葬送
2019.01.18 Friday
年始のお休みより以前から読みたいと思っていた平野啓一郎の『葬送』を読み始め10日近くかかって読み終えました。
私は昔から本を読むのが早く大抵の本は1日もしくは2日で読み終えるのですが、平野氏の作品はそんな自称速読な私でも何故かいつも時間がかかります。
高村薫作品と同じくらいの読むのに力がいる作家です。
比較的読みやすい『空白を満たしなさい』でも3日くらいかかりました。
それはともかく。『葬送』は19世紀半ばのパリを舞台にショパンの晩年と彼を取り巻く社交界を描いた小説です。
単行本で上下2冊、文庫本だと1部2部ともに上下構成の計4巻からなる大作です。1ページにこれでもか、というくらいぎっしり文字が詰まっているため、今日はこの章までと区切るろうとしてもかなりの量になり、なかなか難しかったです。
ショパンは言わずと知れた19世紀に活躍したポーランドを代表する作曲家でありピアニスト。ピアノを齧ったことがある人ならば、弾いたことはなくてもワルツやノクターン等耳にしたことがある曲が必ずあるはず。
モーツァルトやベートーヴェンについては、子供の頃から伝記を読んだり、もう少し成長してからはロマン・ロランの小説や映画等でその人となりを大まかに知っていますが、ショパンについては若死にしたこととポーランド人であること、恋人の名前がジョルジュ・サンド、くらいの知識しかなく(汗)。
この小説でそうだったのか、と思うところが沢山ありました。
ショパンが題材ですが、彼だけでなく親友のシャルル・ドラクロワと2人が主人公のように半々で描かれています。
単なる伝記モノではなく、実在の人物たちが本当に話し、動き回り、音楽を奏で、絵を描いているかのように錯覚してしまうくらい綿密に作り込まれていて、本物のショパンやドラクロワと対峙している気持ちになりました。
モーツァルトは兎も角、クラシックの大家達はベートーヴェンを筆頭に暮らしが困窮しているイメージがありましたが、ショパンの暮らしぶりはブルジョワジーに近く、それなりに贅沢だったのが意外というか驚きでした。
ショパンとリスト、どちらも黒鍵と装飾音をやたら好む作曲家、と同じくくりで勝手に捉えていましたが、ショパンからすると相いれない音楽性なのが意外なようで、人となりを理解してみると納得でした。2人ともピアノの名手ですが、リストはショパンの楽曲はおろかモーツァルトですら、勝手に余計な装飾音を入れて弾く、という表現が可笑しかったです。
あとリストはとにかくバカでかい音で弾く、というのもあの指が20本くらいないと弾けそうにない楽曲を考えても、さもありなんです。
本書を読んで思ったのは、ベルリオーズはこきおろされ、ベートーヴェンも「田園」以外はあまりお好きでなさそうなのだから、ショパンがマーラーを聴いたならば、どんな反応をするのか見てみたかったです。
ジョルジュ・サンドとの関係は、本人は恋人と思っているかもしれないけれど、一読者から見ると恋人というよりは愛人もしくはパトロンに近い印象です。ドラクロワの愛人であるフォルジュ夫人も同様です。
ただし、人としてのジョルジュ・サンド親子はとても苦手な部類なため、しばらくはショパンは一体この女のどこに惹かれたんだろう? と不思議かついらいらする部分もありました。
ドラクロワが下院図書館の天井画を完成させていくくだりと、パリのサロンで開かれたショパンのほぼ最後の演奏会のくだりは圧巻でした。
読み進めていくうちにドラクロワの人柄にすっかり惹きこまれてしまい、ルーヴルに作品を見に行きたくなりました。
ドラクロワはヴァカンスに出掛け、親友であるショパンの死に目には会えないというか自らそれを避けた節があり、彼自身が自問するくだりがとても好きです。
ショパンの演奏会、小説家は音楽をこんな風に表現するのか、と感嘆しきりでした。この本を読んだ多くの読者同様、読むのを中断して演奏会のプログラム通りに曲を聴いてみました。プログラムは作者がこうではないか、こうだったらいいなと想像して選曲したそうですが、これが絶妙な曲順で本当にこんな風に演奏されたら私も聴きたいっと切に思います。
煌びやかで派手なイメージがあり、巷で演奏されるものを耳にするときもけっこうな音量でバーンと弾いていることが多いですが、ショパン本人はもっと繊細で柔らかなそれこそ囁くような音量で弾いている、ということを知り、老齢の大家がアンコールで弾く小品がまさにそんな感じで。作曲者の意図を最大限に解釈しての演奏なんだな、と遅まきながら納得でした。
あとマズルカ、日本人には難しい独特なリズムはフランス人でも微妙なニュアンスが異なり完璧に弾きこなせるのはポーランド人のみなのかーと。
ロシア、フランス、ポーランドのピアニストで聴き比べてみたいと思います。
馴染みのある音楽家がちょこちょこ出てきて、ショパンとの関係性がそうだったのかという部分が多々あり、この人とこの人は同時代、彼はこの時代と一気に音楽家の時系列が繋がったのが楽しかったです。
ショパンによるベルリオーズ評には笑いました。本書を書くにあたり、作者はフランス語を勉強し直し膨大な数の書簡や書物を調べたそうなので、小説ではあるけれどショパンの芸術家仲間に対する評価は概ね小説での台詞通りなのかな、と思います。
ドラクロワが自身の天才さ故に友人の美術家と、心の奥底ではすれ違ってしまうのがやるせないです。しかし、彼に限らずその道の天才と言われる人々は、多かれ少なかれ自身が抱える孤独と戦っているのだろうな、と思います。
冒頭いきなりショパンの葬儀のシーンから始まり、色んな人物が入り乱れて登場するため、少々わかりにくいのですが、全ての人物を把握した今、再び冒頭から読み返すと新たな発見があると思うので、少しずつ再読していこうかな。
寒いので暫くピアノに触れていませんが、もう少し暖かくなったら、これまでとは違った思いでショパンを弾いてみたいと思います。
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