扉をたたく人
2009.10.06 Tuesday
日曜日にシネモンドで3日から公開が始まった『扉をたたく人』を見てきました。
都会では夏の終わり頃から公開が始まり、新聞や雑誌の映画評を読んで地元に来たら行こう、と待っていたのですが。
根が甘ちゃんなので、本を読んだりドラマや映画を見る時は、最初から大体のあらすじや結末がわかっているものを除き、無意識のうちにハッピーエンドを期待してしまいます。で、この作品も雑誌に載っていた紹介から受けた印象がどちらかというと、ほのぼのとした心に沁みる作品というもので(苦笑)。
そんなとんちんかんな予想は、見事に思いっきりはずれ。でも、とてもいい映画でした。
以下に簡単なあらすじを紹介すると。。
妻に先立たれたウォルター(リチャード・ジェンキンス)は、失意の日々を送りながら大学で哲学を教えている。
ある時、いやいや出席させられた学会出席のため、ニューヨークの別邸に戻ったところ、シリア移民のタレク(ハーズ・スレイマン)とセネガル出身のゼイナブ(ダナイ・グリラ)が住んでいた。
大人しく出て行く彼らを見送ったウォルターだったが、行くあてのない彼らにしばしの間の同居を申し出たことから、3人はしばらく一緒に暮らすことになる。
最初はぎこちなかった彼らの関係は、ウォルターがタレクが叩くジャンベ(アフリカンドラム)に興味を示し、教わるようになったことから次第に打ち解けて行く。
長い人生の間で初めてともいえる興奮・気持の高鳴りを味わうウォルターだったが、タレクが不法移民として逮捕されたことにより、彼らを取り巻く状況ががらりと変わってしまう。
何とかしてタレクを救おうとするウォルター。やがて離れて暮らしていたタレクの母・モーナ(ヒアム・アッバス)も登場し、ゼイナブも含め3人で事態の好転を願うが……。
原題は"The visitor" 直訳すると「訪問者」。1人、時が止まったまま出来るだけ他者との接触を避け生きているウォルターの前に、出会うはずのない1組のカップルが現れたことから、思いもがけない方向に物語が転がって行くことから、このタイトルになったのだと思いますが。これを扉をたたく人と名付けた訳者のセンスが嬉しいです。上手いっと思いました。
頑なだったウォルターがタレク達と暮らし始め、ジャンベを通じて少しずつ彼らの距離が縮まっていく様がとても温かく、ジャンベという楽器そのものの魅力とともにすーっと心に沁みて行くのですが。最高に楽しいシーンの直後に起こる、タレクの逮捕劇。天国から地獄とは、まさにこういうことを言うんだろうな、と思わずにいられない残酷なまでの対比が余計に堪えました。
9.11以降、アラブ系移民に対する過剰ともいえる風あたりをまともに受けることになってしまったタレク。
面会に来たウォルターへ「俺はテロリストか?本当に悪いヤツは金を持っている」タレクが放った悲痛な叫びが耳に残ります。ほんの一瞬、アップになるタレクが収容されている拘置所の壁に貼られたポスターに書かれた”移民の国アメリカ”の文字にやり場のない怒りを感じずにいられません。
登場人物はあらすじに挙げた、ほぼ4人のみで。中盤の逮捕劇以降、物語も淡々と進んでいくのですが。主演のジェンキンスを始めとする役者さん達が見せる表情・仕草にどんどん引き込まれていきました。
どの役者さんも知らない人ばかりなので、最初にウォルターが出てきた時は子供の頃に大好きだった『大草原の小さな家』に出てきたオルソンさんに似てるなぁ、なんて思ってしまったのですが(苦笑)。いかにも不器用な生き方しか出来ない堅物男が、少しずつ自分でも予期しなかったであろう、感情が芽生えていくにつれ見せる表情が素晴らしく。空港でのモーナとのシーンなんてもうたまらなかったです。
タレクは無事釈放され、モーナと再婚したウォルターと仲良く暮らすタレク&ゼイナブ、という出来過ぎたハッピーエンドをつい期待してしまうけれど。現実は決してそんな砂糖菓子みたいに甘いものではなく。
