この世界の片隅に
2016.12.18 Sunday
公開以来、じわじわと全国各地で話題になっている『この世界の片隅に』
昨日からいよいよ金沢でもシネモンドで上映開始になり。
当初2週間の予定が2月初めまでの異例の8週間公開のロングランとなりましたが、1月は今月以上に土曜出勤が多く、今はまだ暖かいけれど年明けの気候がどうなるか不明だし、あまりに寒くなって来ると出かけるの自体が億劫になるので思い立ったが吉日で本日行ってきました。
話題になり始めた頃は、アニメだしふーんという感じで。戦争映画はけっこう見てる方ですが、専らヨーロッパでの戦いが殆ど。日本の戦争映画はやたら力が入った高圧的な物言いが苦手で、子供の頃に親に連れられて見た「ひめゆりの塔」(古手川祐子版)や数年前に見に行った「日本の一番長い日」、クリント・イーストウッドだから正確にはアメリカ映画だけれど「硫黄島からの手紙」くらいしか見たことがなく。「火垂るの墓」すらテレビでやっていても見ないのですが。今回、たまたま夜のニュース番組でこの映画についての特集をやっていて。
そこで監督の思いや、実際に映画製作に協力して長い間誰にも語らなかった自身の戦争体験を伝えた老婦人のインタビューを見て、初めてこれは見たい、見なきゃとなりました。
今、戦争映画と書きましたが、件の番組で片瀬監督は、これは戦争映画ではなく人々の日常を描いた作品です。生活の中にたまたま戦争が入って来た、と言われていてそんな作品は見たことがなかったので、そこも興味をとても惹かれました。
大都市では秋から既に上映が始まっていますが、まだまだ未見の方もいると思うのでここから先は折りたたんでおきますね。
簡単なあらすじは以下のとおり。
18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。
良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。
見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。
夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。隣保班の知多さん、刈谷さん、堂本さんも個性的だ。
配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。
ある時、道に迷い遊郭に迷い込んだすずさんは、遊女のリンと出会う。
またある時は、重巡洋艦「青葉」の水兵となった小学校の同級生・水原哲が現れ、すずさんも夫の周作も複雑な想いを抱える。
1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。公式サイトより
アニメーション映画を見るのはとても久しぶり。多分、Zガンダム以来(苦笑)。なので、最近のアニメがどんなのかも全く知らず。のんさん以外の声優さんはエンドロールで名前を見てもさっぱりでした。
最初はすずさんの子供時代の描写から始まるのですが、柔らかいタッチの絵柄がとても綺麗で。空に流れる雲や風にそよぐタンポポのふわふわとした感じが本物のように伝わって来て、日本のアニメ技術って凄いなぁと。
当時の町の様子や海辺の様子がとても生き生きと描かれていて、よくある再現ドラマよりもっと身近にあの頃の空気が感じられました。
お店の看板や張り紙が今とは反対側から書かれていて、当時はそれが当たり前だけれどなかなか慣れず、なんて書いてあるのか理解するのにちょっと時間がかかりました。
見た方から絶賛されている、のんさん。岸田今日子ばりにものすごいのかと思っていたら、声優さんとしては正直そんなに上手くないです(^^ゞ習作さんや径子さんら脇役の本職の声優さん方の方がやっぱり断然上手いと思います。だけど、すずさんの雰囲気やこの映画には本当にぴったり、と思わずにいられないくらい嵌ってました。ちょっとぼーっとした感じやモノローグで流れる声のトーンがとっても心地よく。多くのかたがすずさんはのんさんしかいない、と言われていた意味がよくわかります。
子ども時代のシーンは本当に楽しそうで、勝手に戦前の時代は暮らしが大変だと思っていましたが、もちろん贅沢をしているわけではないけれど、家族が楽しく時にはお洒落も楽しみながらごく普通に暮らしていたことが伝わってきます。
原爆ドームとして今も残っている、広島県産業奨励館のかつての姿を初めて見ました。こんなに綺麗で明るい建物だったんだーと驚きです。
最初は12月から始まるからか、BGMに♪神のみこは今宵しもベツレヘムに生まれたもう が流れていて丁度今の時期にぴったりなのと、まだ戦争が始まる前の人々が楽しく暮らしている様子にうるっと来てしまいました(^^ゞ
いよいよ戦争が始まり、少しずつ確実にどんどん暮らしが苦しくなってくるのだけれど、そんな中でも笑える場面が沢山描かれていることに笑いながらも驚きでした。戦時中の市井の人々の暮らしは怖い怖い憲兵に怯えながら、笑うことも許されず的な描写しかこれまであまり見たことがなかったのですが、もちろん憲兵は怖い存在だったろうけれど、苦しい暮らしの中でも笑う時があるという当たり前のことを知ってほっとしました。
