何者
2016.11.08 Tuesday
映画と言えば、巷では「君の名は」が話題ですが。
先月「何者」を見てきました。
私がこの映画を見に行った理由はただひとつ。原作小説がとても好きだから。
どう見ても対象読者年齢からは大きく外れているけれど、朝井リョウの小説がかなり好き、ということにここ数年で気づきました。
そんなに沢山の著書を読んではいないけれど、持っている小説はどれも何度も何度も読み返すくらいには、あの独特な世界観や文体が好きです。
というわけで、最初に映画化の話を聞いた時から公開されたら見に行こうと思っていました。
果たして、発表されたキャストの半分はちゃんと顔と名前が一致しているけれど、残りの半分は名前を聞いたことがあるけれど顔は知らない、約1名に至ってはこれなんて人なの?読み方がわかりません(苦笑)という、全くもって、それ年齢対象外ですよ? という感じでしたが行ってきました。
小説が出版された際や直木賞を取った時にそれなりに話題になったので、どんな話か知っている人も多いかもしれませんが。
簡単なあらすじは
主人公である大学生・二宮拓人と彼の同居人である神谷光太郎を中心に同じ大学に通う5人がひょんなことから知り合い、就職活動を共同で頑張るうちに見えてくるそれぞれの姿や人間関係を描いた、イマドキの学生群像です。
なんだか身も蓋もないまとめですが、現代の就活(就職活動のことを今時はこう略すらしい 笑)ってこんな感じなのかというのが色々わかって、あと生まれた時からパソコン等の通信機器に慣れ親しんだ世代ならではの、SNSの使い方などがかなりリアルに描かれていて、なかなか興味深い内容でした。
映画は、小説から核となる部分を抜き出してうまくまとめた印象です。
小説の映像化は、余計な解釈やストーリーの改変などがあったりして、先に原作を知っていたりすると、不満に思う部分があることが多いですが。
これに関しては、驚くほど原作に忠実に作ってあることに感心しました。
最初にキャストを知ったとき、山田孝之の名前を見て大学生にはさすがに無理があるけど誰をやるんだろう→サワ先輩だと知り、うーんちょっとイメージ違うかも、と思っていたのですが。
いやぁ素晴らしかったです。ちょっとした仕草や台詞等、小説に出てくるサワ先輩まんまというか、2割増しにカッコよくしたらこんな感じ、というくらいに嵌っていました。
主人公を演じた佐藤健もよかったですが、個人的にはクセのあるキャラクター・隆良を演じた岡田将生も良かったです。岡田くんは、掟上今日子で見ていたおとぼけキャラの印象が強く、アクの強い隆良をどう演じるのかな? と思っていましたが、物事を常に斜に構えて上から見ている彼の特徴が良く出ていて、しかも妙に品が良いところまでぴったりでした。
映画の終盤で隆良が改心して拓人に就活のアドバイスを請うシーンは、原作にはない部分ですが、エンディング同様、希望を感じさせる意味で良い変更でした。
面接やグループディスカッションのシーン、実際の現場を見ているようで、特に
原作におけるもう1人のキーパーソン、小早川里香の出しゃばり具合が、うわっこれは絶対にやっちゃいけないだろう、というのが見事に再現されていてよかったです。
物語では、明るく親しみやすく自分をしっかり持っている光太郎と真面目で可愛い瑞月が早々に就職を決め、何度試験を受けても落ちまくる拓人と里香。
そんな就活落第な二人が偶然を装った故意による事故をきっかけに、お互い絶対に他人には見せたくない負の部分を露呈させ里香が択人に痛烈な一打を浴びせる部分が一番の見どころで。
ここで拓人のみならず、読者にも強烈な一撃が襲って来るのが醍醐味のひとつです。
初めて読んだときは、私自身もそうきましたか、と軽い衝撃を受けたのですが。
ここで里香は「私はアンタと一緒じゃない」と拓人をこれでもか、となじるくだりでどうしても、拓人も痛いけれど、自分が採用者の立場だとしたら、拓人を採用することはあっても里香さんを採ることは100%ないなぁと。
多分、拓人みたいなタイプはちょっと面倒なところもあるけれど、コツコツと真面目に働く様子がちゃんと見えてくるので大丈夫です。
周囲を観察して分析する、そういう人はどこの職場にも1人2人います。いることで周囲に迷惑がかかるわけではありません。
だけれども、里香タイプはトラブルメーカー以外の何物でもなく。企業に就職しないでくださいとお願いしたいくらい(苦笑)。
この手の 作者の言葉を借りるなら学級委員がそのまま大学生になった女子、は他の作品にも登場し、決して幸せには描かれていないので、作者は何かこの手の人に恨みでもあるのか、と思うほど。
小説でも拓人に関しては、痛すぎる自分を自覚し変わっていく兆しを見せて、彼のこれからに希望を持たせてあるけれど、里香さんはバッサリやられたまま放置ですもん。映画ではなじった後、泣き崩れるシーンが追加されていたけれど。何者にもなれないし、変わらなきゃいけないのは寧ろあなたでしょ、と思ってしまったくらい、私も作者と同じくらい里香さんには冷たい感情しかもてませんでした(苦笑)。
この、鼻もちならないという表現がぴったりくるくらいの、困った女の子っぷりを演じた二階堂ふみには拍手を送りたいです。
光太郎の俺ってただ就活が得意なだけ、はとても真理を突いた言葉で原作を読んだ時もはっとさせられました。でも、光太郎みたいな人は、その後の会社人生も何だかんだと上手くいくというのもまた真理だったりします。
そんなにうまく行かなくても大丈夫だよ、と言えるのは自分が年を重ねたからであって、学生真っ只中では就職が全てと思ってしまうのも仕方がなく。
光太郎の就職祝いからタクシーの中でのやりとり、はクライマックス以上に好きなシーンです。
と、映画の感想なのか本の感想なのかわからない内容になりましたが。
原作を知らない観客には、あんまり優しくない内容で説明台詞もない、イマドキらしくなく。笑ったり泣いたりもないけれど。
どの役者さんもいい演技で、音楽と内容のバランスも絶妙ないい映画です。
しかし、作品の内容とは関係なく。イマドキの大学生って大変だなぁというのが率直な一番の感想です。
自分たちが就職活動していた頃って、友人の就職が決まればおめでとう! だけでそこがイチイチどうだとか、それに対するやっかみとかそういうことを考えもしなかったお気楽な昭和の大学生には殆ど理解しがたいのが本音です。
メールアドレスからツイッターの裏アカウントに至っては、何それ? そんな面倒くさいこと何の為にするの? でしたし(苦笑)。
一番昭和世代の感覚に近いと思われる、瑞月さんの存在がありがたかったです。
更に言えば、この小説や今現在、就職の採否を決定するような方々は恐らくバブル世代あたりが主流だと思われますが。自分たちは今ほど過酷な就職活動を体験していないにも関わらず、今の学生には無理難題としか思えない無意味なふるい落としを課すな! とちょっぴり怒りも感じたのでした。
そういえば、以前、小説の感想で 結局大企業を狙うような学生たちしか描いてなくて何の参考にもならないじゃないかー というお怒りの感想を見かけて和んでしまったのですが。
そういう方には有川浩の「フリーター、家を買う」をお薦めしたいです。
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