バンクーバーの朝日
2014.12.31 Wednesday
公開直後の月曜日、たまたま会社カレンダーでお休みだったので丁度見たいと思っていた『バンクーバーの朝日』を見て来ました。
公開前から随分話題になっていたようですが、当初は全く見るつもりがなかったところ、たまたま見た予告編と新聞紙面に当時朝日軍でプレーしていた方のインタビューが掲載されたのを読み、これは野球好きなら見ねば、と思い立ち行ってきました。
平日の午前中プラス作品の内容からか、館内は何故か年配の男性が殆ど、唯一妻夫木くんもしくは亀梨くん目当てかな? と思われる女性2人組がいたのみのやたら年齢層&男性率が高い観客層でした。
簡単なストーリーは
1900年代初頭、多くの日本人が新天地を夢見て、カナダへと海を渡った。
しかし、そこで彼らを待ち受けていたのは差別、過酷な肉体労働、貧困といった厳しい現実だった。
そんな中、日本人街に一つの野球チームが生まれる。
チームの名は“バンクーバー朝日”。夢も希望も持てなかった時代。
やがてチームは、人々にとって一条の光となっていく。
彼らは何を信じ、何を求め走り続けたのか。
歴史の波間に埋もれていた”真実の物語”が今、ここに甦る。 公式HPより
公式より引用しましたが、上に書いてあるまんまな物語です。
バンクーバー朝日の物語ではあるけれど、決して彼らがカナダチームに勝利することを主眼に置いた、いわるゆ青春群像的なストーリーではありません。
主人公レジー(妻夫木聡)を中心に当時を生きた人々の姿を淡々と描いています。
出演者に関しては主演が妻夫木、亀梨和也が出ている、ということくらいしか知らず、最初にバーンとフジテレビ製作と出た時に、え、フジ製作なの? と嫌な予感がしたのですが、妻夫木くんが出る作品ならきっと大丈夫だろう、という思いで見始めたところ……やはり当たりでした。
全体的に説明的な要素が殆どなく、最初のうちは登場人物の名前もレジーとロイ(亀梨和也)くらいしか分からず、レジーとともに製材所で働く3人組の1人
ちなみに、勝地涼や池松壮亮、キャッチャーの上地雄輔、監督の鶴見辰吾らは全員わかるのに実は亀梨和也の顔を知らないので(苦笑)、ずーーーっとどれが亀梨なんだろう? と思って見続け途中でようやく、もしかしてこのいつもむすーっとして態度の悪いロイを演じているのが亀梨なのか、と思い至りました。
そのロイを演じた亀梨くん、相当な野球好きで有名なだけあって、フォームが非常に様になっていました。本格派らしい投球フォームに感心。
あと主要人物の中では唯一の野球経験者の上地さんをキャッチャーにしたのは、なるほどなぁと納得でした。
レジーの父親は、カナダへ行って2〜3年働けば一生遊んで暮らせるだけのお金が稼げる、という当時の政府が掲げたウソにまんまと騙され広島から一家でカナダへ移住するのですが、待っていたのは他の日本人移住者同様過酷な現実。
言葉の壁や男としてのプライド等、色々なものが障壁となり、いつまでたっても現地の人々に馴染めない親世代とは裏腹に、彼らの子供達は言葉も日常生活には何ら支障がないくらいに操り、決して良好とはいかないまでも現地に暮らすカナダの人々と共存していく道を探そうとします。
レジーの妹エミー(高畑充希)は、非常に成績優秀で親日家の会社経営者の家で老婆の世話を通じ、彼らとの交流を深める中で、大人達が敵対視するカナダ人との共存の必要性を深く思うようになっていきます。
朝日軍の活躍をメインに据えつつも、異国でもがき暮らす中での世代間ギャップのようなものもさらっとしっかり描かれていて、共感したりあれこれ考えさせられました。
当初は明らかに体格で劣る朝日軍がカナダチームにまともに力でぶつかってあっさりやられていたのが、レジーのある作戦をきっかけに快進撃へと変わって行く様はそうなるとわかっていても、わくわくさせられます。
ひたすら足とバントを多用したプレーは、まんま「ドカベン」で信濃川高校がとった”と金作戦”を思い出して痛快でした。
大男相手に小人たちがちょこまかと走り回る様子も楽しいのですが、各チームについたボールボーイの変遷も微笑ましかったです。当初はカナダの男の子が、ボール交換の度にへへん、どんなもんだいと得意そうにして日本の男の子がしょんぼりしていたのが、朝日の快進撃が始まってから逆転するのがとっても可愛くて。子供同士だから余計容赦がなく、あれは隠れた名シーンでした。
稼いだお金を全部、日本の親戚に送ってしまい、一家の暮らしはレジーが支える困った父ちゃんの象徴のような清二(佐藤浩一)だけど、本当はすごい意地っ張りだけれど家族への愛情はひと一倍持っていることが描かれるシーンもよかったです。
個人的にカタコトと言うにもお粗末すぎる英語とパントマイムを駆使して、ようやくレジーへグローブを買って渡すくだりがとても好きです。
太平洋戦争が始まり、日本人は敵性外国人だからと出稼ぎに使用していたトラックを帰路途中で突然奪われ、すわ暴動かと思いきや労働者達が歩いて家族の元へ帰るシーンもじんときました。
大杉漣、宮崎あおい、本上まなみ、徳井優、田口トモロヲ、石田えりら豪華キャストがちょこちょこっと出てきて、それぞれがいい味を出していましたが、エミー役の子が本当によかったです。初めて見る役者さんでしたが、可愛くて歌声がとっても綺麗でびっくりでした。
来季「野球場へ連れていって」を球場で聞く時、これまでとはまた違った思いで聴くことになりそうです。
キャストの豪華さや前宣伝の大きさに期待して、さぁ感動の野球ドラマを見に行くぞ! と思って映画館に足を運ぶと恐らくがっかりすることでしょう。
期待はずれ、つまらないといった感想も多く見られます。
実際、前半は少し退屈さを感じる面もあるし、朝日が勝利した以降は歴史の流れを淡々と見せる描写が続きます。
でも、恐らくこの映画は感動とかそういうことを売りにしたものではなく。あの時代に実際にあったことを通して、時代の空気やそこで生きた人々の思い、それを感じること、にあるのでは? と思います。
もっと焦点を絞ったわかりやすい作品にすることも出来たはずなのに、敢えてそれをしなかったことに逆に潔さすら感じました。
地味だけれどいい映画だったな、久しぶりにそんなことを思いながら劇場を後にした1本でした。
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