善き人のためのソナタ
2008.10.21 Tuesday
週末に録画しておいた映画を2日がかりで見ました『善き人のためのソナタ』
ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツを舞台に、強固な共産主義体制の中枢を担っていたシュタージの実態を暴き、彼らに翻ろうされた芸術家たちの苦悩を浮き彫りにした話題作。監督フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが歴史学者や目撃者への取材を経て作品を完成。アカデミー賞外国語映画賞ドイツ代表作品としても注目を集めている。恐るべき真実を見つめた歴史ドラマとして、珠玉のヒューマンストーリーとして楽しめる。(シネマトゥデイ)
1日目は時間がなくほんの冒頭部分だけを見て、2日目も適当なところで区切ってと思っていたはずが途中からやめられなくなり、寝不足覚悟で一気に最後まで見てしまいました。
簡単なあらすじは。
シュタージ(国家保安省)の敏腕局員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は、劇作家のドライマン(セバスチャン・コッホ)と恋人で舞台女優のクリスタ(マルティナ・ゲデック)の監視を命じられる。彼の家に盗聴器を仕掛け、日夜監視するうち彼の心に変化が現れる。自身の破滅を知りながらもいつしか国家を裏切る行動へと移っていくヴィースラーの葛藤を時代の流れとともに描く。
端的に言って、非常にいい映画でした。ここ数年見た中ではピカイチなくらい、見終わった後もとても心に残る作品でした。
具体的にどこがいいのか、というのを挙げるのが野暮と言うか、うまく言えないのがもどかしく。
ストーリーとしては、ごく淡々と進んでいくのですが、静かな展開なのに引き込まれずにはいられない強さがあり、特にヴィースラー役の俳優さんの寡黙な演技が素晴らしかったです。
最初はどう見ても冷静沈着、冷徹さそのものといった優秀なシュタージ局員だったヴィースラーがある出来事をきっかけに明らかに変わっていくのが爽快というより、じわじわと彼の思いが心の中に沁み込んでいくようにどんどん彼に感情移入していってしまいました。
主役のミューエは感情を表す台詞が極端に少ない分、微妙な心の変化はすべて表情で演じきるのですが、そのどれもが素晴らしく。
ラストシーンの秀逸さは言うまでもないのですが、それと同じくらい唸ったのが壁が崩れた瞬間のヴィースラーの顔。退役までの長い長い年月をひたすら封筒の開封作業で過ごしている彼が同僚から「壁が崩れた」とこっそり聞いていたラジオのイヤホンを渡され、耳にあてがうシーン。
壁が崩れたあの歓喜の瞬間の映像は当時も、その後も何度も何度もテレビで見ましたが、積極的に壁崩壊に立ち上がった民衆と違い感情をはぎとられてしまったヴィースラーのような人間が浮かべる表情が、たまらなく痛ましく心の底に突き刺さります。
だからこそ、ラストシーンが生きてくるとも言えます。タイトルにもなっているドライマンが崩壊後初めて書いた新作。それを書店で見かけたヴィースラーが思わず手に取り、順番にページをめくっていき、遂に彼とドライマンを結ぶあの言葉を目にした瞬間に彼が見せた表情。じわっと目頭が熱くなるのを抑えることが出来ませんでした。
ここまでの全てのシーンはこのためにあった。そう言っても過言ではない素晴らしいラストでした。
あと、壁崩壊後のベルリンでドライマンがヴィースラーを追いながらも、結局は声をかけないシーンもよかったです。ドラマとしては劇的な対面の方が盛り上がるのは間違いないけれど、それまでの過程を考えるとやはり遭わない方が自然だし、遭わないことが本当の優しさ・思いやりなのではないかなと思います。
それにしても
「反体制派の人間を40時間以上不眠不休で尋問を続ければ、やましいことがない人間は怒り出し、嘘をついている人間は必ず泣き出し、やがて白状する」
という台詞に見るシュタージの非道さには、思わず背筋が寒くなりました。
西側の世界しか知らない人間からすれば感じずにはいられない疑問。
旧ソビエトや東ドイツに代表されるような密告と監視で成り立っている恐怖国家で人々は何故、何十年も耐え忍んで来たのか?
ということの答えをクリスタの行動を通して知った時、言いようのない哀しみに襲われました。
また、主演のミューエは自身、旧東ドイツ時代、女優であった彼の妻からシュタージされていたそうです。その驚愕の事実に驚くとともに、そんな彼が演じたからこそより深みが増したのかな、という気がします。
何となく知っているようで実はよく知らなかった東ドイツの実情をまざまざと見せ付けられた、それだけでも見る価値があると思います。
(絶対ありえないと思っていた)そんなことが現実に起こるんだ、ということを生まれて初めて見せてくれたベルリンの壁の崩壊。
その崩壊の裏側で起こっていたであろう出来事を映画という形で、最高の作品にして見せてくれたことに感謝です。
- ご報告 (08/16)
- 星野源見つけた (06/20)
- ポート入れ替え (06/14)
- 再入退院とドセタキセル その3 (05/23)
- 再入退院とドセタキセル その2 (05/13)
- ご報告
⇒ ユウキ (08/22) - 星野源見つけた
⇒ しおん (06/30) - 星野源見つけた
⇒ ひろりん (06/29) - 再入退院とドセタキセル その3
⇒ しおん (05/25) - 再入退院とドセタキセル その3
⇒ さくら (05/24) - 腸閉塞
⇒ しおん (04/07) - 腸閉塞
⇒ ひろりん (04/05) - 腸閉塞
⇒ しおん (04/02) - 腸閉塞
⇒ さくら (04/02) - パラサイト 半地下の家族
⇒ しおん (02/01)
- 横浜移籍!?
