12人の怒れる男
2009.01.03 Saturday
毎日お休みっていいなー(笑)としみじみ噛みしめつつ、休日もあと残り2日。今日はシネモンドで『12人の怒れる男』を見てきました。
お正月なので軽くハートフル・コメディの『僕らの未来へ逆回転』もいいかなと思ったのですが、時間が合わなかったのと予告編を見た限りでは涙腺がやばいことになりそうだったので当初の予定どおり12人の〜を見ました。
シドニー・ルメットの名作『十二人の怒れる男』を、巨匠ニキータ・ミハルコフが舞台を現代のロシアに置き換えてリメイクした社会派ドラマ。ヴェネチア国際映画祭で特別獅子賞を受賞したほか、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされている。継父殺しの殺人容疑がかかったチェチェン人少年の裁判をめぐり、12人の陪審員がさまざまな思惑を交錯させながら審議を展開。現代ロシアの抱える社会問題を浮き彫りにした、骨太な味わいのある作品となっている。(シネマトゥデイ)
引用文にもあるとおり、この作品は50年以上前のアメリカ映画のリメイク。けっこう有名な作品らしく、年末に会った友人たちも殆どが知っていて内容の差異などを聞かれたのですが、あいにく元の名作も未見、詳しいストーリーも知らず単純にロシア映画、陪審員制度について考えさせられる内容らしいということで見始めましたが、かえってそれがよかったです。
見終わった率直な感想はロシアって本当に大変なんだな、と。
文字通り12人の様々な職業・環境にいるロシアの男たちが審理をする過程において、相手を納得させるために語る自身にまつわる話から見えてくる21世紀のロシアが抱える様々な問題・現実。
なんとなくロシアは大変、ということを聞いていても具体的な話を交えて語られるそれは想像をはるかに超えていました。
最初は誰がどう見ても有罪確定と思われた裁判。たまたま当案件を担当することになった12人の陪審員は、審理を決することよりも自己都合を優先しとにかく早くすませて帰りたい、こんなの楽勝さーと思ってとった採決で思いもかけず1人の男が無罪を主張したことから長い長い1日が始まります。
無罪に投じた男も確たる証拠があってそう言ったわけでなく、ただ自分が有罪に投じたことにより1人の少年の一生が決まってしまうことが怖いから。一見、はぁ?こんだけ状況が揃っててそういうか?という気にさせられますが、「とにかく皆で話し合おう」という彼の言葉にはっとさせられました。
12人が実にバラエティーに富んでいて、それぞれがてんで勝手にしゃべりまくるので最初は「あぁもう、うるさい〜!!」と叫びだしたくなるくらいでした。ロシア人はとにかくよくしゃべる、というのを聞いたことがありましたがまさにそれを実感。でも、どんなくだらない話でもとりあえず聞くという登場人物の姿勢は見習わないといけないなーと。
しかも、その一見くだらないと思える話の中にとんでもない宝、というか今まで見えてこなかった別の視点が潜んでいて、話し終える頃にはなるほど〜と納得させられてしまったり、うーんと考え込んでしまったり。
最初はただ1人だった無罪が、話が進むにつれ1人また1人と無罪へと意見を変える人間が出現し、そのたびに強固な有罪派から日和見的だとなじられたり、時には同じ趣旨変え人同士で相手の主張転向を非難するものもいたり。
日頃は自分が納得した場合は素直に相手の意見を認めるのが当たり前、と思いますが、簡単に意見を変えることに対し「自説に責任をもて」という男の主張にも考えさせらました。
1人1人と有罪⇒無罪へと転向していく順番が、一見なんとなくに見えて実によく練られているのが気持ちよく。最初はあんなに嫌悪していたモスクワっ子のタクシードライバーが最後に語ったエピソードには大きく頷くというか、いちばん心を動かされてしまいました。
次々と浮かび上がってくる今まで見えてこなかった事件の全貌に、遂にこの男だけはもうどうしようもない、と思っていた強力な民族差別意識にむしばまれた男がとうとう陥落し、ようやく長かった論戦に終止符が、と思ったその時に提示される新たな、けれど自分たちにはどうすることもできない問題には深く考え込んでしまいました。
正論と正義と自身の生活を天秤にかけ、惑う11人の男の姿は恐らく観客全員に当てはまるのでは?
人は他者を背負って生きることは出来ないということを改めて思い知った瞬間です。
実にいろいろなことを考えさせられる映画でしたが、ストーリーを追うのとは別の部分で興味深いシーンがとてもたくさんありました。
中でも凄かったのはカフカス地方に根付くナイフを使った踊り。踊りだとわかっていてもあまりの迫力に恐怖を覚えてしまったほど。
あの激しさは大陸の多民族にもまれて暮らしてきた民ならではのもので、文化の奥深さというものをまざまざと見せつけられた気がします。
あとタイトルバックがとにかくカッコよかったです。シンプルだけどちょっとした部分が凝っていてお洒落でした。
それから内容とは全然関係ないですが、「津波」はロシア語でも「TUNAMI」なんだと実感しました。発音も日本語のまんま。さらに日本語の3,4,5とチェチェン語のそれも非常に発音が似ているというのも新しい発見でした。
チェチェンといえば定期的に挿入される少年が体験したチェチェンの凄絶な戦争シーンがいたたまれず、遠い出来事としか認識していなかったチェチェンとロシアの争いについて改めて考えさせられました。
とりとめがなくうまく纏められませんが。個人的には心に残る面白い映画でした。長いし、冒頭はかなり忍耐を強いられる部分もあるので誰にでもお薦めはできませんが、ロシアに少しでも興味がある方なら是非。
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