころ」の連載が開始され、毎日1回分をちまちま読んでいたのですが、例によってせっかちなので、子供の頃に読んだ岩波文庫を引っ張り出してきて一気読み。
古い本を引っ張り出してくるといつも実感するのは、昔の本は字が細かく1ページの中の情報量がたくさんあったんだなぁと。
なので、岩波文庫の中でも「こころ」は薄い部類に入るのだけれど、今、書店で新潮とかで出ている「こころ」はそれに比べるとびっくりするくらい分厚くなっています。
それはともかく。「こころ」を読んだついでに、少し前の金曜言葉塾で紹介されて以来気になっていた「彼岸過迄」を読んでみました。
「彼岸過迄」何とも気になるというか、けっこう洒落たタイトルです。が、これも新聞連載小説で漱石が胃潰瘍という当時としては相当な大病を患った後、作家活動を再開するにあたり、連載開始の正月からだいたいお彼岸過ぎ迄の長さにしよう、と思いこのタイトルにしたそうで。
という話を林先生がテレビでしていて、その時はへぇそうなのかぁ相変わらず何でもよく知ってるなぁと感心したのですが、読んでみると何てことはない。
タイトルについては、小説の前書きで漱石自身が書いているため、小説を読んだ人には周知の事柄。どうみても漱石フリークな林先生にとっては、朝飯前のことだったという。
この「彼岸過迄」は漱石晩年の作品で「門」「こころ」と並び後記三部作と言われているそうです。
と偉そうに書いていますが、読み終えた後、何だか難しかったけれど他の人はどんな感想をもったのかしら? と思いレビューを見て知りました(^^ゞ
さて、今難しかったと書きましたが。それは読みづらかったとかそういうことではなく。寧ろ綺麗な読みやすい文体で(明治〜大正の小説なのでその時代や漱石特有の言い回しはもちろんありますが)、さらさら〜っと一気に読めたのですが、読み終えて、面白かったけれど、この作品で漱石は一体何が言いたかったんだろう? と考えてしまい、それがわからず難しいと思ってしまいました。
なので、その答えを求めて色んな人のレビューを読んだのですが。いや〜皆さん凄いわ。とても同じ物を読んだとは思えない、立派なレビューがずらりでした。
とてもこんなの書けないし、そもそもそんなことちっとも思わない(わからない)かったよと思い、やっぱりこれを紹介するのはやめとこうと思ったのですが。
続けて一緒に購入した村上春樹の「女のいない男たち」を読み始めて、ふと気がつきました。
小説なり文章を読んで作者や書き手は一体、何を言いたかったのだろう? と考えるのって学生時代のテストの影響ではないのか? と。
現国や古文を問わず、小説や随筆の抜粋したものを載せ、いくつかの設問が並んだのち、大抵最後にこの文章で作者が言いたかったことはなにか? 簡潔に述べよ、とか何字以内にまとめよ、とか。
それには大抵、出題者が望む答えがあり(ってテストに答えが用意されているのは当たり前だけど)、作者が本当に言いたかったことの真偽はともかく、テスト用の答のパターンというのは大抵決まっていて、一度コツを掴めばたやすくははーんこういう答えを望んでるのね、と嘘八百を並べて過ごしていたツケがどうやら大人になっても抜けていないんだと。
何故なら、村上春樹の小説を読むとき、読んだあとも彼が何を言いたかったんだろう? なんて考えたことはなく。そもそもそんなことを考えていたら、彼の小説なんて読めません(こらこら)。それは別に村上春樹に限ったことではなく、宮部みゆきだろうが内田康夫だろうが、安部公房あたりまで年代を上げても同じです。たまに、これってこういうことを言いたかったのかな? と読み終えて思うこともあるけれど。小説を読む楽しさとは、自分にとって面白かったか、つまらなかったかそれだけ。面白ければ満足して何度でも読み返すし、つまらなければ今回は外れだったなぁと思うだけです。
それが今回は夏目漱石という、現代人にとっては古典文学に属する明治の文豪だったため、つい構えてしまったようです。
と、恐ろしく長い前置きになりましたが。「彼岸過迄」です。
敬太郎という大学を卒業して、就職活動中(でも、あんまり熱心じゃない)な若者が友人の須永市蔵との関わりを通じて、彼の叔父達と交流をもつようになり、敬太郎を媒介として市蔵と彼を取り巻く人々の様子が語られる、そんな物語です。
読み進めるうちに、敬太郎が主人公のはずだったのに、途中から彼は物語の語り手のような役割となり、読み終えて真の主人公は市蔵だったんだと気づきました。
小難しいことは脇に置いて。明治も終わりが舞台なので、その時代の人々の暮らしぶりが窺えて興味深く。最初は、就職活動中でありながら、何となく大学を卒業したのだからしかるべき地位の職につきたい、つけるだろう、とのほほんと贅沢なことを思っている敬太郎に、こらっもっと真面目に就職活動しなさい、と姑ばばあのようなことを思ってしまったのですが(^^ゞ
その次に登場した市蔵に至っては、敬太郎よりも学問の上では優秀だったにも関わらず、いっこうに働く気がなく。
内にこもり、彼なりに思い悩むところは大いにあるとはいえ、傍から見れば暢気な生活を送っているのを見て、んん?明治というのは、社会の様相が激しく変わり、たび重なる軍備増強や高すぎる税金で庶民はとても苦労した時代だと思っていたイメージが激しく崩れ落ちてしまいました。
他の小説でも、この人は一体どうやって生計を立てているんだろう? と思うような、いわゆる家の財産だけで働かずに暮らしている人物が少なからず登場するので、もしかして昔はそういうことが可能だったのかと思い聞いてみたところ。
もちろん現代でもそういう人は限られているにせよいるけれど、戦前までは確かにそういう人々が普通にいたそうです。
敬太郎の目を通して語られる、色んな人々の描写が興味深く。
生活様式そのものは100年前だけれど、そこで生きる人々が考えたり、交わされる言葉の内容自体は現代でも変わることがなく。時代背景が次々変わっていくだけで、そこで暮らす人間そのもの自体は100年前だろうが、200年前だろうがさほど変わっていないのかもしれません。
千代子が好きだけれど、自らの境遇や諸々から結婚には決して踏み切らない市蔵に千代子は「あなたは卑怯だ」と言い切るのですが、卑怯でもあるけれど寧ろ臆病者だなと思ってしまいました。
卑怯で臆病でそのくせ嫉妬心だけは人並みかそれ以上に持っている市蔵。とことん面倒くさいヤツなのですが、何故かなんてやつだっこんな人嫌だ、と思えないところが不思議です。
と、結局何が言いたかったんだ? という紹介になってしまいましたが。
敬太郎や千代子、市蔵、松本らを通してしばし明治の空気に触れてみるのもいいものです。
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