どんなに正しくても、どんなにいい人であっても、理不尽なことというのは起こり、そしてそれは決してアメリカだけが抱える問題ではない、ということに打ちのめされました。
あれほど他人との関わりを避けていたウォルターが、本来なら出会うはずのなかった何の縁もない他人のために、立ち上がり奔走する様に人の優しさ、強さを見る、という希望的・前向きな気持ちもあると思うのですが。目の前に突きつけられた世界の残酷さに、何とも言えないやり切れなさと自分の甘さを見せつけられたようで。見終わった後、しばらくはとてつもない閉塞感に襲われてしまいました。
生きていれば、いつかまた会える。そんな台詞がいかに贅沢で幸せなものであるか。それを思いっきり痛感させられた感じです。
移民の問題はアメリカを始めとする、外の世界の話、と考えてしまいがちですが。でも、これは決して他人事ではなく。
例えば日本でも、外国人の居留者が固まっている地域は言葉の障壁や慣習の違いなども手伝って、「なんとなく怖い」というイメージを持ってしまう人が多いと思います。何もないときはただ、怖いからあまり近寄らないでおこう、と思うだけで済むものが、いざ何かコトが起これば一気に排除の方向に走り出す、というのは過去の歴史を振り返ってみても容易に想像できることです。だから、タレクのような話はアメリカ国内に限ったことでは決してなく。多くの国で起こりうる・起きていることなのでは?と思います。
と、何だか楽しくない感想ばかりになってしまいましたが。
キーにもなっていた”ジャンベ”。初めて見る楽器でしたが、あの音色というか独特のリズムは、ウォルターならずとも魂を揺さぶられるモノがありました。コンガとボンゴの中間くらいの大きさだけど、独特の形と言い音色といいそのどちらとも似てなくて。
劇中、クラシックは4拍子が基本だけれど、アフリカンビートは3だ、それから叩く時に頭は使っちゃいけない、心で感じるんだ、というタレクの台詞になるほど〜でした。
タレク役の人は本職ですか?というくらいにめっちゃくちゃ上手かったし、ラストの地下鉄で無心に演奏するウォルターも凄かったです。
公園でどんどん演奏の輪が広がっていくシーンは、本当に鳥肌モノでした。難しそうだけど、ジャンベ一度叩いてみたいなぁ。
あと、ウォルターの亡き妻というのがピアニストで、彼女が残したCDとして流れる「ワルトシュタイン」の3楽章がとても物語に合っていて印象的でした。
- ご報告 (08/16)
- 星野源見つけた (06/20)
- ポート入れ替え (06/14)
- 再入退院とドセタキセル その3 (05/23)
- 再入退院とドセタキセル その2 (05/13)
- ご報告
⇒ ユウキ (08/22) - 星野源見つけた
⇒ しおん (06/30) - 星野源見つけた
⇒ ひろりん (06/29) - 再入退院とドセタキセル その3
⇒ しおん (05/25) - 再入退院とドセタキセル その3
⇒ さくら (05/24) - 腸閉塞
⇒ しおん (04/07) - 腸閉塞
⇒ ひろりん (04/05) - 腸閉塞
⇒ しおん (04/02) - 腸閉塞
⇒ さくら (04/02) - パラサイト 半地下の家族
⇒ しおん (02/01)
- 横浜移籍!?
⇒ ニュースブログ (07/25) - ぶらり東京紀行その2
⇒ 山野楽器! (06/15) - ぶらり東京紀行その2
⇒ 山野楽器! (06/15) - ぶらり東京紀行その2
⇒ 山野楽器! (06/15) - ギンギラギンにさりげなく
⇒ デボネア日記 (06/02) - 日本一おめでとう!!そしてさよなら
⇒ ノラ猫の老後 (10/27) - COI静岡公演
⇒ Color Pencils (10/16) - 今岡復活!!
⇒ 続「とっつあん通信」 (09/29) - 8連勝!
⇒ 続「とっつあん通信」 (09/29) - 快勝!