⇒ ニュースブログ (07/25) - ぶらり東京紀行その2
⇒ 山野楽器! (06/15) - ぶらり東京紀行その2
⇒ 山野楽器! (06/15) - ぶらり東京紀行その2
⇒ 山野楽器! (06/15) - ギンギラギンにさりげなく
⇒ デボネア日記 (06/02) - 日本一おめでとう!!そしてさよなら
⇒ ノラ猫の老後 (10/27) - COI静岡公演
⇒ Color Pencils (10/16) - 今岡復活!!
⇒ 続「とっつあん通信」 (09/29) - 8連勝!
⇒ 続「とっつあん通信」 (09/29) - 快勝!
⇒ 続「とっつあん通信」 (09/24)
- August 2020 (1)
- June 2020 (2)
- May 2020 (3)
- April 2020 (3)
- February 2020 (3)
- January 2020 (8)
- December 2019 (6)
- November 2019 (6)
- October 2019 (7)
- September 2019 (5)
- August 2019 (10)
- July 2019 (3)
- June 2019 (8)
- May 2019 (7)
- April 2019 (4)
- March 2019 (6)
- February 2019 (5)
- January 2019 (7)
- December 2018 (5)
- November 2018 (7)
- October 2018 (7)
- September 2018 (10)
- August 2018 (9)
- July 2018 (9)
- June 2018 (9)
- May 2018 (16)
- April 2018 (7)
- March 2018 (10)
- February 2018 (8)
- January 2018 (10)
- December 2017 (11)
- November 2017 (9)
- October 2017 (9)
- September 2017 (10)
- August 2017 (10)
- July 2017 (8)
- June 2017 (8)
- May 2017 (10)
- April 2017 (9)
- March 2017 (10)
- February 2017 (8)
- January 2017 (9)
- December 2016 (11)
- November 2016 (9)
- October 2016 (14)
- September 2016 (12)
- August 2016 (11)
- July 2016 (10)
- June 2016 (12)
- May 2016 (10)
- April 2016 (11)
- March 2016 (11)
- February 2016 (10)
- January 2016 (8)
- December 2015 (13)
- November 2015 (11)
- October 2015 (13)
- September 2015 (16)
- August 2015 (11)
- July 2015 (11)
- June 2015 (12)
- May 2015 (9)
- April 2015 (9)
- March 2015 (10)
- February 2015 (9)
- January 2015 (8)
- December 2014 (10)
- November 2014 (9)
- October 2014 (12)
- September 2014 (9)
- August 2014 (15)
- July 2014 (17)
- June 2014 (19)
- May 2014 (22)
- April 2014 (20)
- March 2014 (16)
- February 2014 (17)
- January 2014 (15)
- December 2013 (10)
- November 2013 (9)
- October 2013 (8)
- September 2013 (15)
- August 2013 (12)
- July 2013 (11)
- June 2013 (12)
- May 2013 (5)
- April 2013 (15)
- March 2013 (14)
- February 2013 (12)
- January 2013 (10)
- December 2012 (13)
- November 2012 (12)
- October 2012 (9)
- September 2012 (12)
- August 2012 (11)
- July 2012 (12)
- June 2012 (12)
- May 2012 (13)
- April 2012 (13)
- March 2012 (10)
- February 2012 (15)
- January 2012 (9)
- December 2011 (12)
- November 2011 (11)
- October 2011 (13)
- September 2011 (10)
- August 2011 (9)
- July 2011 (11)
- June 2011 (28)
- May 2011 (10)
- April 2011 (10)
- March 2011 (11)
- February 2011 (9)
- January 2011 (8)
- December 2010 (11)
- November 2010 (10)
- October 2010 (18)
- September 2010 (13)
- August 2010 (8)
- July 2010 (13)
- June 2010 (12)
- May 2010 (11)
- April 2010 (11)
- March 2010 (12)
- February 2010 (17)
- January 2010 (11)
- December 2009 (15)
- November 2009 (14)
- October 2009 (16)
- September 2009 (13)
- August 2009 (10)
- July 2009 (18)
- June 2009 (15)
- May 2009 (16)
- April 2009 (16)
- March 2009 (15)
- February 2009 (15)
- January 2009 (14)
- December 2008 (16)
- November 2008 (9)
- October 2008 (15)
- September 2008 (13)
- August 2008 (11)
- July 2008 (13)
- June 2008 (18)
- May 2008 (11)
- April 2008 (14)
- March 2008 (17)
- February 2008 (12)
- January 2008 (12)
- December 2007 (20)
- November 2007 (10)
- October 2007 (14)
- September 2007 (15)
- August 2007 (13)
- July 2007 (20)
- June 2007 (15)
- May 2007 (17)
- April 2007 (18)
- March 2007 (19)
- February 2007 (18)
- January 2007 (16)
- December 2006 (16)
- November 2006 (22)
- October 2006 (23)
- September 2006 (21)
- August 2006 (25)
- July 2006 (22)
- June 2006 (25)
- May 2006 (23)
- April 2006 (20)
- March 2006 (22)
- February 2006 (19)
- January 2006 (15)
- December 2005 (15)
- November 2005 (14)
- October 2005 (18)
- September 2005 (11)
- August 2005 (10)
- July 2005 (10)
- June 2005 (11)
- May 2005 (13)
- April 2005 (9)
- March 2005 (2)
- January 2005 (2)
- December 2004 (2)
- November 2004 (2)
- October 2004 (1)
- September 2004 (1)
- August 2004 (3)
- July 2004 (1)
- June 2004 (1)
- May 2004 (2)
Post a comment