ミュンヘン
2006.02.12 Sunday
昨日書こうと思っていた映画の感想など。
S・スピルバーグ監督『ミュンヘン』を見て来ました。
ミュンヘン、原題はMUNICH(ミューニッヒ)。
1972年ミュンヘン五輪で起きたパレスチナ・ゲリラブラックセプテンバーによるイスラエル選手団殺害事件に起因してイスラエル政府及び世界最高の諜報機関・モサドが行ったパレスチナへの報復の様子を克明に描いた、事実に基づく物語です。
実は私はこの時代には生まれていたものの、幼く事件の記憶が全くありません。ミュンヘンで昔オリンピックが行われたことは知っていても、今回の映画の話を知るまで、そんな事件があったことすら恥ずかしながら知りませんでした。
同様に同じ年に開かれた札幌オリンピックも♪街が出来る〜美しい街が〜 というあの美しい「風と虹のバラード」(?)の歌を辛うじて憶えているくらいで、笠谷幸生さんやジャネット・リンの勇姿は後年の懐かしの映像で見た記憶しかありません(残念!)。
そんな私が何故この映画を見に行ったかと言うと、単純にお正月にテレビを見ていた際、何度か見た予告編にピーンと来てこれは行こう!と思ったからなのですが(^^ゞ 予感どおり、結論から言えば当たりでした。
楽しい映画でも感動する映画でもなく、イスラエルvsパレスチナという日本人にはなかなか理解しづらい、とことんシリアスな重いテーマなのですが、事実に基づく事件の経過を順を追って、多少のエピソードを織り交ぜながらも淡々と描いていきながら、この問題が持つ根深さや報復を繰り返すことの虚しさ等色々なことを自然と観客に考えさせてしまう、それでいてどちらがいい、悪いという単純明快な二極分けにはしない、端的に言ってしまえば いい映画だと思います。
何の変哲もない平凡な1ユダヤ人に過ぎなかった5人が、ある日突然政府の命令により”暗殺者”となり、社会から存在を消され、祖国のためという名目の元、リストに挙げられた人物たちを消していく内に沸き起こる変化を克明に表していて、映画の中の登場人物同様、物語が進むにつれ何ともやるせない気持ちになりました。
特にベイルートで偶然鉢合わせしてしまったパレスチナの一団のリーダーらしき人物アリとアブナー(エリック・バナ)が交わす会話の内容は、今も続く両民族の争いの本質を突いていて、とても印象に残りました。
メディアにあの時代を忠実に再現した、とあるとおり映画全体が70年代の空気に満ち溢れていて、電話や仕掛けられる爆弾から人々の服装まで実にリアルで、シリアスな内容なのに何ともノスタルジックな感慨を覚えるくらいでした。でも、今ならもっと高性能で見つけにくい方法がどんどん開発されているのかと思うと、それも哀しく虚しい気持ちになります。
また、選ばれた5人のうち次第に自分の行動に疑問・迷いが生じた途端、消されてしまう運命に、何とも空恐ろしいものを感じました。
更に個人的に主役の5人より何故か妙に印象に残ってしまった、謎の情報屋ルイ。彼は果たして味方だったのか敵だったのか?
未だにぐるぐる考えてしまってます。
奇しくも本日12日付の朝日新聞にたまたま掲載されていた、イスラエルの現首相・シャロン氏の豊かな緑に囲まれた邸宅に住みながら「私には1日として平穏な普通の日というものはない」という言葉が、この映画の内容と重なり、何ともやりきれない思いがしました。
月並みな言葉ですが、生まれた時から当たり前のように平和で、最低限以上の生活を送ることが出来るというのは、なかなか実感しにくいけれども、世界の中から見れば本当にものすごく貴重でありがたいことなんだなと思います。
トリノの開会式でボスニア・ヘルツェゴビナを始めとする自国内での戦いを乗り越えて参加した選手達の「(メダルがどうという)目標よりも五輪に参加できることその事実が嬉しい」という言葉の重さを改めて感じます。
この手の作品が苦手な人は本当に苦手なので、簡単にはお薦め出来ませんが、出来れば多くの方に見てほしいなと思います。
さて、次は久しぶりに元気にゲラゲラ笑えそうな『県庁の☆』でも見に行きたいな♪
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