RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
2013.06.29 Saturday
数年前に公開され、当時CMを見て何となく面白そうだなーと思っていた『RAILWAYS〜』が今週BSでやっていたので録画したものをようやく見ました。
49歳で電車の運転士になった男の物語 とタイトルにあるとおり、本当にそのまんまの映画でしたが、なかなかよかったです。
筒井肇(中井貴一)は大手家電メーカーで営業企画部長を務める49歳。上層部の覚えも良く、専務より取締役への昇進を告げられた肇は、会社再建のための大掛かりなリストラを指揮するよう命じられる。
会社の為にリストラを断行する肇は、閉鎖する工場の同期で親友でもある工場長に、本社へ戻すから一緒に頑張ろうと持ちかけるが、モノづくりが心底好きな彼は首を縦に振らず返答を曖昧にする。
そんな折、肇の母・絹代(奈良岡朋子)が倒れたとの一報が入り、肇は妻子とともに故郷の島根へ赴く。
病院や家でも仕事に追いまくられる様子の肇に娘の倖(本仮屋ユイカ)は「そんなに仕事が大事?」と冷ややかな視線を送るが、「当たり前だろう」と意に介さない肇。そこへ件の工場長・川平(遠藤憲一)が交通事故で亡くなったという知らせに呆然とする肇。
仕事一筋だった肇の心に初めて迷いが生じ、このままでいいのか自問自答した肇は故郷に戻り子供の頃の夢だった電車の運転士になることを決意する。
と、あらすじに書いたとおりのまんまな映画です。ストーリー自体は全体的に淡々としていて、エリート企業の幹部候補生が突然それを投げ出して夢を追い求め実現させてしまう、というただそれだけの話です。
この辺については、彼の心情的にはよかったねーとは思うものの、これ主人公が経済的に恵まれていて後顧の憂いもない状態だから出来たことだという感が拭えず、間違っても夢を追うことは素晴らしい!世のサラリーマンも続け、とはなりません(苦笑)。
だって、書類選考の際の一畑電車の社長らの台詞にもあるように、同じ49歳でも彼が誰もが知る大企業のエリートだったからこそ、彼らも面白いと思ったわけで。しがない町工場や零細企業の営業部長だったら年齢を理由にあっさりはねられていたのが明白です。
訓練学校でも運転士になってからも、肇の仕事ぶりはそつがなく、熱心さのあまりに電車をしばしば遅らせたり止めたりすること以外は非の打ちどころがありません。でも、この辺は見方を変えれば、それだけ出来る人だったからこそ大企業で勝ち残れたとも言えるし、何をやっても出来る人にはそれなりの理由がある、というのを体現しているのかもしれません。
と、そんなしょーもない突っ込みのような僻みはさておき。
ただの1本の作品として見ると、派手なやりとりもなく、淡々としているけれどもとても丁寧に作られたいい映画でした。
電車オタクでも何でもない私でも、電車を初めて動かすシーンや、スクラップ同然の電車を文字通り腕一本で支えている整備士のシーンなどうるっときたり、楽しそうだなーと思わず羨ましくなりました。
絹代の介護士役で宮崎美子が出ているのですが、彼女の介助ぶりがあまりに自然で気持ちがよく、こんな人にお世話してもらうおじいちゃん、おばあちゃんは幸せだろうなーと思わせる働きぶりがとてもよかったです。
中盤以降は島根が舞台なので、島根のシーンがたくさん出て来るのですが、風景の獲り方がとても綺麗で。広大な田んぼの稲穂が風に揺れて綺麗な波状を描く様子だけが画面いっぱいに映し出されるシーンとか、子供の頃に見た好きだった景色のまんまで、いいなーと癒されました。
今では滅多に見ることがなくなりましたが、あの稲穂が風に揺れて漣のように順番に綺麗な模様を描いていく風景がとても綺麗だったのです。
田んぼの真ん中をオレンジ色の一畑電車が走って行く様子を遠くから捉えた映像も鮮やかな色の対比がとても綺麗でした。
風景同様、ときどき空だけを捉えた映像をも出て来るのですが、台詞ではなくこうやって雲や陽射しの様子で季節の移ろいを感じさせる演出も良かったです。もちろん登場人物の服装からもそれは窺えるんだけどね。
あと、映画のストーリーとは関係ないですが中井貴一の滑舌の良さに惚れ惚れしました(笑)。運転士なので「右よし左よし」ではないけれど「出発進行ー!」とか色々声を張るシーンが沢山あるのですが、それが本当に気持ちがよく。普通の台詞でも小さな声で話していても、台詞が勝手に頭の中に飛び込んで来るような感じで。もちろん役によっては、わざと不明瞭に話すこともあるので一概に彼だけを褒めるのはアレなのですが、ここまで台詞がはっきりとしかも違和感なく聴こえるのは素晴らしいなぁ、と変なところにとても感心しきりでした。
あと、運転士試験の結果発表で自分の名前を呼ばれ、返事をしてしばらくは真面目な顔をしているのが、すぐに嬉しさを隠しきれない何とも言えない表情になるのがすごくよかったです。にやりとかそんなのじゃなく、嬉しくて仕方ないんだけどその喜びを必死で隠しているようなそんな感じがとてもよく出ている、いい表情でそのあたりはさすがでした。
1時間に1本しかないから、と発車時間に遅れたおばあさんを待ってあげたり、乗客が落とした荷物を拾ったりと実に細やかな気配りをする筒井運転士の姿に、勤務規定上は褒められたものではないけれど、こういう運転士さんが実際にいたら嬉しいし楽しくなってついつい乗っちゃうだろうなーと癒されました。
あとプロ入り目前に怪我のため断念、仕方なく一畑電車に勤務することになった宮田役の三浦貴大もよかったです。素朴な演技ももちろんよかったんだけれど、何がよかったってあの体格です。あれならプロ入りしそうな投手と言われても納得できました。ってそこかいって感じですが。
でも、案外役はプロ選手なのにどうみてもそれは無理があるでしょ、という配役が多い中、久しぶりにらしい人に出会えました。最初のどんぶり飯の盛りっぷりにも笑えました。肇がそれ全部食うのか?と言いたげに何度もちら見してましたが、気持ちはすごくわかります。
最後のほうにちょろっとあったノックシーンも自然でとてもよかったです。で、あの体格と風貌と三浦という名前だったので、てっきりハマの番長の身内かと思って見てしまいました(^^ゞ 三浦友和の息子さんだったんですね。
そんなわけで、大人のおとぎ話だよなぁと突っ込みつつも、優しくてあったかい、いい映画でした。見終わった後、爽やかななんともいえないあったかい気持ちになれる映画です。
「最後まで乗ってけ」ベタだけど、ちょっとくぅぅぅと来てしまいました。
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