⇒ 続「とっつあん通信」 (09/24)
- August 2020 (1)
- June 2020 (2)
- May 2020 (3)
- April 2020 (3)
- February 2020 (3)
- January 2020 (8)
- December 2019 (6)
- November 2019 (6)
- October 2019 (7)
- September 2019 (5)
- August 2019 (10)
- July 2019 (3)
- June 2019 (8)
- May 2019 (7)
- April 2019 (4)
- March 2019 (6)
- February 2019 (5)
- January 2019 (7)
- December 2018 (5)
- November 2018 (7)
- October 2018 (7)
- September 2018 (10)
- August 2018 (9)
- July 2018 (9)
- June 2018 (9)
- May 2018 (16)
- April 2018 (7)
- March 2018 (10)
- February 2018 (8)
- January 2018 (10)
- December 2017 (11)
- November 2017 (9)
- October 2017 (9)
- September 2017 (10)
- August 2017 (10)
- July 2017 (8)
- June 2017 (8)
- May 2017 (10)
- April 2017 (9)
- March 2017 (10)
- February 2017 (8)
- January 2017 (9)
- December 2016 (11)
- November 2016 (9)
- October 2016 (14)
- September 2016 (12)
- August 2016 (11)
- July 2016 (10)
- June 2016 (12)
- May 2016 (10)
- April 2016 (11)
- March 2016 (11)
- February 2016 (10)
- January 2016 (8)
- December 2015 (13)
- November 2015 (11)
- October 2015 (13)
- September 2015 (16)
- August 2015 (11)
- July 2015 (11)
- June 2015 (12)
- May 2015 (9)
- April 2015 (9)
- March 2015 (10)
- February 2015 (9)
- January 2015 (8)
- December 2014 (10)
- November 2014 (9)
- October 2014 (12)
- September 2014 (9)
- August 2014 (15)
- July 2014 (17)
- June 2014 (19)
- May 2014 (22)
- April 2014 (20)
- March 2014 (16)
- February 2014 (17)
- January 2014 (15)
- December 2013 (10)
- November 2013 (9)
- October 2013 (8)
- September 2013 (15)
- August 2013 (12)
- July 2013 (11)
- June 2013 (12)
- May 2013 (5)
- April 2013 (15)
- March 2013 (14)
- February 2013 (12)
- January 2013 (10)
- December 2012 (13)
- November 2012 (12)
- October 2012 (9)
- September 2012 (12)
- August 2012 (11)
- July 2012 (12)
- June 2012 (12)
- May 2012 (13)
- April 2012 (13)
- March 2012 (10)
- February 2012 (15)
- January 2012 (9)
- December 2011 (12)
- November 2011 (11)
- October 2011 (13)
- September 2011 (10)
- August 2011 (9)
- July 2011 (11)
- June 2011 (28)
- May 2011 (10)
- April 2011 (10)
- March 2011 (11)
- February 2011 (9)
- January 2011 (8)
- December 2010 (11)
- November 2010 (10)
- October 2010 (18)
- September 2010 (13)
- August 2010 (8)
- July 2010 (13)
- June 2010 (12)
- May 2010 (11)
- April 2010 (11)
- March 2010 (12)
- February 2010 (17)
- January 2010 (11)
- December 2009 (15)
- November 2009 (14)
- October 2009 (16)
- September 2009 (13)
- August 2009 (10)
- July 2009 (18)
- June 2009 (15)
- May 2009 (16)
- April 2009 (16)
- March 2009 (15)
- February 2009 (15)
- January 2009 (14)
- December 2008 (16)
- November 2008 (9)
- October 2008 (15)
- September 2008 (13)
- August 2008 (11)
- July 2008 (13)
- June 2008 (18)
- May 2008 (11)
- April 2008 (14)
- March 2008 (17)
- February 2008 (12)
- January 2008 (12)
- December 2007 (20)
- November 2007 (10)
- October 2007 (14)
- September 2007 (15)
- August 2007 (13)
- July 2007 (20)
- June 2007 (15)
- May 2007 (17)
- April 2007 (18)
- March 2007 (19)
- February 2007 (18)
- January 2007 (16)
- December 2006 (16)
- November 2006 (22)
- October 2006 (23)
- September 2006 (21)
- August 2006 (25)
- July 2006 (22)
- June 2006 (25)
- May 2006 (23)
- April 2006 (20)
- March 2006 (22)
- February 2006 (19)
- January 2006 (15)
- December 2005 (15)
- November 2005 (14)
- October 2005 (18)
- September 2005 (11)
- August 2005 (10)
- July 2005 (10)
- June 2005 (11)
- May 2005 (13)
- April 2005 (9)
- March 2005 (2)
- January 2005 (2)
- December 2004 (2)
- November 2004 (2)
- October 2004 (1)
- September 2004 (1)
- August 2004 (3)
- July 2004 (1)
- June 2004 (1)
- May 2004 (2)
Post a comment