ちょこちょこと笑えるシーンを差し挟むことで、水兵となった同級生・水原哲のお前はずっと普通でいてくれ、という言葉の重さがじーんときました。
楠正成公が少ないご飯を大量にするために編み出した料理法。どう見ても美味しそうには思えないけれど、お茶碗から溢れんばかりに盛り上がっているご飯もどきに今日はご飯がいっぱいだ、と喜ぶ北条一家にもしかして美味しいのかも、と期待したら……やっぱりどんなにお腹が空いていても不味いものはまずいんだと納得させられるオチに笑いながらも安心したり。
呉の一帯が当時日本一の軍港として、海軍の要所であったことは数年前に浅見光彦シリーズを読みまくった時に知りましたが(どんな本から得た知識でも役に立つことをこの映画を見ながら実感しました)、だからこそ戦況が悪化するにつれ、空襲の激しさも増していき。空から次々と爆弾の雨が降って来る様は今までに見たどの戦争映画より身近さがあり、爆撃で何もなくなった景色を見た時は本当に怖かったです。このダイレクトに伝わる感じはアニメーションならでは、だなと。
すずさんが描く絵が変化していくことにより、すずさんの心情を表す手法も上手いっと感心というよりより心に訴えかけてくるものがありました。
優しい習作さんや姑・舅と対照的にちょっと言動がキツイ、習作の姉・径子がキーパーソン的に描かれていましたが、個人的に径子さんがとても好きです。
料理が苦手だけれどお洒落で裁縫は得意な径子さん、口調がキツめで思ったことをすぐ言っちゃう人だけれど、本当はなかなか優しいところもある不器用さが憎めなくて。晴美ちゃんのことでついすずさんを責めてしまったけれど、ちゃんと謝罪して身体も心もボロボロになっていたすずを彼女らしい言い方で救うくだりがとても良かったです。彼女がいなければ、すずはあの日広島に行き、きっともう二度と戻って来ることは出来なかったわけで。
晴美に続いてすずまでも失ってしまったら、きっと径子さんは壊れてしまったに違いないと思うので、あの時径子は、すずを救っただけでなく自分自身をも守ったんだな、と。
終戦の玉音放送後、大人しいすずが「最後の最後まで戦うって言ってたじゃないか。まだここに5人残ってる、左手も両足もある」と泣き叫んで怒るシーン。
最初は、やっと爆撃の恐怖もなくなり戦争が終わったことを喜ぶのではなく、怒ることに少し驚いたのですが、すずが泣き叫んでいる場所から少し離れた物陰で爆弾で失った娘・晴美を思って泣き崩れる径子を見た時、すずはまだ戦えるのに戦わないのが悔しくて怒っているんじゃなくて。
大切な家族や故郷、大事な右手や絵を描くこと、すべてを奪った戦争というものに対して怒っていたんだな、と気づきました。
この夏「とと姉ちゃん」で終戦の放送を聞いた常子がこれで明日から自由に本が作れる、と喜んでいるシーンを見た時に、その気持ちはわかるけれど戦時中のシーンがどれも何だかあまりにも戦争自体が軽く他人事に描かれているのが気になったのですが、今回のは本当にズシリと来ました。
原作も何も知らずに見たので、終戦で終わるのかと思っていたら、その後も物語は続き、これはどんな風に終わるのだろう、と思いながらラストを見ましたが、希望を感じさせるラストで救われました。
具体的な描写はなかったけれど、恐らく妹はすずが見舞って間もなく原爆症で亡くなったと思われるので、戦争により故郷も血を分けた家族は全て失ってしまったすずが、北条家の人達という新たな家族でこれからも生きていく。
最後のエンドロールで、ちょこちょことその後のすず達の様子を描いてくれたのも上手い演出でした。
戦争がよくないことだということは誰でも知っています。
知っていてもやりたくてやりたくて仕方がない人たちというのも、確実に世界やこの国にも存在しています。
戦争は悲惨だ、惨いものだとそこばかりを強調して描きだから戦争は悪だ、と訴える作品は多いけれど。
そうではなく、戦争中でもごく普通に暮らす人々がいて、そんな人たちの様子を丹念に描き、当たり前の幸せが奪われる悲しさ、それでも人は生きていく様を描く。この作品では、敵を憎む発言や戦争を批難する台詞は全くと言っていいほど出てきません。でも、これまでに見たどの優れた戦争映画よりも、リアルに身近に戦争というものを感じました。
この作品は当初、なかなか資金繰りがつかず制作に時間がかかったそうですが、色んな方の助力により制作出来て本当によかったと思います。
残念ながら大手メディアで大々的に宣伝されることは決してないだろうけれど、それでも確実に全国に上映の輪が広がっていることに、この国もまだ捨てたもんじゃないなと思いました。
こういう作品が普通に映画館で見られる、当たり前の日常が再び奪われることが決してないように。
私も今現在のこの世界の片隅に生きていきます。
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