トウキョウソナタ
2008.12.13 Saturday
12月唯一の土曜休みの今日は午前中にシネモンドで公開中の『トウキョウソナタ』を見てきました。
先日、カンヌ映画祭のある視点部門で受賞した話題性のおかげか、若者からお年寄りまで幅広い年齢層のお客でそこそこの入り。元々、夏にシネモンドに行った時に見た予告編がかなり心惹かれたので公開を心待ちにしていたのですが、受賞後からやたらマスコミ・口コミ始め各地で絶賛されていて、どうなのかなーと期待と不安が半分の気持ちでした。
簡単なストーリーは。
そこそこ有名な健康機器メーカーで総務課長としてやっていた佐々木竜平(香川照之)は、会社の中国進出に伴う総務部の中国への移管による日本人削減の為、突然リストラされてしまう。リストラされたことを家族(妻と大学生の長男、小学6年生の次男)に言えず、毎日会社に行くふりをしながら職安に通い、配給をお昼代わりに食べる日々。配給場所の公園で高校の同級生黒須(津田寛治)に再会し、リストラの先輩でもある黒須からアドバイスを受けつつ2人で職安に通うが厳しい現実に打ちのめされるばかり。
一方、アルバイトに明け暮れ殆ど家に寄り付かない長男・貴(小柳友)はいつの間にかアメリカの軍隊に入隊手続きをしてしまう。
次男・健二は偶然通りかかったピアノ教室に憧れ、両親の反対を押し切り内緒で通い始める。
夫のリストラを知りながらも敢えて気づかないふりをしてバラバラな家族を何とか繋ぎとめようと一家のまとめ役を演じてきた妻・恵(小泉今日子)にも次第に異変が起き始め……。
全体的には面白かったです。特に前半のリストラされた竜平と黒須の描写は今のご時世やけにリアリティーがあり、身につまされるものがありました。どちらも妻に言えず、いつバレるのかひやひやしどおしで。特に黒須のバレないための様々な小細工・演技は、心情を察してあまりあるものがあり、ココは笑いを取りたいんだろうなーと思ってもとても笑えませんでした。
職安でにべもなく「以前と同じ条件は100%ありえません」と言われ、プライドも粉々になった竜平が生きるために行き着いた先はショッピングモールの清掃員。
洗剤の種類と使い方を教える先輩に「全部これ(どんな汚れにも使える洗剤)でやっちゃだめなんですか?」と聞くも「ダメだ」と一蹴され。理由を問えば「プロの仕事じゃなくなる」という尤もらしい回答に感心したのも束の間。後に登場する、仕事を終えトイレでネクタイを締める竜平の背後の小部屋から颯爽とスーツ姿で出てきたのはその先輩作業員。どこも同じなんだな、と竜平にも観客にも同時に思い知らせる上手い手法だな、と思いました。
しかしこの職がなく結局清掃員にというくだりは、昨夜、友人との忘年会で昔の職場の管理職の方がSCの清掃員になっていた、という話を聞いた直後だったのでリアルすぎる現実が悲しく、身に沁みました。
でも、仕事というのはスーツを着て会社に行くのでなければいけないのか?という疑問も一方で湧き上がってきます。とかく掃除というと数段低い仕事に見られがちですが、これも立派な仕事には違いなく。そもそも昔は掃除もまともに出来ん奴に仕事が出来るか、ということも言われていたこともあったのに。いつの間にか日本人(いや世界的に?)は顔の造作だけでなく、仕事さえも見てくればかりを気にするようになってしまったんだなと改めて考えさせられます。
ラスト近くで、今度は一心に床のゴムを剥がす竜平の表情(これ、すごくよかったです)に少しだけ明るい気持ちになるのが救いです。
香川照之、小泉今日子の両主役はどちらもさすが、という演技でした。香川さんが上手いのは今更ですが、キョンキョンいつの間にかいい女優さんになったなーと。まぁ最近の彼女の主演作を見ている人にとっては今更な感想ですが、久しぶりにキョンキョンの演技を見たモノとして素直にいいなーと思ったので。
で、タイトルの「トウキョウソナタ」。ソナタとつくからには大体3部構成だろうと勝手に想像していたのですが。冒頭の嵐のようなリストラにまつわる描写が1楽章とすれば、中盤の家族の崩壊っぷりがどんどん露呈していくのが2楽章。で、全く意味不明だった(^^ゞ役所広司扮する泥棒が登場して急展開、一気に強引にラストに行くのが終楽章ということにすると、1,2楽章まではものすごいひき付けるものがあったのですが、役所さんの泥棒があまりに不自然というか陳腐すぎて
ここでかなり興ざめしてしまいました。役所さんが悪いわけではなく、あそこであの展開にしてしまった監督の演出がどうも理解できず。
理解できないといえば、大層な御託を並べてアメリカ軍に入隊してしまった長男のくだりは、たまたま今年読んだ『貧困大国アメリカ』という新書にて、彼が入隊するいわるゆ外国人部隊=傭兵の暗部というか現実に抱える問題点で語られていたこととダブってしまい、全く共感できませんでした。
でも、たまにネットでも見かけますが案外貴みたいな考え方の若者は多いのかもしれないなぁと思うとそれもうーん。。となってしまいます。
と、話をソナタに戻して。リストラされた父同様、物語の大きなウェイトを占める次男のピアノ。映画中でいくつかの曲が流れるのですが、その選曲がなんとも言えず絶妙で唸らされてしまいました。
まず、彼がピアノを習いたいと思うきっかけとなった”かねこピアノ教室”そこで健二と同じくらいの年の女の子が弾いていた曲がブルグミュラーの「素直な心」。数あるブルグミュラーの練習曲の中で敢えてこれを選らんだところに意味がある気がします。
更に拾ってきたものの動かない電子ピアノでこっそり練習していたのが恵に見つかるシーンで、健二が歌いながら指だけ動かしていた曲が「クシコスポスト」。この時点でかなりやられたー、でした。
極め付けがラストの音大中等部の入学試験で健二が奏でるドビュッシーの『月の光』。前の受験者がソナチネだったので、金子先生が天才と絶賛する健二が弾くのは一体どの曲だろう?と思っていたら、、いい意味でものすごく裏切られました。しかも、この月の光がありえないくらいよかった!
最初はこれ、今季の浅田真央のSPの曲なんだよなーとか、始めて数ヶ月でこれが弾けるってやっぱり天才、等どーでもいいことを思っていたのですが、窓から吹き込む風で揺れるカーテン(この演出がまたいい)を眺めながら、何て心が洗われるようないい音なんだろうと聞き惚れるうち、気がついたら右の頬に冷たいものが伝ってました。
演奏も素晴らしかったのですが、弾いている井之脇くんの雰囲気が絶品でした。
この1曲で終盤のモヤモヤが吹き飛んでいってしまうくらい、素晴らしかったです。
映画の中で演奏されるピアノでこれほど感動したのは「戦場のピアニスト」以来です。まさかこんなオチが来るとは思っていなかったので、自分でもびっくりでした。
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